盤上のファンタジア 若島正 河出書房新社 2001.7.20
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(新装版)盤上のファンタジア 若島正 河出書房新社 2017.8.30
お薦めの詰棋書ベスト10にも入れているので今更であるが,順番として取り上げないわけにはいかない。(次の予定がバレバレ)
さて本書はいうまでもなく必読書なのだが,作品の品質については上田吉一の解説から引用するだけで済ませてしまおう。
今回あらためて若島作品の決定版をみると,オールラウンドプレーヤーらしく,各分野を網羅した実にバラエティに富んだ選局になっている。詰将棋歴が30年をこえると,過去の記憶は少しずつ風化していくものだが,彼の作品は今見ても古さを感じさせないのは流石だと思う。
作者自身による解説がたっぷり読めるのがなんといってもうれしい。
自作解説というのは,やってみればわかるが,なかなか難しいものなのだ。
最初に読んだときは第52番や第60番が逆算による創作と書いてあり衝撃だったが,そこら辺については当時すでに書いた(と思う)。
読者にとって幸運なのは,この本が書かれた時期にあるのかもしれない。
まえがきで若島正はこう書いている。
本書『盤上のファンタジア』は,伝統的なルールに則った詰将棋作品集としては,『恋唄』および『華麗な詰将棋』に続く三冊目になるが,これが最後の作品集であり,決定版のつもりである。
どういうことか?
この十年ほど,わたしは詰将棋から離れている。しかし永遠の夏休みが終わったわけではない。詰将棋の代わりに,チェス・プロブレムというもので遊んでいるのだ。
上田吉一のあとがきから再び引用する。
20世紀末の暮,久しぶり顔をあわせた。
「伝統ルールでやりたいことがなくなってきた」という彼の言葉はあたかも天からの声のように響き,私には返答する言葉がみつからなかった。そのとき彼はとてもおだやかな笑顔だった。
つまり詰将棋からしばらく離れた視点で,かつ詰将棋については総決算のつもりで本書は執筆されているのである。
つくづく,昔は一所懸命に詰将棋を作っていたんだなあと思う。
こんな文章が出てきて思わず笑ってしまう。
塚田賞受賞作や看寿賞受賞作も大胆に改作している。
第53番なんて全然別物だ。
「地獄変」もまるっきし新作。
前回紹介した『完全版看寿賞作品集』で,柳田さんは解説を書き直している。
もちろんこの数年後に若島正は詰将棋に還ってくることを知っている今だからより楽しめるのかもしれない。
それにしても,この時期に『盤上のファンタジア』と『極光21』を作った仕掛人は素晴らしい仕事を残したものだ。
(浅川書房の浅川浩氏か?)
鶴田賞だか門脇賞だか,詰将棋界に貢献した方に贈る賞があったと思うが,本当に表彰ものだと思う。