詰棋書紹介(97) 詰将棋工学母艦


詰将棋工学母艦 信太弘 1994.2.14

アカシア書店で35,000円(こちらだとなぜか50,000円)。ヤフオクでも先日20,000円を超す価格で落札された『詰将棋工学母艦』とはどんな本なのか。

当時の新進若手作家、信太弘氏による詰将棋手筋の分類を例題で示した本である。

目次を示そう。

このように手筋は12文字で表されている。
先頭の攻方玉方玉位移動捨駒効果は2文字毎にわけて理解する。
すなわち「攻方玉方玉位置を移動する捨駒効果」という意味だ。

ただ上の例はまだ分かりやすいが、目次を拡大してもらえれば分かるように、解説を熟読して、例題を並べててとなかなか理解するのに苦労するものがたくさんある。

解説も次の調子。
これ熟読すると誰の作品の解説かわかるのだが、どうだろう?
末尾に正解を載せておくので、我と思わん方は考えてみてください。

 盤上に受信機能がなく、しかも攻方が捨合を取らずに大駒を機能転移できる時、その合駒は後発する受信機能体と同様にこれを直接取れる物でないと意味がない。本作で言うなら9手目17飛に対して27香合や37桂合が有効なら57桂合1枚で間に合うわけです。その際は、86馬、88玉、97馬、89玉に19飛で第三禁手のため桂香歩合が無く強い合駒を取って詰。これに対抗して九段目への機能転移を完封すべく受信機能を合わせ持つ機能中継合を連続的に打つ物を[4]受信機能内蔵型とします。

このタイプの解説が1000局の例題についている。
手の意味を分析して書くのだから著者の苦労は大変な物だったろうが、これ一体何人の人が読んだのだろう。
校正した柳原さんは読んだのだろうから、その苦労は想像を絶する。

それでは、なぜこの本が現在も高値で流通しているのだろうか?
先日某氏から2冊贈呈していただいたので、つみき書店で5,000円で販売したらすぐに売れてしまった。

それはおそらく本書の解説が読まれているのではなくて、コンパクトな本に1000局の傑作・好作が集められているからだろう。筆者のように著者と同時代に詰将棋の世界に入った者にとっては、「記憶に残る作品」のオンパレードがうれしいのだ。

無人島に持って行く1冊の本に昔の『チャート式数I』を選ぶ人がいるように、詰将棋ファンだったら『詰将棋工学母艦』を選ぶという手はありだ。
なぜなら『詰むや詰まざるや』は200局で少なすぎるし、もう覚えてしまっている。『極光21』ではため息が出るだけだし『極光II』は難しすぎる。『昭和詰将棋秀局懐古録下巻』は物理的に重すぎる。
『工学母艦』1000局は、案外悪くない選択かもしれない。
(1冊入荷したので近日中につみき書店で出品します。是非ご購入を!)


著者の信太弘さんから先日年賀状を受け取った。

長いこと入院されていた由。

退院したとは書いていないが、おそらく退院できたのだろう。
おめでとうございます。

さて、正解は次の作品でした。

山田修司 近代将棋 1963.11

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