詰棋書紹介(94.2) 特別懸賞出題[2] 結果発表<第2問>

詰棋書紹介(94)

【問題】
次の作品の狙いの一手を答えてください。

という出題をした。
「狙いの一手」は鑑賞者の主観によるので正解というものはない。

<第2問>

柏川悦夫 『詰』第95番 詰パラ1965.4




84角を働かせるために、72歩成としたい。
そのためには72飛を捌く必要がある。

33桂不成、同歩、31と寄、51玉、43桂、

この手は龍を取る前に逃げ道を塞ごうという目的で、
同歩ならば
52飛成、同玉、54飛、

【変化図】

以下、合駒する一手に、62銀成、同玉、72歩成から角を成って簡単だ。
そこで43桂は取らずに逃げるのが正解になる。

   61玉、62飛成、同龍、72歩成、同龍、
同香成、同玉、73飛、

81玉なら82銀成から83香だ。
次は開き王手で馬を入手できそうだ。

   61玉、51桂成、同玉、75飛成、

次に55龍と回れたら鍋に入れたも同然。

   84香、73角、52玉、55龍、43玉、

【失敗図】

ところが打歩詰。
鍋に入れたと思いきや、鍋をひっくり返してしまうこのルールの素晴らしさよ。

しかし「ゆび」派ではない「つめ」派には時間を巻き戻す裏技が存在する。
17手目に戻れば解決するのだ。

75飛不成、

角を取る際に勢い余って成ってはいけない。
不成と獲る手が正解だったというわけだ。
以下、

   84香、73角、52玉、55飛、43玉、
44歩、

これで44歩が打てるという仕組みだ。
ずっと「何のためにいるの?」と疑問だった24銀が動き出す。

   同玉、35銀、44玉、52飛成、同玉、
62角成、34玉、44馬、52玉、62銀成 まで33手詰

【終局図】

さて、これで作意を確認した。

で、「狙いの一手は?」という設問に素直に答えると

占魚亭 7五飛不成

という解答が正解だと言えるだろう。

でも、オオサキさんは次のように言っている。

オオサキ 作意を追っても初手の意味が分からない

【初手33桂不成】

そう、この初手は何のためだったのか?

実際に解いた人なら当然ながら意味を分かって捨てているはずだが、解けずに(解かずに)作意を並べて鑑賞しているだけの我々はこの手の意味は何か・この手の順序を限定する仕組みは何か・この応手はなぜ最善なのかをつねに注意している必要がある。

作意を追っただけでは、確かに25桂を消しておく意味も、32歩を33歩に動かしておく意味も見いだせない。

それでは初手33桂不成を省略して手順を進めていこう。

鍵は55飛の局面にある。

この局面だけを取り出してみれば、気づくはずだ。
「大駒は近づけて受けよ」という諺もある。

そう、以前は55龍で検討した局面だった。53合駒は62角成、43玉、53馬で無効。
54中合は同龍で43に逃げることができなくなるのだから考慮外。

そこで55龍を55飛と表返しした瞬間に罠を仕掛けている。
「そうか不成か!」と浮かれた瞬間に隙ができ、中合を見落とすだろうという作者の計算がある。

夜中に一人でこういうことを思いついた瞬間の柏川さんの顔を見てみたいと思うのは私だけだろうか? いったいどんな顔をして、こんな悪いことを考えているんだろう。

この記事を読んでいる方なら以下は蛇足だろうが、詳しく書いておこう。

   54歩、

これは同飛とはとれない。
龍ではないので、同飛なら43玉で一大事だ。

しかし、放置して62角成とすればよい。

62角成、43玉、45飛まで

ということは、54歩と同様に、54香・54桂もだめだとわかる。
弱い駒では45飛に対応できない。
かといって飛・金では強すぎて同飛で困る。

   54銀、

そこで45飛を同銀と取れる54銀が有力候補に挙がる。
しかし、銀もまだ強いのだ。

(54)同飛、43玉、44銀、55玉、56角成まで

54銀の中合も詰んだ。

しかし将棋の駒はもう1種類残っている。

   54角、

【失敗図】

私は以前からこのような「作者が解答者を誘導したい局面」を【紛れ図】と呼びたいと思っているが、現在はまだ「紛れ」がもっと広い意味で使われているので【失敗図】という名称を使っている。

54角で以下はどう攻めても不詰(ツマズ)。

それでは冒頭の2手(33桂不成、同歩)を経た図ではこの局面は【変化図】になるはずだ。

【変化図】

なんと、わずか3手で詰む。

(54)同飛、43玉、32角まで

その効果が手順の後で現れる手を伏線という。
この作品の初手33桂は作意にはその効果が出てこない。
変化にその効果が現れるので変化伏線という。

そこで私が想定していた正解は次の通り。

変化伏線の初手33桂不成

山路大輔 初手33桂生が大事な伏線。これを省くと55飛に54角合の妙防で逃れる。
オオサキ 作意を追っても初手の意味が分からないので狙いの一手は変化に備えた初手のはずだが、その意味付けを見つけるに手こずった。21手目55飛に対して54角と中合する手があり、取って43玉に32角打ちのスペースを作るための初手が伏線。


本作は「誤解狙い」でつくられた作品だろうか。
誤解した人がいるとして(いると思うが)、その終局図は次のようになる。

25桂と22とがいかにも不自然だ。
働きが悪い。
31と、22との2枚を配置して初形41玉の形にする意味がわからない。
だが、43桂、同歩の変化で54飛に42玉としたときにと金が2枚必要になるようにつくってあるのは作者の用意周到なところだろう。

ということで、何かおかしいと感じるようにも思うのだが、それは作意を知っているからの感想かも知れない。

さらに鑑賞するとすればこの初手33桂不成を実現することの難しさを理解することだろう。
作る立場になれば直ぐに分かることだが、33桂不成に51玉の変化がある。
この変化は今までの順とは別の形で詰むように作らなくてはいけないということだ。

パラで発表した際には解答者21名中13名が誤解という結果だった。

「詰棋書紹介(94.2) 特別懸賞出題[2] 結果発表<第2問>」への2件のフィードバック

  1. 柏川さんのある一面を窺わせる伏線物。
    余分な配置を置かずに成立させる初手。
    初級者・中級者だけでなく全鑑賞者に、
    「ぜひ欲しい 二手目の変化 説明を」
    解答せずにぜいたく言ってすみません。

    1. 2手目51玉は作意同様に進めて75飛不成のところで72(63)飛成とします。
      84馬に41桂成とできるのがポイントで同玉、61龍、51合、31とまで。

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