詰将棋入門(125) 飛車発生+の伏線

山田修司『夢の華』第38番 近代将棋1963.11

天才少年として名を馳せた山田修司が詰棋界から足を遠のけて早6年、結婚し落ち着いた30歳前後、再び詰棋界に復活したその復帰第1作。塚田賞を受賞した。

並べてみると意外なほど変化は深くない。初めて見るという方は幸運だ。是非挑戦を。

金があれば1手詰。玉の周りは攻方の勢力が強いのだが、意外に決め手に欠ける状態。

初手55歩では45玉で後続手に困るので、まずはこの一手だろう。

55銀、43玉、44銀上、34玉、

18龍が閉じ込められており、活用するとしたら縦に動かすしかなさそうだ。
なので、25銀に手が行くのだが、ここは慌てずに、紛れ手順を確認してから進もう。

33桂成、45玉、46歩、54玉、

【失敗図】

打歩詰で利き止まりだ。
27馬、同と
としても歩しか入手できない。

この局面で55歩、同Xとできたら43銀不成以下簡単に詰む。
ではそのXはどこから持ってくるのだろうか。
それが本局の主題なのだ。

【再掲図】

ここから伏線手順がはじまる。このブログでは伏線を「作意から切り取っても問題なく進行するが後で不詰に至る一連の手順」といった意味で使用している。
問題なく進行するが不詰に至ることは既に確認した。

25銀、同玉、26歩、34玉、14龍、24香、

先程やってみたかった25銀だ。
26歩に24玉だと3手詰。
34玉と戻る手にいよいよ龍を活用と14龍と飛び出すと…間駒選択だ。

仮に24香としたら……

33銀成、45玉、44銀成、

【変化図】

同玉の一手に24龍、53玉、63歩成まで。
間駒がなんであっても同様に詰むので、24への間駒は……

   24飛合、

44銀成を同玉でなく同飛と取れる24飛合が正解だと分かった。
しかし、この飛車が55の地点での打歩詰とどう関係があるのか。

その関係を強引に作り出す妙手が登場する。

25龍、

45玉には36馬まで。

   同飛、33桂成、45玉、46歩、54玉、

33桂成に24玉は25歩で飛が手に入るので簡単。

25銀から25同飛までの8手が伏線である。
【失敗図】と比較して、14銀と18龍を消費して、25とを25飛に変化させたことになる。

36馬、

伏線を回収する手段が36馬。

   同歩、55歩、

見事、打歩詰を打開することができた。
 
   同飛、43銀不成、53玉、63歩成、44玉、34成桂まで25手詰。

図面では34桂成となっているのはkif2gif.exeのバグと思われる。
もうサポート期間終了と言うことで直してもらえない……。

伏線手段で玉方と金が飛車にすり替わりその利きを止めている35歩を動かして打歩詰を打開するというナラティブも素晴らしいが、それを龍と馬を捌き捨てるという見栄えが良くかつ効率的な手段で実現するのがもう完璧です参りましたという感じだ。
作意では33桂成で、飛合を出す変化では33銀成というのも面白い。
この飛合を出してかつ打歩の構図に変化する形から作り出したのだろうか。

ところで本作は「森田手筋」かというと否だ。
狭義の森田手筋は(1)打歩詰の局面に至ってから(2)取歩駒を合駒によって発生させ、(3)アンピンすることにより打歩詰を打開する。

本作はむしろ伊藤看寿の図巧第1番の発展形だ。
図巧1番は(2)16角を56角に移動させ(3)74香を動かして92歩を実現する。
本作は(1)24飛を発生させ(2)25に移動させ(3)35歩を動かして55歩を実現する。
この(1)が新しい。
森田手筋の新しさ「取歩駒を合駒で発生させる」と新しい点が一致しているので混同されがちである。


「詰将棋入門(125) 飛車発生+の伏線」への1件のフィードバック

  1. 取歩駒の発生は看寿以前にもあり(含む単純生成)、
    看寿は移動により取歩駒を生成(それ自体よりも全体手順)、
    (森田の意図?の)森田は合駒・一駒消去の原形復帰・アンピン)、
    現世の構想はほぼすべてが前世からの流れとそれらの組み合わせ、
    というのが小生の実感。

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