詰将棋入門(132) 積分

上田吉一「積分」『極光21』第73番 詰パラ1974.1改


若手作家たちに大きな影響を与えた「積分」。
「詰将棋雑談」でも取り上げた作品だが、「入門」でも登場。
『怒濤』の「メタ新世界」の参考図として紹介したが、図面と作意手順の紹介だけだった。
途中図と動く将棋盤で解説できるのはwebの特徴。

4枚の香が期待を膨らませる。

45桂、同歩、44金、62玉、74桂、同歩、
53銀、同香、42飛成、63玉、

ここまでが序奏。
74桂が大事な事前工作。
この手の意味はいのてつさんのコメントを参照のこと。

64銀、同玉、62龍、63銀、

ここらかは玉方の持駒も表示。
63の間駒は65歩以下とられる間駒。
これを巨椋鴻之介は揮発性の間駒と呼んだ。
飛車を残しておかなければいけないのはすぐわかる。
桂馬はあとで77桂までの詰みがあるから論外。
角銀の選択だが普通はたくさんある銀を選ぶだろう。
それで正解。

65歩、同玉、63龍、64飛、

74桂、同歩としておいた効果で、74龍の見せ手がある。
つまり間駒に横利きが必要。
金は出払っているので飛車の一択。

同龍、同玉、62飛、63銀、

14手目と似た局面になった。
主な違いは持駒のみ。
「歩4」が「銀歩3」になっている。
つまり「歩」を無条件で「銀」に替えることが出来るということだ。

65歩、同玉、63飛成、64飛、同龍、同玉、
62飛、63銀、

これで「銀2歩2」。

65歩、同玉、63飛成、64飛、同龍、同玉、
62飛、63銀、

「銀3歩」。
持駒が強力になって得をしているようだが、当面銀の使い方は歩と変わらないから局面は膠着しているという見方もできる。
しかし、銀の数は4が上限。
次は変化が起きるはず。

65歩、同玉、63飛成、64飛、同龍、同玉、
62飛、63角、

「銀4」。
そして変化が起きた。
間駒で角が入手できる。

65銀、同玉、63飛成、64飛、29角、

玉の周囲はほとんど塞がっているが、僅かな隙間から遠角で狙う。
気持ちのいい一手だ。

   38と、同角、同金、64龍、同玉、
62飛、63銀、

47銀合は銀を使い果たしてしまうので、64龍、同玉、62飛に桂合しかなく早く詰む。

65歩、同玉、63飛成、64飛、同龍、同玉、
62飛、63角、65銀、同玉、63飛成、64飛、
47角、

角が歩に変わるが、歩を銀に替え、銀を角に替え、また角で攻めることが出来る。

   56歩、同角、同香、64龍、同玉、
62飛、63銀、65歩、同玉、63飛成、64飛、
同龍、同玉、62飛、63角、65銀、同玉、
63飛成、64飛、同龍、同玉、62飛、63銀、
19角、

これで香が1枚移動した。
次は55香を動かす。
玉方は抵抗して時間稼ぎをする。

   28歩、同角、同金、65歩、同玉、
63飛成、64飛、同龍、同玉、62飛、63角、
65銀、同玉、63飛成、64飛、同龍、同玉、
62飛、63銀、37角、

28金と外方に追いやられては、もう観念するしかあるまい。

   55歩、同角、同香、65歩、同玉、
63飛成、64飛、同龍、同玉、62飛、63角、
65銀、同玉、63飛成、64飛、43角、

次の狙いは53香をずらすこと。
今度は43角と上から角を打つ。
このように繰り返しばかりのようで繰り返しではない手順が素晴らしい。

   54歩、同角成、同香、64龍、同玉、
62飛、63銀、65歩、同玉、63飛成、64飛、
同龍、同玉、62飛、63角、65銀、同玉、
63飛成、64飛、同龍、同玉、62飛、63銀、
42角、

これで最後の51香も動かざるを得ないということだ。

   53歩、同角成、同香、65歩、同玉、
63飛成、64飛、同龍、同玉、62飛、63角、

もう玉の周囲は完全に塞がっている。
ここからは収束だ。

同飛成、同玉、52角、同玉、43銀、63玉、
54銀成、同香、

65玉と潜られては王手がないので52角は非常手段だったが、香を入手したので上部は塞ぐことが出来る。

65香、64角、55桂、52玉、43桂成、41玉、
42銀、同角、

65香で上部を封鎖して、55桂、同香なら54から銀を打っていけば数で圧倒できる。
そこで64角合が巧い手だ。
ささと逃走を図る玉を援護している。

同成桂、同玉、53角、32玉、33香、同金、
同金、同玉、

しかし清算してさっぱりしてもまだ手には金銀3枚。
大団円も間近だ。

44銀、24玉、42角成、14玉、15銀、同と、
24金 まで197手詰

「寿」は歩を桂に替えてと金を剥がすことによって持駒が歩に戻った。
「積分」は龍追いをカットしてぎゅっと圧縮しただけではなく、歩から替えた角をこれまた間駒で歩に戻す。
つまり間駒濃度が極端に高い作品なのだった。(どなたか計算してみては?)

「詰吉」名義の「使っても減らない角」を豪華絢爛に展開した作品という印象もあるなぁ。

「詰将棋入門(132) 積分」への2件のフィードバック

  1. 実は74桂を省いて進めても、65歩、同玉、63飛成のとき64銀には74銀、同歩、同竜で詰むため64飛の一手で、以後の作意が成立しているように思えます。

    では何故74桂と跳ねておくのか?
    秘密は29角の時の応手で、38との所で38金!とする不利合駒があるのです。
    以下、同角、同と、64竜、同玉、62飛、63銀(※)と進み
    1)65銀は同玉、63飛成、64飛、同竜、同玉で千日手。
    2)65金は同玉、63飛成、64金!で逃れ。

    74桂、同歩を入れておけば(※)の局面から、同飛成、同玉、73金、同金、同玉、74歩から詰む、という深謀遠慮の伏線なのでした。

    1. そうか!最初のサイクルから飛合の時点では銀を間駒で入手しているんでした。
      『極光21』にはちゃんと解説してありますね。
      変化・紛れを殆ど読まない悪い癖が出ました。
      ご教授に感謝します。
      本文を書き直します。

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