詰将棋入門(137) 五月晴

上田吉一「五月晴」『極光21』第20番 詰パラ1972.5


『怒濤』でも図面と作意は紹介したが、この連載でも当然登場する。

長編なのでどんどん作意を並べていこう。

49香、46飛、

作意は49香だが、48、47でも同じようだ。
対して応手が46飛の移動中合。

間駒は金・銀しかないので取られて簡単なのでできない。
とはいえ34玉は56馬から46馬で詰む。(この変化は長いが省略)
この46馬を消すために46飛の移動中合が成立する。

同香、34玉、35飛、24玉、25金、13玉、
14金、同玉、47馬、24玉、33飛成、同歩、

ここまでが序奏。
いよいよ画期的な趣向手順のはじまりだ。

この作品までの連取り作品ならば、歩は5段目に並んでいて、25飛、13玉、14歩、同玉、(飛を動かして歩を取る)という形だ。
ところが本作では歩は3段目に並んでいる。
どうやってこの歩を取っていくのか。

94飛、

最遠打から始まる。
桂香は盤面に出払っているので間駒は飛金銀しかない。

84飛、

金銀は取って簡単なので飛合だ。

同飛、同歩、25飛、

飛合の結果、攻方にしてみれば飛車を減らさずに83歩を84歩に動かすことができた。

   13玉、14歩、同玉、85飛、

そしてその吊り上げた歩を狙いに限定移動だ。

   24玉、84飛、

これで1サイクル。
15手目の94飛が84飛に変わった形だ。

   74飛、同飛、同歩、25飛、13玉、
14歩、同玉、75飛、24玉、74飛、

1サイクル10手でだんだん歩が減っていき、飛車が近づいていく。

   64飛、同飛、同歩、25飛、13玉、
14歩、同玉、65飛、24玉、64飛、

   54飛、同飛、同歩、25飛、13玉、
14歩、同玉、55飛、24玉、54飛、

   44飛、同飛、同歩、25飛、13玉、
14歩、同玉、45飛、24玉、44飛、

   34飛、同飛、同歩、25飛、13玉、
14歩、同玉、35飛、24玉、34飛、

   同玉、

33歩が消去されて34飛。
これは同玉と取るしかない。
ここからは収束に入る。

43馬、24玉、25馬上、13玉、14歩、22玉、

21馬を43馬と動かしたので、14歩が打歩詰でなくなり、下段に落とすことができた。

44馬、33歩、同馬、31玉、

44馬に21玉は22歩、31玉、26桂以下。
33歩の捨合で26桂を避ける。

32馬、同玉、26桂、34歩、同香、21玉、

馬を捨て26桂を実現。
直接33合では43馬で簡単なので、またも焦点に34歩の中合。

32香成、同玉、43馬、31玉、32歩、21玉、
22歩、同玉、34桂、21玉、

29桂が34桂と跳ねて、いよいよ詰み形が見えてきた。

31歩成、同玉、42桂成、同銀、同馬、21玉、
22歩、同玉、33銀、21玉、32馬 まで113手詰

一列に並んだ歩の連取りの作品は伊藤看寿『将棋図巧』第39番のように開き王手の際に駒を取っていくものが主流だった。
本作は間駒を利用し、遠くから消していくという画期的な作品だった。

発表時の大学院担当は若島正。引用しよう。

☆上田吉一氏・伊藤喜和氏・小生の三人が初めて会合を持った時、上田氏から見せられたのが本作の原図だった。三人寄れば何とやら、一二筋の配置をいじくり廻した揚句、完成図を得た。その後、変化イの無理詰のような詰め方や、終束44馬での一歩稼ぎなどを発見して、漸くこの最終図に到達したという訳。

変化イとは2手目34玉の変化のこと。
また伊藤喜和氏とはもちろん現在の伊藤果八段である。

作者の言では、この手筋の角版も同時に創ったらしいが、どうしても5小節しか表現できず、捨てたとの。

5小節で十分だと思うのだが……、のちに「モザイク」に組み込んだということだろう。

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