詰将棋入門(145) 不利間駒と二重の錠

王茂雄 詰パラ1967.2

王茂雄は小峯秀夫の変名。
不利間駒とは最近の用語で、当時は飛先飛歩の玉方応用と呼ばれていた。

本作を理解するために、まずは紛れ順に入る。
いつもの手続きだがお付き合いをお願いする。

大駒4枚で囲んでいるので、41龍と51金、84角と62銀が交換になり、83金の質駒を94銀が喰えたら、あとは88龍と23角でなんとかなりそうな勘定だ。

71香成、同玉、51龍、同銀、72金、同玉、
83銀成、61玉、

83銀成に同玉は93角成以下詰む。
他にも変化はあるが省略する。

ここから73角成とするために玉を引き出したい。
そこで64香が好手、52玉に63香成を目論んでいる。

64香、63香、

そこで玉方は63香と中合をして63香成を拒否するのだ。

(63)同香不成、52玉、62香成、

63香成は拒否されたが、代わりに持駒に香が入ったので釣り合いは取れている。
同香不成、52玉に41角成でも攻めは続くが、ここで62香成が後で効いてくる好手だ。

   同銀、41角成、43玉、44香、同玉、
66角、

貰った駒で44玉と呼び出せる。
そこで88龍を活用するために66角がわかっていても気持ちの良い捨駒。

   同歩、84龍、54歩、

54の間駒は取る一手だ。

(54)同龍、同玉、55金、43玉、35桂、

34に駒を打つために35桂が無駄のない捨駒。
このような効率の良い攻めは快感だ。

   (35)同歩、44歩、33玉、45桂、同桂、
34歩、

ここからは手順に攻めていけば良い。

   (34)同玉、52馬、33玉、43馬まで

【誤解の終局図】

最後に62香成の効果が分かる。
この62香成や35桂が中・長篇の香りを引き立てる香辛料だ。

で、予想されている通り、これは誤解なのだ。

応手を間違えている。
もったいぶらずに正解を教えると次の手だ。

22手目54歩。この手が間違えている。

54の間駒はなんであろうと次に同龍と取られて攻方の持駒になる。
巨椋鴻之介のいう揮発性の間駒だ。
それだったらなるべく価値の低い駒、ここでは歩が正解ではないのか。

正解は……

   54飛、

なぜ歩でなく飛なのか。それは手順を追えば明らかになる。

(54)同龍、同玉、55金、43玉、35桂、同歩、
44飛、33玉、45桂、同桂、

【失敗図】

44飛のおかげで34歩が打てない。
打歩詰の禁というルールがわざわざ攻方に歩でなく飛車を渡すという不思議な現象を引き起こすのだ。このルールは詰将棋のためにあるルールだ(と思う)。

それでは、どこで手を変えなければいけなかったのか。

図は54飛合を取ったところ。
ここから飛車が線駒であることを利用して、間駒で歩に替えるのが定跡だ。
ところが、この図に至った段階ではそれができない。

実は本図には2つの錠がかかっている。
解明するには鍵を2つ見つける必要があるのだ。

【再掲図】

それではいよいよ作意を並べよう。

71香成、同玉、81歩成、

3手目から先の手順は間違えていたということだ。
【失敗図】に至るまでかなりの変化・紛れを乗り越えてきたのに、詰将棋解答選手権だったら途中点が1点も貰えないという厳しい構成だ。(解答選手権は4手毎に途中点が貰える)

   61玉、71と、同玉、

これで82歩が原型消去された。
この4手の伏線手順が第1の鍵だ。

51龍、同銀、72金、同玉、83銀不成、

83銀不成が第2の鍵。
作意を進めるのを一時中断して、第1の鍵と第2の鍵の関係について説明する。

83銀不成は打歩回避に直接関係する手なので、手順を進めればその意味は分かるが、82歩の消去は何のためかは作意を辿っただけでは分からない。

83銀不成は収束に役立つのだが、そこに辿り着くまでには不利な手だ。
73角成に同玉と取られてしまうので指しがたい手になっている。
いや、それどころか普通に攻めると詰まない。

(82歩を消去せずに83銀不成だと……)
   61玉、64香、52玉(63香の中合をしない)、
63香成、同玉、73角成、同玉、64金(!)、
62玉、

【失敗図】

実は上の図で82歩が邪魔駒なのである。
ここから72銀成と攻めても同玉で何ごともない。
82歩がなければ81龍ができるので72銀成を同玉と取れずに以下詰むという仕組みだ。

で、作意に戻る。83銀不成から

   61玉、64香、63香、同香不成、52玉、
62香成、

既に書いたが、後々に52馬を作る捨駒。

   同銀、41角成、43玉、44香、同玉、
66角、同歩、84龍、54飛、

さてここから83銀不成とした理由が明らかになる。

(54)同龍、同玉、74飛、64香、同飛、同玉、
74銀成、

これで54玉に戻せる。
持駒は「飛金」だったのが「金香」になっている。

   54玉、55金、43玉、35桂、同歩、
44香、43玉、45桂、同桂、34歩、

これでやっと34歩が打てた。

   同玉、52馬、33玉、43馬 まで47手詰。

まとめると次のようになる。

  1. 飛合の妙防に気づかないと37手詰と誤解する。
  2. 間駒で得た飛を香に変えるためには83銀不成が必要。
  3. その83銀不成を成立させるためには82歩の消去が必要。

山田修司や巨椋鴻之介ばりの、心を込めて磨かれ、さらに丁寧に包装された林檎のような作品だ。

小峯秀夫は重要な作家なのに作品集がない。
さらに本作は半期賞を逃しているせいで、あまり知られていないのではなかろうか。

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