詰将棋入門(158) 遠くから玉方成銀が近づいてくる

上田吉一『極光21』第74番 詰パラ1976.12


柏川悦夫同様に上田吉一作品も好きで好きで仕方ないものがいくつもあるのだが、その中でも本作は大好きだ。


大長編ではないが、それでも50手を超すので長篇のカテゴリー、どんどん作意を進めていこう。

29金、同龍、37銀、

序は18龍を処理する手順になる。
29金と英断して37銀が飛車も銀も取れない巧手。
同玉は1手詰だし、39玉も56桂で3手詰。
18玉は19歩、同龍、同飛、同玉、28角だ。

   17玉、28銀打、同龍、同銀、同玉、
29飛打、17玉、

これで玉を左右に動かすことができる2枚飛車のベルトコンベアが完成。
しかし玉が動けるのは17,18,28と狭いのに、37から48への逃走路と、打歩詰の陥穽でなかなかしぶとい玉だ。

単純に26角では…

26角、18玉、19飛、28玉、29飛左、38玉、

【失敗図】

と失敗する。左上の謎の配置に手順を絡めていかなければならない。

19飛、28玉、82角成、

19飛で合駒はできない。
香合なら26角、28玉、29飛までだし、
金銀合なら同飛、同玉、19金、17玉、26角までだ。

28玉に82角成と大事な角を棄てる。

念の為に変化を先に潰そう。
なにか怪しいと取らずに64歩などと中合すると…

   64歩、

29飛右、17玉、26角、18玉、19飛、28玉、
64馬まで

【変化図】

同馬でも良いが、37合で他の所への中合でも通用する手順を選んだ。

そこで作意は…

(82角成に) 同成銀、

さて、72成銀を82に動かした意味は直ぐにわかる。

29飛右、17玉、71角、

狙いは71角と打ち、82角成と銀を入手しようと言うことだ。

やはり変化から潰していこう。

   18玉、19飛、28玉、82角成、37桂、
29飛左、38玉、49銀、同桂成、28飛まで。

【変化図】

単純に逃げては、狙い通り銀を戦力に組み込めるのだから簡単に詰む。
それでは成銀を取られないように角の位置を変える中合か。

   62歩、

62歩と中合されても、持駒の「歩」を使えば、先の変化と同様に攻めることができる。

18歩、同玉、19飛、28玉、82角成、

【変化図】

以下桂合して同じ収束だ。
62の駒はもっと強い駒である必要がある。
それでは62香合はどうか。

   62香、

これなら82角成に64歩と合駒ができる。

(62)同角成、18玉、19香まで。

【変化図】

わずか3手で詰んでしまった。
そもそも狭い玉なのだった。
香など手に入れたらあっという間に詰んでしまう。
ということは金・銀もだめだ。
桂では歩とおなじで意味がないし。
で、最後に残ったのが作意となる。

   62角、

同角成、18玉に角では(直ぐに)詰まないのだ。
かといって歩を使ってしまっても…

18歩、同玉、19飛、28玉、
82角成、73歩、

【失敗図】

銀を入手できたものの、この図は詰まないのだ。
持駒「角歩」が「銀」に変わっただけでは詰み形になっていかない形なのだった。

そこで作意は…

(62)同角成、18玉、

しかるに持駒の角は減らずに盤上62馬を得た。
この馬をどう活用するのか。

19飛、28玉、73馬、

なんとまた直ぐに捨ててしまう。

   (73)同成銀、

さてこの局面、14手目の局面と比較していただきたい。
持駒は不変。右下の配置も不変。
唯一の変化は成銀が82から73に動いたことだけだ。

つまり10手をかけて82成銀が73成銀になった。

1小節10手の趣向が始まったのだ。

29飛右、17玉、62角、53角、

同角成、18玉、19飛、28玉、
64馬、同成銀、

29飛右、17玉、53角、44角、

同角成、18玉、19飛、28玉、
55馬、同成銀、

29飛右、17玉、44角、35角、

同角、18玉、19飛、28玉、
46角、同成銀、

29飛右、17玉、35角、26角、

さて、収束も近づいてここでは応手が変わる。
なぜなら26角合では同角の局面が最初の【失敗図】に持駒に角が追加されたようなものだからだ。

(26)同角、18玉、19飛、28玉、
29飛左、38玉、49角まで。

これは持駒に歩が余る。
そこで作意は18歩と使うことになるように26歩合となる。

   26歩、

あとは既に変化で確認した順だ。

18歩、同玉、19飛、28玉、
46角、37桂、

この桂は4枚目だ。
つまり26に桂合をしてしまうとここで桂合が残っていないので早いということになる。

29飛左、38玉、49銀、同桂成、
28飛まで69手詰。

短辺でもこのくらいの配置は往々にしてある…そういう所から成銀が近づいてくる奇想天外な趣向を出現させてくれるのだから上田作品にはだれもが参ってしまう。

本作、作者の解説では次のように書いている。

趣向作で、玉方駒の軌跡を描いた作品はごくわずかしか存在しない。
古典では「図巧」第1番、「舞玉」第1番辺りか。現代でも数作程度であろう。伝統ルールでは創作可能性の領域がせまいことが原因だと思う。

言及されている作品のうち「図巧」第1番はこのブログでも紹介している。現代の例では山田修司「幻影」と巨椋鴻之介「看寿頌」がそれにあたるだろう。

しかしこれらの作品と比べて上田吉一作は合駒を取ることで近づいたり離れたりしているわけではなく、純粋な捨駒によって成銀を動かしている点が画期的に進歩しているように感じる。
山本昭一「怒濤」と本作品が、のちの呼び出し剥がし(再帰連取)へのステップを築いたと思うのだが、識者の詳しい分析を期待している。

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