詰将棋入門(169) 離れていく馬

三代伊藤宗看『将棋無双』第26番 1734.8


アイデアをシンプルに表現した作品。

序は駒を解していく。

54金、同銀、43金、同銀、
同桂成、同玉、32龍、同玉、

随分とサッパリした。
ここで盤上この一手の快打が放たれる。

92飛、

上部が空いているように見える。
変化を一つだけ。

   33玉、42飛成、23玉、12龍、33玉、
42龍、34玉、45龍、23玉、24銀、12玉、
15龍まで

【変化図】

上部が広いようでも46馬の存在が大きく、難しい変化はない。
作意を進めよう。

   31玉、13馬、

手駒は残り銀1枚だが、馬で追いかけることができる。
13馬に間駒は32銀までなので逃げるしかない。
84銀がいるので、左辺に追っていくのが正解なのは明らかだ。

   41玉、23馬、51玉、
33馬、61玉、43馬、71玉、
53馬、81玉、

【失敗図】

これで素直に詰んでしまったら鬼宗看の作品とは言えない。
左辺に追ってみると、19馬の守りが良く利いていてうまくいかない。
ここから72銀は92玉、83銀行成、91玉で64馬ができない。
63馬は92玉、83銀打、91玉で73馬ができない。

それでは正解は……

   41玉、14馬、

玉から馬が離れて14馬が正解である。
その意味は直ぐに解る。

   51玉、15馬、

   61玉、16馬、

   71玉、17馬、

   81玉、18馬、

ここで馬が玉から離れていった理由が解る。
19馬を取ってしまおうというわけだ。
もちろん馬であるから取ることは適わない。

   同馬、82銀、92玉、93銀上成まで25手詰

逆に馬に取られる運命になるが、これで馬の利き筋がずれて詰みに至る。

82銀に72玉だと73銀引成以下29手になるが、当時は「妙手説」の時代であり、作者が飛車を取るのが本筋と92玉を作意にしたらそれで良かった。

巨匠が一筆書きで描いたアイデアスケッチのような1局だ。

いくつか変化を確認しておこう。

まずは16手目。
離れていこうという後方の狙いが見えたら、玉方は中合という応手が考えられる。
15馬に33歩と中合されたらどうなるのか。

   33歩、同馬、61玉、43馬、71玉、
72銀、62玉、63歩以下

それでは同じ16手目に24桂打と間駒された場合は。

   24桂打、同馬、61玉、51馬、同玉、
63桂、61玉、52銀まで23手詰

もっと離れてから中合というのも考えられる。
18手目に34歩と中合したのが次図。

   34歩、同馬、71玉、44馬、81玉、
54馬、92玉、93歩、82玉、83銀打、71玉、
72銀成まで29手詰

当然だが、いずれもちゃんと詰むようにできている。
しかしどれも手数が作意より長い。
現代だったら作意を「93銀成」までできりっと終わらせずにもっとダラダラと伸ばして創るしかないだろう。

「妙手説」と「現代ルール」。
どちらが詰将棋を芸術品とみた場合優れているかいうまでもない。

「詰将棋入門(169) 離れていく馬」への2件のフィードバック

    1. 雑談をお待ちください。
      でも松田さんは3手詰でも完全限定派なので意見は合わないでしょうね。

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