詰将棋入門(170) 4重にかけられた錠

三代伊藤宗看『将棋無双』第29番 1734.8

4つの鍵を順に開けていかないと、この宝箱は開かない。

初形を見て、いくつか見えてくることがある。
1つ目は51龍・42馬の重さ。これは62龍と捨てるのはまず確実。
1つ目は54と・55銀の重複感。64には42馬まで利いている。これは55銀が邪魔駒の可能性が大きい。77角の動きを制約しているのだ。

まずは平凡に攻めてみる。

64銀、84玉、95角、94玉、

【失敗図】

角を動かして開き王手するしかないが、何処に動かしても96香を取られて終了。
質駒が必要だ。

この局面に至るまでに、51馬と捨て、同金と質駒を作っておくのが第1の鍵。
そのためには51龍が邪魔駒となっている。第1の鍵を使う前に、この龍を消去しておくのが第2の鍵だ。

それではさっそく龍を捨ててみよう。

62龍、

   同玉、53馬、51玉、

【失敗図】

72飛の守りが強く、これは失敗だ。
62龍の前に第3の鍵を使う必要がある。
それは55銀の消去だ。

そこで初手から55銀の消去を考える。

64銀、

   84玉、73銀不成、同飛、

同玉なら55銀の原型消去に成功するのだが、これは同飛と取られる。

95角、94玉、73飛成、96銀成、

【失敗図】

飛車を質駒にした形なので、持駒に飛車があるが、92飛としても93歩合で冴えない。
これも失敗だ。64銀の前に第4の鍵を使う必要がある。

いよいよ作意を進めよう。
初手は…

82銀不成、

同飛は63とがある。
同玉は61龍で金が入手できるので簡単だし、84玉には66角で飛車が動いているので多数決で勝つ。

   同玉、92香成、73玉、

91銀は82に利きがあった。
94香は93に利きがあった。
ところが94香は手順が進むと玉に取られてしまう。すると93への利きが消えてしまうわけだ。
91銀・94香を92成香にしておくのが第4の鍵であった。

続いて第3の鍵を使う。

64銀、84玉、73銀不成、

今度は同飛だと…

   同飛、95角、94玉、
73角成、96銀成、93飛まで

【変化図】

第4の鍵の成果で93に利きが残っているので簡単。
したがって作意は…

   同玉、

これで第3の鍵を使うときが訪れた。

62龍、

今度は同玉とされても…

   同玉、53馬、51玉、33角成、

【変化図】

55銀を消去したお陰で33角成が可能になる。
これで42地点は多数決で勝利だ。

したがって作意は…

   84玉、

同飛でも同金でも質駒になるので玉は逃げる。

73龍、

この追い縋る龍の捨駒、3回繰り返せば「宗看流」の看板を付けても良い。
本作はその雰囲気だけ。
しかし第17番とどことなく似ている感じを受ける。
もしかするとどちらかがもう一方から派生した作品なのかもしれない。

   同玉、64と、84玉、51馬、

いよいよ最後の鍵を使う。
質駒作成の51馬だ。

   同金、

51馬の王手に何処に何を間駒しても95角からその駒を抜かれる。
したがって間駒ができないという仕組みだ。
後は簡単な5手詰。

95角、94玉、51角成、96銀成、93金まで21手詰

この51馬に間駒ができない仕組みの、その後の変遷について『この詰将棋がすごい!2010』に「超短編における中合対策の研究」という小論を書いた。『この詰2010』は入手困難なので、最近『夏休みの自由研究2021』に再録した。
読んでみたい方はこちらを参照してください。

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