詰将棋入門(171) 馬鋸2回の神局

三代伊藤宗看『将棋無双』第30番 1734.8

無双のなかで最も有名な作品はこれではなかろうか。
実はすでに「詰棋書紹介(2)」で一度紹介しているが、こちらでも取り上げる。

34飛成とする以外手がない局面のように見えるが、冒頭4手が深謀遠慮の伏線手だ。

23金、25玉、24金、同玉、

22金の原型消去。
23金も取ってくれず二度も押し売りすることになる。
これが何の意味を持つかは中盤まで進まないと解らない。

34飛成、同玉、33飛、45玉、
35飛成、56玉、55龍、67玉、

質駒の飛車を取り、龍で左下まで追い回す。

66龍、78玉、79香、同玉、
68銀、88玉、77龍、98玉、

角まで追い込んだ。持駒は歩1枚だが、48馬の活用が期待できる。

99歩、同玉、97龍、98銀成、

98に間駒を打つと、66馬までの詰み。
98銀成の移動合がギリギリの応手だ。

66馬、89玉、56馬、

67馬ではなく56馬と遠ざかる。
この意味は?

   99玉、55馬、

ご存じの方も多かろう。
これが馬鋸という趣向だ。

   89玉、45馬、99玉、44馬、

盤面をダイナミックに馬が動いていく。
この雄大さが人気の秘密だろう。

   89玉、34馬、99玉、33馬、

さて馬鋸の目的が見えてきたようだ。

  89玉、23馬、99玉、22馬、 

そして、ここで冒頭4手の意味が明らかになる。
攻方22金が居たのでは22馬とすることができない。
23金でもやはり23馬ができないので頓挫する。

   89玉、12馬、

この1歩入手が目的であったわけだ。

   99玉、22馬、89玉、
23馬、99玉、33馬、

ここからまた近づいていく。

   89玉、34馬、99玉、44馬、

1歩入手が目的であるので、89玉のときに78歩合とはできない。
手数が短くなってしまうという仕組みだ。

   89玉、45馬、99玉、55馬、

では歩以外の間駒だったどうなのか。例えば桂合されるとどうなるのか。

89玉、56馬、99玉、66馬、

78に桂合はできないのだった。

89玉、67馬、99玉、77馬、

さて、これで馬鋸も終了。玉は次のステージに送られる。

89玉、78馬、

龍追いで右辺に。

   同玉、77龍、69玉、
79龍、58玉、59龍、47玉、

銀の質駒を喰うところまでは簡単だが、収束は間近のはずなのに案外手こずる。
ここで軽い好手がでる。

57龍、38玉、37金、28玉、
27金、38玉、28金、

28金!
39歩、同玉、48銀では駒不足になる。
37金が実は邪魔駒で、いなければ85角成で持駒銀で詰むのだった。

   39玉、48銀、28玉、37龍、18玉、
19歩、同玉、17龍、18銀成、

なにやら見覚えのある形になった。
まるで手品のようだ。

82角成、

ここで解答者は馬鋸の再登場に気がつきヤンヤの喝采である。

   29玉、83馬、19玉、73馬、

こちらは近づいてくるだけの片道だけだが

   29玉、74馬、19玉、64馬、

この左右対称の手順に解答者は心打たれる。

   29玉、65馬、19玉、55馬、

右下の配置は本当に絶妙だ。

   29玉、56馬、19玉、46馬、

   29玉、47馬、19玉、37馬、

いよいよ本当に収束間近だ、

   29玉、38馬、

そして最後に止めのサプライズが用意されている。

   同玉、37龍、49玉、
39龍、58玉、59龍まで119手詰

なんと手順の対称性を印象づけられていた所に、詰上りは配置が完全に対称形。
神局と讃えられるのもむべなるかなである。

調べてみると本作にはキズらしいキズもない。

唯一のキズは、7手目の飛車打非限定だろうか。

作意は33飛だが、31飛でも詰む。
もちろんこれをキズだと攻める人はいないだろう。
このような打点非限定は無理に限定しようとする方が気持ち悪い。
ただ32飛では詰まないところが逆に気になる。
32飛は23玉で詰まないのだ。
31飛打と23玉には35桂があるので詰む。
完全非限定なら気にならないのに、32飛が駄目なので33限定なのか?と期待を持たせてしまうのが気になる原因だろうか。

逆に右下の配置で感心するのは馬鋸に対する中合対策だ。

下図は22馬に対して77桂と中合をした変化図。

歩を入手する直前に桂馬を中合して馬鋸をやり直しさせようという狙いだ。
この中合は単に手数を伸ばすだけの目的で、再び馬鋸で12歩を取られる運命に変わりはない。
通常(馬鋸の場合は)このような間駒を局面還元型無駄合とよび、ようは無駄な間駒だからしないことにしている。

ところが本局はちゃんと桂合も変化に収まるように作られているのだ。

すなわち42手目77桂合を同馬ととり、再び12歩を取って戻ってくる。
77馬まで戻った後、78馬とせずに、98龍と銀をとる。

以下、同玉、99歩、97玉、86銀、96玉、88桂まで。

となると玉方は77馬を許さないために78歩合をしてくる。

すると今度は歩が2枚になるので右辺に負って38玉の局面で…

39歩、同玉、28銀、49玉、59龍、38玉、39歩、47玉、37金まで109手

ちゃんと割り切れているわけだ。

この引き戻しの中合は玉方は桂馬を1枚しか持っていないので2回はできない。
53が成桂なのは従来7手目33飛に25玉と逃げたときの変化を詰むようにするためと言われてきたが(勿論その通りだと思う)、このように最初の馬鋸で中合をちゃんと変化にするためにも役立っていると言うことだ。

「詰将棋入門(171) 馬鋸2回の神局」への1件のフィードバック

  1. 「神曲のバンパイア~無双30番」と言う演劇。
    「ねえねえ、おばあちゃん。今日もお話を聞かせて。おばあちゃんの若い頃のお話」
    「飛車おばあちゃんは有名なヴァンパイアハンターだったんでしょ?」
    小生、これに刺激されて30数年前に一度は解決した無双第30番に取り組んだ(完全・完璧に忘れている)。
    79香、同王に77龍の思い込みでつまずいたが
    偏った思い込み・考えで水平的に多くの手を思いつかずの
    ミスだったが、これ以外はスラスラと。
    最終は見ごとと表現する以外にない対称形で終えたが、
    伏線の押し売りは面白いが、これもやさしい。
    総じて神局、奇跡とは少し言い過ぎではあるまいか?
    小生には「イリュージョン」!
    あるいはスゴイ、、イリュージョン。
    さながら銀2枚と龍の手のひらで横たわる絵は
    死せる王を想像してしまう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください