詰将棋入門(173) 大駒三連捨

三代伊藤宗看『将棋無双』第35番 1734.8

現代ルールで通用する短編。
『将棋世界』の詰将棋サロンに掲載される手数なので、初見の方は解いてみることをお勧めする。

83飛がとられそうな不安定な初形。
こういう局面でまず思いつく手は…

85飛成、

まずこの飛車を捨てたくなるのは私だけではないだろう。
72銀が質になっているので邪魔駒っぽいというのも裏付けとしてある。
ところが……

   同玉、95馬、74玉、

【失敗図】

65玉と83玉の2方向の逃走路があり、これは失敗だ。
どうも74玉を許せないということなので、初手から74飛と攻めてみよう。

75飛、

83飛を捨てないのならば、逆に守らなければいけないだろう。
83玉と飛車を取れば72飛成とできるので74飛は83飛を守っている。

   84歩、

とすれば間駒の一手だ。
さらに攻めると……。

93飛成、同玉、82角、94玉、

【失敗図】

まだまだ王手は続くがこの後85玉から96玉と逃げるのを阻止する手段は見当たらない。
これも失敗だ。
間駒された後、85玉を許してはいけないようだ。

そうしてやっと急所に手が行く。

85角、

正解はまずここを塞いでおく必要がある85に捨駒する。
これがしかし打ちにくい。
なぜなら83飛が取られてしまうからだ。

   83玉、

この形が持駒飛車1枚ではどうも詰むように見えないのが、初手をためらわせる理由だ。

95桂、82玉、72馬、同玉、73銀、

【変化図】

72馬から73銀が巧い!
同玉は83飛~63角成で桂馬が入るから詰むし。
71玉には81飛、同玉、63角成とこれまたこの桂馬で仕留めることができる。

そこで作意は

   同銀、

これで85が埋まったので…

74飛、

これに間駒だと…

   84歩合は93飛成、同玉、82銀、94玉、

【変化図】

先程の【失敗図】と異なり、以下72馬から95銀で詰む。
したがって間駒はできないので

   同銀、

これで74の地点が塞がった。
やっとこの手の出番というわけだ。

85飛成、

75が埋まっているので、同玉は95馬までの詰み。

   同銀、

取れる駒を動かしてからそこに捨てる演出をウムノフというのだった。

冒頭の6手が本局の主題で、あとはなだらかな収束である。

72馬、84玉、73銀、74玉、

64銀成、84玉、73馬、94玉、
95馬、83玉、73成銀まで17手詰

収束は流れているので、現代の短編作家だったらもっと短くまとめることを考えるだろう。

本局はウムノフのバリエーションでさらに銀を質駒の位置に動かすところから始まっている。
質駒目的が多いように思うが、本局は退路封鎖だ。

さらに最後の捨駒を同銀とすることによって(これをスイッチバックというのは同意しかねる)、
その結果、攻方の重量感のある大駒三連捨を玉方はたった1枚の銀がちょこちょこと総べて喰ってしまうという印象的なナラティブが実現している。
序盤の72馬~73銀~81飛の変化も印象的だ。

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