詰将棋入門(179) 2枚の邪魔駒の先に遠打

三代伊藤宗看『将棋無双』第59番 1734.8

狙いの一手を2枚の邪魔駒で隠蔽するのもさすがだが、細かいつなぎの部分に宗看のセンスが詰まっている。

盤面をまず大きく眺めると、44成銀は56桂で食べるための質駒のようだ。これは収束だろう。
48金も59馬の餌に見える。
また香が4枚とも使われている。これには意味があるのかどうか。

初手は持駒の飛車を打つよりなさそうだ。

66飛、75玉、65飛、76玉、75飛、

75歩を間接消去して75飛と綺麗な短篇の手筋。
75歩がなければ初手から75飛とできたわけだ。

   同玉、48馬、74玉、

75飛に67玉と逃げたときに、59馬と79馬の2枚が必要だと解答者に印象付けておくのも細かいテクニック。
入手した金で押し込んでいくとどうなるのか。

75金、73玉、84金、82玉、92歩成、72玉、

84金に62玉は52銀成から質駒の44成銀を喰って詰む。
92歩成に同玉は93金で簡単。しかし玉はのらりくらりと逃げていく。

73香、62玉、52銀成、同玉、44桂、41玉、
52銀、31玉、75馬、64桂、

【失敗図】

75香では48馬の動きを制限してしまうので73香。
以下、44桂で銀を入手して追い詰める。
ところが最後85馬に64桂合が詰まない。

そもそもこれで詰んでしまったら狙いは序盤の飛車の捨て駒だけだということになる。
宗看らしいガツンとした捨て駒が出てくるはずだ。

失敗図を眺めると79馬が完全に遊んでいる。
しかし、この駒を活用する方法は果たして存在するのだろうか?

正解手順に入る。
48金を入手した8手目の局面だ。

【再掲図】

正解はここで妙手が飛び出す。

75馬、

いきなり馬を捨てる。
これはインパクトある宗看の捨駒だ。
いったい、何のために!?

   同玉、57馬、74玉、

48馬を57馬と近づけたことに意味はあるのだろうか?
そしてさらに狙いの手順は続く。

66桂、75玉、74桂、同玉、

78桂が4手かけて自ら消えていった。
【再掲図】と比較してみると、78桂と79馬が消えて7筋の下方がスッキリした。

75金、73玉、84金、82玉、92歩成、72玉、

その意味が判るのはこの局面だ。

79香、

73香では失敗だったが、79香では間駒されてしまいそうだ。

   77桂、

ここで香が4枚で払っている意味が明らかになる。
香合ができないのだ。
そこで桂合だと……

同香、同成香、64桂打、

【変化図】

64桂の継ぎ桂が強力で簡単に詰んでしまう。
そこで作意は合駒できないので、

   62玉、

62玉と逃げることになる。
しかし、73香、62玉の局面と79香、62玉の局面でどこが変わってくるのか。

73金、51玉、62金、同玉、84馬、

またしても綺麗な84金の間接消去が飛び出す。
84金を4手かけて原型消去し、84馬と活用する道を拓くわけだ。

   61玉、52銀成、同玉、
44桂、41玉、51馬、

あとは予定通りの収束だ。

   同玉、52銀、42玉、43銀上成、31玉、
41銀成、同玉、52桂成、31玉、42成桂まで45手詰

【失敗図】に至る過程では41玉に対して52銀と打って不詰だったが、馬を引っ張ってきたお陰で51玉に対して52銀と打てる。この僅かな差を得るための75馬であり、78桂消去であったということだ。
宗看流のこれでもかこれでもかという重量級の捨駒を連発する作品ではないが、41玉か51玉かという僅かな違いを得るために79香という遠打が必要で、その遠打を心理的に隠蔽するために78桂と79邪魔駒を配する邪魔駒を配するという完璧な構成の作品だ。
宗看の作品には変化が長く難しい、そして妙手も配置してあるので難解だという作品が多いが、本作は変化に難しいところは無く、その意味でも私の好みなのである。

本作にはよく知られた手順前後のキズがある。

2枚の邪魔駒を消す順は交換可能である。すなわち、9手目66桂も成立する。

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