詰将棋入門(185) 飛車の双方不成

三代伊藤宗看『将棋無双』第90番 1734.8

現代においては、飛車の双方不成という主題だけでは37手詰を支えるには軽すぎる。
しかし不成がまだまだ新鮮な妙手であった時代を考慮して鑑賞していただきたい。
…とまぁ、こんな風に書くのが定跡だ。
しかし鑑賞していくうちに、作者の考えたことが直接伝わってくるこの大らかな造りが好きになってくる。
そして約束通り大駒が綺麗に消える構成に、流石は宗看だと納得してしまうのである。

どうみても玉の周りは攻方の戦力不足。
攻めの主駒は…32飛しかない。
その32飛の活用を35角が阻害している。
26歩がこの角の捌きを制限しているので、これは57角と捨てるしかないとわかる。
しかし単純に攻めていくと…

48金、同玉、57角、

これは同とでも同玉でも持駒金桂歩では戦力不足は明かだ。

   同と

【失敗図】

54馬の活用も同時に考慮する必要があるようだ。
そのチャンスは初手しかない。

27馬、

48玉は金が2枚あるので簡単。
このとき玉方には金合がないのが致命的なのだ。

   38歩、48金、同玉、57角、

今度は同じように攻めても強力な馬との連携が期待できる。
57角に同となら38飛成の一発だ。

   同玉、48金、

さて、タイトルに書いてしまっているし、ここは不成だろうと思われているだろうが、ものには順序というものがある。まずは成で攻めてみよう。

   同玉、38飛成、57玉、49桂、同金、

【失敗図】

これで2手目の合駒は歩が正解だったと確認できる。
この打歩詰はほどけない。かといって49桂に替えて58歩でも…

   同玉、38飛成、57玉、58歩、同金、
同龍、同玉、

【失敗図】

これもどうにもならない。投了だ。
やはりここは不成が正解だった。

同玉、38飛不成、

57玉には49桂、同金、58歩、47玉、37馬までをみている。

   47玉、37馬、57玉、

結果、馬が1筋左に寄れた。これが大きいのだ。

58歩、同金、同飛、同玉、59金、57玉、

さてまた打歩詰の局面。
49桂と打ちたいがまずは紛れを確認しておこう。

68金、66玉、76金、同玉、77金、75玉、
87桂、84玉、

【失敗図】

37馬の出番がない。
64に活用するには44飛がここに居られては困るのだ。
そこで19手目はやはり桂だったとわかった。

49桂、

   同飛不成、

もちろん同飛成なら58歩、同龍、同金、59飛までだ。
これで双方不成が実現した。

68金、66玉、76金、同玉、77金、75玉、
64馬、

64馬ができたので、手が続く。

   84玉、85歩、同玉、86金、84玉、

さて紛れを含め三度の打歩詰の局面。
最後は見事に馬を消して収束だ。

75馬、同歩、85歩、74玉、64とまで37手詰

さて本作を鑑賞して疑問点が二つあった。

一つは23手目76金だが、77金寄、75玉、76金としても良い。
これは迂回手順というもので余詰ではない。よく詰棋書にある「攻方は最短で」というルールで排除できるということもできる。しかし、87金ではなく75金の配置にすれば消せるのではないか?
これは調べてみると75金では9手目38飛成で余詰んでしまうことがわかった。
それでは仕方ない。

もう一つは、簡単に駒を2つ減らすことができそうなのに、宗看は何故そうしなかったのかということ。
見てわかるように9筋の2枚の香はほとんど働いていない。
このまま配置を左に1筋ずらせば、そのまま作意は成立しそうだ。

『将棋無双』は全体の趣向で全画配置を実現している。
そのために初形49の作品がどうしても欲しかった。
もしくは59の作品は既にあるので49にして採用したかった。
これらは宗看の創作力から鑑みて薄い線だ。
だとしたら他に何が考えられるか。
……桂香図式を創りたかったのだろうか。
よくわかりません。

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