この本の前書きを読んでいて驚くような記述があった。
ところが、最近、不思議にも余詰の投書などで、読者ファンの皆様から質疑を受けたり、ののしられるようになりました。
私の知らぬ間に、七段清野静男著の詰め将棋書が数冊も出版されていたのです。
ファンの皆様にもご迷惑をかけ、私も信用を失い、心にキズつき胸の痛い思いでいっぱいです。
本書は私が心血をそそいでつくりあげました。自信を持って同好の士におすすめします。
私の知らぬ間に、七段清野静男著の詰め将棋書が数冊も出版されていた……果たしてそんな非道なことが本当にあったのだろうか。
本人が書いているのだから間違いないだろうが、調べてみた。
『古今詰将棋書総目録』から清野七段の本をすべてリストアップすると次の通り。
- 詰棋精通 清野靜男 -- 昭和23.12.10
- 新作 詰と必至 清野靜男 野口書店 昭和27. 3.31
- 詰将棋精選 清野静男 日本将棋連盟 昭和38. 2. 1
- 新選 詰将棋 -名作・新作 清野静男 虹有社 昭和38. 5
- 将棋の急所-初歩から初 清野静男 高橋書店 昭和38.12.25
- 新書 新選詰将棋 清野静男 虹有社 昭和39. 4.10
- 将棋の手ほどきと新戦術 清野静男 梧桐書院 昭和39. 4
- 新選 詰将棋 清野静男 虹有社 昭和39. 4 頃
- 将棋勝ち方の秘訣 清野静男 高橋書店 昭和40. 4.10
- 新選詰将棋百題 清野静男 永岡書店 昭和40. 9
- 詰将棋新題 -新作100選- 清野静男 虹有社 昭和40.11.25
- 新しい詰将棋100題 清野静男 日本文芸社 昭和40
- 新しい詰将棋百題 清野静男 永岡書店 昭和41. 1
- 将棋必修・実戦詰将棋新題 清野静男 梧桐書院 昭和42.10.
- 将棋初段の急所 清野静男 高橋書店 昭和44.12.25
- 清野流詰将棋 清野静男 日本将棋連盟 昭和48. 9. 1
- 詰将棋新題 清野静男 梧桐書院 昭和48
- 実戦 詰め将棋 清野静男 西東社 昭和49.10. 5
- 一人で楽しむ 詰将棋 清野静男 有紀書房 昭和49 頃
- 実戦型・詰将棋秀作選 清野静男 梧桐書院 昭和50.11
- 棋力テスト 詰将棋新作選 清野静男 有紀書房 昭和50
前書きの続きはこうだ。
今日までに私は「必死と詰」、「新選詰将棋」中63題。「将棋世界の付録」と本書の4冊だけを著作しました。
本書は……14番(!?)だとすると、いったいこれはどういうことなのだろう。
当時は出版界もデタラメな世界だったと言うことでしょうか。
追記(2022.4.16)
コメントの磯田さんに教えていただいた『詰棋めいと』を読みました。
森田正司氏がまったく同じことを書いていたのですね。
詰将棋だけでなく、文章まで同一作をやってしまうとはオイラも大したものです。
森田さんは次の本を清野氏の著作でないのは次の3冊と考えました。
- 将棋の急所-初歩から初 清野静男 高橋書店 昭和38.12.25
- 新選詰将棋百題 清野静男 永岡書店 昭和40. 9
- 詰将棋新題 -新作100選- 清野静男 虹有社 昭和40.11.25
そして同じ内容の本をタイトルだけ変えて出しているのが次のもの。
- 新しい詰将棋100題 清野静男 日本文芸社 昭和40
- 新しい詰将棋百題 清野静男 永岡書店 昭和41. 1
清野七段が “知らぬ間に出版されていた” と憤慨している本について、見掛けより少しだけ数を減らせます。
ここでいう「本書」は14番で、14番の前書きが書かれた後の15番以降はこの際関係がありません。14冊のうち、著者が認めている詰将棋書が2,3,4,14番の4冊。
ところで、14番の前書きには詰将棋書に続いて、 “定跡書の著書は梧桐書院の「将棋の手ほどきと新戦術」のみ一冊です”とあります。 この本には詰将棋も10局あるので『古今詰将棋書総目録』には載せていて、それが7番です。
残りは9冊ですが、中に理由が分かるるものがあります。
1番は非売品で出版はされていないので対象外です。
6番と8番はどちらも4番と同じ出版社の再版ものなので対象にしなかったと考えられます。
残る5番と9~13番の6冊はやはり理由が分かりません。ただ、13番は10番の再版であり、12番も所在不明なのですがやはり10番の再版の可能性があります。
結局、「総目録」にある清野本21冊のうち、不審な本は実質4冊または5冊ということになります。
5~12番はの昭和38~40年、この年代に名の通った出版社が清野と名前を出しながら無断で出版するということはないように思えます。となると、清野七段の思い違い? それも考えにくい。何が起きたのか。
なお、この清野七段の、本人の知らない著書のことは『詰棋めいと』17号に森田さんが書かれています。しかし、ここでもその理由には触れられていません。
コメントありがとうございます。
4冊目の著作なのにリストでは14番目なのはなぜ?というつもりで書いたのですが、誤解を招く書き方だったようですね。
具体的に追記しておきました。
なお『詰棋めいと』は第19号でした。
それにしても高橋書店、永岡書店、虹有社は3社とも今も続いている立派な会社。当時どういう事情があったのかちょっと興味はありますが、まぁ昔の話ではあります。