長編詰将棋の世界(5) 5枚の桂馬を華麗に捌く

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。
作意・変化は棋譜ファイルをダウンロードしていただくことにして省略します。
短評は詰パラ掲載時より増量します。(名前は伏せません(^^))
解説文は元に戻したり、削ったり、増やしたりする予定。

選題の言葉 (2010.03)

 聴講生を募集します。大学院が短大や大学より易しいのは事実。だが大学院は、解いて楽しむ方より、読んで並べて愉しむ方が多いのも現実だ。しかし一人で並べているだけでは勿体無い。この詰将棋と言う玩具、茶の湯や歌仙といった遊びと共通する所があるように思う。出題者と解答者が共同作業で芸術的な時空を創りだすという点である。下手でも上手でも参加すると言うことが必須なのだ。あとからログを眺めても本当の面白さは理解しえない。いやなに、聴講生と言っても面倒なことをしようと言うのではない。解答を読んでからでもいいので、感想や疑問をお寄せくださいと言うことなのだ。
 中筋作。収束キズあり。しかし内容は満足頂ける筈。菅野若島作。易しいがうっかりにご注意あれ。

確か1人も聴講生の応募者は居ませんでした(T_T)

中筋俊裕 詰パラ2010.3


棋譜ファイル


☆まず序盤から考えさせられる。例えば初手44龍でかなり手が続く。しかし結論をいえば、初手44龍は22玉と逃げられて詰まないのだ。

☆冒頭に34香から23香成と23桂を消去するのが最初の見所である。龍で攻めても22玉で詰まないのに、香だったら22玉と逃げられたら尚更詰まないだろうと読みを打ち切った方は変化イをご研究あれ。

変化イ22玉は32香成、同玉、31桂成、22玉(同玉は51龍、41金、43桂、32玉、62龍以下)21成桂、32玉、44桂、33玉、35香、同銀、25桂、42玉、43香以下

☆さて、23桂の如き不自然な駒は邪魔駒に相違無いと見破った慧眼の士も、手順を進めて10手目の局面辺りから緻密な読みを要求される。

☆25香に対し24合は同香、同銀、同龍で詰むので23合。選択肢が角金銀桂香歩と多いが、いずれも同香成から35桂で良さそうだ。11玉には41龍があるので案外狭く、どうも歩か桂らしいと見えてくる。歩合は変化ロを参照されたい。桂合は同香成では不詰。取らずに34桂から24桂で詰みだ。と、いうことはこの最後の24桂を拒否する24合が正解とわかる。すなわち25香に対しては24、23と桂馬の二段合が出現した。

☆手順を進めて45馬11玉の局面でまた考える。41龍でどうも寄りそうだ。21合に23桂打から12玉なら31桂成。31への中合でも同じだ。31桂成を避けて22玉なら34桂から32龍でこれも詰む。高い合駒なら切って大丈夫だ。

☆さて、そろそろ作者のやりたいことが見えてきた。34桂を拒否する34中合が出現するというわけだ。すなわち、45馬には34桂合が正解とわかる。

☆すぐに34同馬だと21玉とかわされて詰まない。42龍と玉の可動範囲を狭めるのが有効だ。再び合駒読み。

☆選択肢は角金銀香歩。ここまできたら正解の手応えを感じる。一つ一つ潰していこう。金銀は34馬、11玉に22龍と切って詰み。角は34馬、11玉に41龍がぼんやりした好手。歩は変化ハを確認いただきたい。この中の44龍に合駒を準備するために、正解は香合と決定だ。

変化ハ22歩は作意同様に進めて23桂成、同玉、33馬、14玉、44龍以下

☆33桂同銀と質駒を用意し、作意は龍で銀を食らう。14玉の局面が最後の考え所だ。

☆筋としては25銀同香26桂なのだが、25銀には15玉で絶望に見える。ここで勇気を振り絞って25銀が打てたら解決だ。15玉は変化ニをご覧あれ、確かに捕まっている。

変化ニ15玉は16銀、26玉、22龍、36玉、27龍、46玉、48香、56玉、68桂、66玉、65飛、まで53手詰

増田智彬 不思議な攻防の展開でした。
須川卓二 起承転結を忠実に実践した見事な手順。収束は手順前後のキズということ?

☆最後のXが出題時にも触れたキズだ。33馬と25龍の手順前後の瑕と判断した。

手順前後X 同龍、同玉、35金でも詰。

作者 収束7手の乱れが非常に不満ですが、傷のない収束が作れませんでした。

今川健一 2度の桂合は巧み。24手目、初めは歩合、後で香合に訂正です。最後に竜も消えました。上手いものだな。それでも評価はB、御免ね。

☆C評をくださった方もこの瑕を重く見たものと思われる。

☆さて本作の醍醐味はなんといっても簡素な形から繰り出される桂馬の応酬。持駒桂4になった後にも34桂と中合で飛び出してくるとは驚きだ。

鈴木 彊 桂香の打替え成り捨て香合など十分楽しめました。
永島勝利 桂馬の取れる合駒3回。桂馬の威力と不自由さをともに感じ取れる作品ですね。
詰鬼人  桂を巧みに活用した好局。
篠田正人 乱打で粘るのは予想通りですが、果たしてこの桂をうまく消化できるか、という不安は見事に外れました。収束手順前後はあるにせよ、これだけの駒でまとめられたのが素敵です。2二竜と拾って詰む変化は出来過ぎの感もありますね。
小林 巧 62金はハグレっ子。24,23と二段桂合とは!!
加賀孝志 一番時間がかかりました。33同銀以下も中合有り変化読みも有り山有り谷有り苦しみました。いや一苦労。初手44龍の紛れも手が続くし香は離して打ちたくなる。
斎藤博久 桂香絡みの手筋でこんなに手が伸びるのは珍しい。
野口賢治 攻方の打ちたい所に捨てる24桂合1本で飛躍的に手数が延び、しかも内容的にも素晴らしい。半期賞作品もそうだったが少ない駒数から長手数を捻り出す得意な嗅覚をお持ちでないかと疑ってしまう。今後の長篇界において革新的な旗手であろうことは間違いない。
竹中健一 序の変化や途中の紛れが多く、難しかった…。
凡骨生 変則合から始まり途中持駒桂4を巧みに捌いている。
和田 登 一手一手の変化がややこしかった
小川悦勇 今川さんにヒントを貰いながら、途中で投げ出す始末。現在、中合恐怖症の私には難局です。中盤の駒捌きには「上手いなぁ」と、感心しきり。

☆銀1枚の守備駒でこれだけの攻防が展開するとは奇跡的で、巧く出来ているといえよう。しかし評価が伸びなかったのはやはり収束の瑕。完全性が強く求められる時代のようだ。

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