長編詰将棋の世界(8) 芳醇な七種合煙

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

添川公司 「虹と雪のバラード」詰パラ2010.4


棋譜ファイル

92桂成, 同玉, 93歩成, 91玉, 92と, 同玉, 94飛, 93歩,
同飛成, 同玉, 75馬, 92玉, 74馬, 91玉, 92歩, 同成香,
同馬, 同玉, 93歩, 同玉, 95香, 94桂, 同香, 同玉,
85と, 93玉, 84と, 92玉, 83と, 91玉, 82と, 同と,
同香成, 同玉A73と, 同玉, 76龍, 62玉, 63歩, 同と,
同銀成, 同玉, 75桂イ72玉, 63桂成, 同玉, 64歩, 62玉,
54桂, 同金, 63歩成, 同玉, 54と, 同玉, 74龍ロ64香,
98角, 45玉, 56と, 同玉, 67と左, 45玉, 56と, 同玉,
89角, 67歩B同と, 同香成, 同角, 同玉, 68歩ハ同成銀,
同銀, 同玉, 59銀, 同玉, 79龍, 69飛, 49金, 同玉,
69龍ニ59銀, 39飛, 同金, 同と, 同玉, 59龍, 28玉,
C29銀, 27玉, 28香, 同金, 同銀, 同玉, 48龍, 38角,
39金, 19玉, 29金打, 同角成, 同金, 同玉, 83角, 19玉,
39龍, 18玉, 29龍, 17玉, 16と, 同玉, 38角成, 15玉,
37馬, 14玉, 36馬, 13玉, 35馬, 12玉, 34馬, 11玉,
21香成, 同と, 23桂, 22玉, 31桂成, 同玉, 41香成, 同成銀,
21龍, 同玉, 22歩, 同玉, 23金, 21玉, 32歩成, 同成銀,
同金, 同玉, 43歩成, 21玉, 32銀, 11玉, 33馬, 22金,
同馬, 同玉, 23金, 11玉, 22とまで153手詰

A 86龍は91玉、95龍、92歩、83桂、81玉、72と、同玉、92龍、82飛、63と、同と、同銀成、同玉、75桂、73玉以下不詰
逃げ方は73玉以外なら正解。解答は52玉が多数派だった。
64飛は作意通り進めて67同玉に65龍、66歩、77飛、同玉、76金以下
64角は98角、45玉、56と、36玉、37と右、同角成、54角以下
64桂は98角、45玉、56と、同桂、54龍以下
先に同角でも可
56玉は54龍、66玉、64龍、76玉、74龍、66玉、67香、57玉、56金、同玉、65龍以下
59角は39飛、同金、同と、同玉、59龍、28玉、29金、27玉、28香、36玉、56龍、35玉、55龍、45歩、25と、36玉、58角、47金、同角以下
59金、39飛、同金、同と、同玉、59龍、28玉、19金、38玉(27玉は29香、28歩、同香で1歩増えるので作意通り進めて早い)、58龍、48飛、28金打、同金、同金、同玉、48龍、38銀、26飛、19玉、29金、同銀成、同飛、同玉、38銀、19玉、39龍、18玉、19香、
29金は27玉、28香、36玉、56龍、35玉、55龍、36玉で不詰

☆七種合煙の歴史はごく短い。

  • 近将1982年4月新ケ江幸弘「彩雲」余詰
  • 近将1985年8月藤本和「虹色の扉」塚田賞特技賞
  • 近将1992年3月添川公司「大航海」塚田賞
  • 詰棋めいと2000年2月新ケ江幸弘「彩雲」

これだけだ。

☆本作は史上4作目。本誌初の七種合煙ということになる。

☆序盤は静かに始まる。5手目81香成で精算しても広すぎるので、86香を軸に74飛、そして39馬の活用を図るのは自然な流れであろう。85とから再び追い落とした後は、26龍と89角を働かせることを考えればよい。したがって73とから76龍は自然に手が進んだが、ここで悩んだ方は強い方。

☆誤解の2名は86龍から無理矢理詰ましてしまった方。紛れAを参照してください。

☆42手目の局面が最初の難関である。

☆64龍と攻めてみたくなる。また89角を活用するために87桂の消去もあるかもしれない。この直感は半分正解で半分は間違いだった。74龍では惜しくも詰まず、64歩から54桂で55金を精算し、手掛かりが乏しく見える中空で74龍と合駒を問うのが正解だ。局面の大きな展開に目を見張る。87桂を消去した効果で98角と覗いてみれば、持駒の金が強力で意外に狭い。

☆七種合とはいえ、腰を据えて合駒の変化を読む必要があるのはわずか2カ所。ここがその一つ目の場所だが、比較的易しい。角桂は移動した後龍の道が開ける。香と飛車は精算することになるが、それだったら安い方の香だ。詳しくは変化ロを参照されたし。

☆再び89角と活用するために今度は2枚のと金を消去するのは気づきやすかろう。89角が実現すればさっぱりと精算して、最下段で合駒ブロックが始まる。

☆最初の飛合はすぐわかる。次の69龍に対する59合が二つ目の合駒読みの場面だ。角は手数はかかるが詰みが見える。問題は金と銀の差別化だ。変化ニを研究されたし。

☆この合駒読みがクライマックスで、あとは爽快に詰み上がる。一瀉千里に詰ました方も多かろう。

☆それにしても添川作品に常に付帯する評言をここでも繰り返さざるを得ない。

☆無理が、ない。

☆あまりにも自然に進むので、煙るまで153手もかかったことも、七種合であることも見逃された方がいないかと危惧してしまう。むろん自然に見える、すなわち苦心の跡を残さない、すなわち超絶技巧なのである。

☆それどころか、左右で対称的な馬の上昇、78桂消去の伏線など条件の実現にのみ満足しない姿勢が当然ながら素晴らしい。

☆最大の特徴はテーマの七種合が手順の全般にわたって広く分布していることであろう。玉を辺において龍を使っての合駒ブロックを煙につなげた作品を荒々しい若い酒とするならば、本作は七種合と煙詰が長い時間をかけて融合してできた、まろやかな口当たりの古酒だ。香、角、金が巨椋氏の言う「粘着性の合駒」であることも付け加えておこう。

☆しかし解答者は貪欲である。この史上4作目の難条件作をこれだけなめらかに仕上げてもB評価がくだされるのである。有名税にしても税率高すぎではないだろうか。添川公司にしても使っているのは同じ39枚の駒なのだ。そうだ、貪欲な解答者諸君にリクエストを募集しよう。添川公司に創ってもらいたい作品のテーマを寄せてください。そしてその作品が誌上にでた際には、心からのA評価をよろしく。

作者 七種合煙。38角合の局面が創作の基点で、以前発表した「ステージII」(橋本孝治氏との合作)の収束を考えていた時の副産物です。67歩合が香合でも良いので、序盤にもう一回歩合を入れました。

凡骨生 「虹と雪のバラード」から七種合入り煙詰と見当をつけましたが、それでも解に至らず時間切れとなりました。結果発表が楽しみです。
野口賢治 69龍に対して金合か銀合かの二択が最大の難問。しかもどちらも同手数で煙るとあっては慌てました。金合順では29金としたのが誤りで19金から29香の1歩稼ぎの早詰の順を発見してやれやれ。こんな落とし穴を仕掛けるとは作者もお人が悪い。七色などは頭になく後から気付いてホトホト感心した次第です。
中沢照夫 7種合入の全駒煙。作者としてはスタンダードな作品かもしれないが、解図できた人間には大きな感動となる。合駒は手順全体にバランス良く散りばめられ自然な流れの中で実現されている。87桂消去の伏線を含め中盤の手順は難解だが、19玉以後の後半の手順は実に爽快だ。
神谷薫 9段目の合駒は2枚しかない、全体に捌きの7種合。6筋から7筋にかけて中~下段に追いかける順が面白く、序~中盤で自然に駒を消したという印象で、煙という条件抜きで普通に手順が面白い。(この作者なら60枚くらい消せそうな気がする。)
斉藤博久 格調の高い手順でした。
鈴木彊 これまた凄い。なんとも凄まじいと言うよりほかにありません。煙詰とは驚きました。
中出慶一 作者の手腕からか、駒の捌きと消去の局地「煙」が、いとも簡単に思えるほど鮮やかに実現されています。
小林巧 すぅー疲れた。でも解けたので快感。これも煙とは…。59手目に87歩と無駄合の順で進めていたので153手歩余りになるところでした。(バカですね)この標題はとっても解る。「虹と雪のバラード」→「トワ・エ・モア→You&I…作者とちょっとだけ対話できたような嬉しい気持ちです。
武田静山 選者の甘言に乗ったのはよいが、昔近将で苛められた記憶が蘇る。煙詰に七種合、挑戦して良かった!
池田俊哉 添川氏らしい気品ある七種合煙。77手目以降の合駒連発あたりが創作の出発点かと思うが、序盤は73とから76龍が何故か見えずに苦労したり、87桂消去にびっくりしたり。この収束形に必然性のある煙を見るのは初めて。作者の稚気が感じられてなんとも嬉しくなってしまいます。
加賀孝志 第4楽章の音楽を聴いているよう。一手一手旋律が流れます。龍を世に出し第2章。角を捌いて第3章。そして収束へ。キメの細かい流れ見事な煙です。
竹中健一 タイトルがなかったら七種合には気付かなかったかもしれません。七種合煙って初めて解いた気がします。見事な作品ですね~
詰鬼人 中盤の攻防中々面白い手順ですが、序と収束は一寸落ちますね。
永島勝利 解き応えありました。
今川健一 煙で七種合、表題も納得。さすが煙の大家、添川さんの作品ですね。解図前に、全駒配置で煙?とは思いましたが、七種合とは!たぶん、普通の創作手順では、このような作品は創れない。創作過程が知りたいな、です。
国兼秀旗 煙ることはわかっていたが、それでも何故か煙ると嬉しい。
會場健大 詰め上げてみて、7種合だと気づかなかった。タイトルを見ながら手順を書き出してみて、ようやく気づいた。それくらい自然な流れの中に合駒が散りばめられている。ところで7種合煙の最長手数ですか?A
和田登 芸術にまたひとつ出会えて幸せ
小川悦勇 豪雪地帯にも春の気配、分厚い雪も消えていく。雨上がり、瞬間の日差しに7色の虹が映える。並みの駒消しテクニックでは出来ない7色合煙。詰将棋の天使か悪魔か?本性を見たい。A(七条氏が7色煙の創作に悩んでいたのを思い出す。)
増田智彬 左上の駒の整理に唸り、中央の浮遊感と下辺の合駒に悩まされ、右辺の馬追いに驚かされた、素晴らしい七種合煙詰。A
須川卓二 題名から7種合煙は想像しましたが、内容ははるかに予想以上です。35手目86龍として出口の無い森で彷徨い続けたのは私だけでないはず・・・。87桂消去、78と消去、98角~89角と手順にポイントとなる点もしっかり含んで見事な煙です。A

総評

鈴木彊 風みどりさんが力を入れてコメントされていたのも肯けます。2題とも絶品です。
池田俊哉 撰題の言葉に惹かれて久しぶりの大院解答です。
増田智彬 ところで今期の半期賞はどうなるのでしょうか?候補作が多すぎますが・・・
佐藤司 要するに殆ど手つかずです。春の不振は今年も続きました。
今川健一 煙が2題、桜花の散る如く見事に駒が消えました。解いて最高の気分が味わえるのが煙詰。それが2題も解けて、「こいっあ、春から縁起が良いぞ」、です。
小川悦勇 記録に挑戦、次々に難条件の発想と創作に挑む。唯唯、感服するのみ。
會場健大 選題の言葉に反して、両題とも難解作だと思いますが、煙特集楽しみました。

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