水上仁 近将1977.1
打歩詰を巡る攻防をわずか8枚の駒で表現する創作力が光っている。
角を打って歩を打って角を成れば詰みに見える。
もうちろんそう上手くはいかない。
34角、22玉、23角成、11玉、
【失敗図】
34角に11玉なら5手詰だが、12歩を後回しになるように逃げれば打歩詰で逃れるのだ。
もちろん角でなく飛車をなれば……
34角、22玉、23飛成、31玉、
【失敗図】
今度は31の方に逃げて打歩詰という仕組みだ。
それならと23から角を打つと……
23角、13玉、
【失敗図】
11玉なら12歩、22玉、32角成……
22玉なら32角成、11玉、12歩……で詰むが、13玉と上がられる。
33飛が当っているので角をどこに開いても33桂と抜かれて絶望だ。
つまり初形は打歩詰につながる局面。攻方が好手を出さなければいけない局面なのだ。
45角、
それが45角の限定打。
詰将棋に慣れてくると(4000題くらい解くと)初形を見ただけでココに打ちたくなってしまうが、やはり7箇所も角を打つ場所はあるのにわざわざ味方の香の利きを弱める場所に打つのが正解というのは魅力ある手だ。
なぜここに打つのか。
22玉、23飛成、31玉、32歩、
【変化図】
香の利きが塞がっているので32歩が打歩詰でない。
以下42玉に63角成までの詰みだ。
さて攻方が好手を出したら、今度は玉方が妙防を出す番だ。
45角とわざわざ離して打ってきたのだから「大駒は近付けて受けよ」の諺が生きる。
中合だ。
23では同飛成で意味がないから34に間駒をする。
飛角金銀香では打歩詰で逃れられないから桂か歩。
変化っぽい桂から考えよう。
34桂、
(34)同角、22玉、23飛成、31玉、43桂、
【変化図】
32歩は打歩詰だが、43桂は打てる。
以下42玉、51桂成、同玉、53龍まで。
やはり2手目は歩合だ。
34歩、
これは同角ととるより王手が続かない。
玉方が好手を出したので、次は再び攻方の好手の順番だ。
それは先程話が長くなるので敢えて忘れていた諺「打歩詰には不成」。
(34)同角、22玉、23飛不成、
流れからしたら31玉が正解だろう。
しかし成ならば11玉は1手詰だが、不成だと11玉という逃げ方もある。
こちらから先に解決しておこう。
11玉、12歩、同玉、13歩、
12歩、同玉に飛車を開いたのでは22玉で何をしているのか分らない。
入手した1歩を13歩と打ってしまうのが良い手だ。
11玉、21飛成、
同桂なら24飛成から13龍で簡単。
11玉と下がられて困るように見えるが飛車を切るのが英断で詰む。
同玉、12歩成、32玉、43香成、31玉、23桂まで
【変化図】
ということで23飛不成には31玉が正しい。(か本当はまだ分らないが)
31玉、
さて生飛なので32歩と打てるが……
32歩、同玉、
打ったはいいが継続手が見当たらない。
先程の変化と同様に33歩としても、同桂なら43香成~33飛成で詰むが、31玉と戻られて今度は21飛成と切っても続かない。
ここで本局のメインディッシュが登場する。
43香成、31玉、32成香、同玉、
46香の原型消去。
この図において46香は元々邪魔駒だったのだ。
初形で46香を取り外せば7手詰だ。
しかし11玉の変化で46香が必要と認識させておいて、その直後に原型消去とはうまい演出。
あとは収束なので一気に進めよう。
43飛成、31玉、32歩、22玉、23龍、11玉、
12龍まで19手詰
43飛成に22玉でも19手の変同のようだ。
上の解説では「打歩詰の陥穽を回避する45角に34歩の切り返し、さらに23飛生と止めの好手段45香の原型消去」というナラティブを語ったが、別の見方も可能だ。
「34角~23飛不成に31玉だと1歩不足する。この1歩をどう入手するか。その謎を解き明かす鍵が45角の限定打」というナラティブで語ることもできる。
物語(ナラティブ)は解者・鑑賞者が読取るものなのだ。つまり作者の意図と異なることも当然あり得る。