詰将棋入門(16)のタイトルを「例の3手詰」としたが、詰将棋ファンおよびマニアの方々にとって、「例の3手詰」といったらこちらかもしれない。
行き詰まり 「新たなる殺意」 詰パラ1989.3
3手詰である。初見の方は解いてみられんことを。
初めての出会いは二度とはないものですから。
この作品、詰パラの解答者が183名中98人も誤解をし、平成元年度の看寿賞を受賞した。
この結果、当時不思議でならなかった。
この作者での73香成で詰むはずがない。
とすれば72だ。
あとは、その意味づけを確認して終了。
……このような進行をするのが普通のはずだ。
だって、この作者の作品を解くのははじめてではないのだから。
ちょうど同じ号に同じ作者(名義は違うが)の3手詰が並んで掲載されている。
塩見 倫生 「カロンの渡し守」 詰パラ1989.3
初手2択。
うち一方は中合による逃れ。
まったく同じ構造であることがわかるだろう。
当時のこの作者のマイブームだったのだ。
で、なにが言いたいのかというと、オイラとこの作品の出会いは不幸だったということだ。
解答発表をみて「うぉぉぉ、まちがえたぁぁ」と頭を抱えた98人の方がこの作品を楽しんだことは確実だからだ。
余分な知識を持たずに、この作品と出会っていたらうまくやっていけたかもしれないのに……。
しかし慧眼の持ち主はきちんとこの作品の価値を見抜いている。
担当の岡村さんは「カロンの渡し守」を2番、「新たなる殺意」を3番に並べている。
オイラだったら「カロンの渡し守」は初手に桂馬でなく飛車に手が伸びる可能性もあるかなと逆順にしたかもしれない。
白鳥麗子–3手詰の最高傑作。半期賞は決まった。
お二人のような目を持っていない凡骨にとって、
作品との出会いは一期一会
との覚悟をしておく必要がある。
南倫夫 詰パラ1961.3
古今短編詰将棋名作選で、南倫夫作の7手詰をみたときは衝撃だった。
吉田健の解説が4手目21玉の変同に言及していたりしているのに違和感を感じるほど初手のインパクトはオイラを感動させた。
これはこの筋を初めて見たからだ。
オイラと南作の出会いは幸せだったということだ。
その代わりに先日の私家版詰将棋解答選手権で出会った次の作品とは幸せな出会いはできなかった。これはもう、仕方ないことなのだ。
武島広秋 虎の穴 第84番 2018.10
でも、初めてこの筋をこの作品で見た人には3手目~5手目の順は一生忘れられないインパクトを与えるだろう。
要らない知識は忘れちゃった方が幸せなのかもしれない。
(いま、オイラはいろいろと幸せになりつつある……)
感動したもん勝ち!
追記(2020.06.02)
本稿では「新たなる殺意」を作品との出会いは一期一会との趣旨で紹介させていただいたが、この作品の良さを正面から論じたテキストを見つけた。
詰将棋鑑賞、超入門!(3前)変化紛れ(via.フェアリー時々詰将棋)
3手詰の看寿賞の受賞が決まった事を報せてくれた、柳原編集長の満面の笑みが忘れられない。