詰将棋創作講座を読む(1) 村山隆治「詰将棋の考え方」

筆者が持っている村山隆治の本の中で最も古いのが「詰将棋の考え方」大阪屋号書店1950.6.1。
この本に詰将棋の作り方という節がある。

敗戦間もないこの時期に詰将棋の本を出版するとは村山隆治の詰将棋への情熱並々ならぬものを感じる。
氏はこの後「詰将棋教室」「詰将棋をたのしむ本」「詰将棋手筋教室」「五風十雨」を著している。

詰将棋創作に当たっての心得として次のことを挙げている。

  • 詰将棋の古典を鑑賞すること
  • 常に多くの作品を蒐集し整理しておくこと
  • 実戦或いは他の方法で得た素材をノートしておくこと
  • 駒の加除変更、移動を考慮すること
  • スラスラと纏まらない場合は一旦中止すること
  • 長編物には一つの物語を挿入すること
  • 一応完成した作品は他人の検討を要する

順に見ていこう。

詰将棋の古典を鑑賞すること

最低限、鑑賞しておくべき物として次の4つを挙げている。

  1. 伊藤宗看 「詰むや詰まざるや」
  2. 伊藤看寿 「将棋図巧」
  3. 伊藤宗印 「将棋精妙」
  4. 桑原君仲 「将棋玉図」
常に多くの作品を蒐集し整理しておくこと

蒐集方法がこの時代らしい。引用しよう。

いつも図面入りのポケット・ノートを所持し(私は普通の豆手帳に図面を書き入れて使用している)書店に行く度に、雑誌其の他に掲載されている詰将棋を、暗記し写してくるのである。写すには訓練を要するが、暫く努力をすれば僅か一乃至二分間位、図面を眺めているだけで、心のカメラに焼付き、暗記できるようになっていくものである。このようにして、忘れないうちにノーとしておけばよいので、かくして詰将棋が掲載されている為に、その雑誌を求めるという、経済的負担は除去される。しかも詰将棋は、だんだんと蒐集できるのである。どうも書店から抗議がでそうであるが、致し方ない。

書店にしたら迷惑な客であることは間違いないが抗議がくるほどではあるまい。
その頁をだけ破ってポケットに入れろとか、スマホで写真に撮ってしまえとかならば犯罪だが。

実戦或いは他の方法で得た素材をノートしておくこと

実戦で素材になりそうな形になったらノートをしておけということ。
他の方法とは……よくわからないが引用すると

亦他人の習作からもちょっとした素材のヒントを得ることがある。之等をノートしておいて、自分の創作の折に活用させることが肝要である。これには常に詰将棋を自分で解く努力が必要で、解いていく過程に於いて、ヒントを獲得する公算が大であるからである。

つまり、他人の詰将棋を解いているときにヒントが得られるということだ。結局それが作意だったり変化だったりしたらがっかりだが。紛れなら自作にしても大丈夫かもしれない。

駒の加除変更、移動を考慮すること

これは具体的な創作の方法。具体例は書いていないが、後で出てくるのだろう。

スラスラと纏まらない場合は一旦中止すること

引用する。

手際よく纏まる場合はよいが、先ずそんなことは奇蹟であって、こぢれ出すのが当然であり普通である。こうなると時間の浪費となるばかりであるから、あっさりと中止するのがよい策で、忘れた頃に見直してみるがよい。すると今までに気づかなかった名案が、浮かんでくる。適当な處でみきりをつけることも大切である。

どうしようもないなと思った素材でも記録して残しておくと、ずっと後に創作技術が向上して作品に仕上げることができるようになったり、まったく別の作品の一部として使えることがわかったりすることがある。

長編物には一つの物語を挿入すること

長編物を作る場合、単なる玉の追廻しでは何の価値もない。

物語の例としては

  • 鋸引き
  • 周辺巡り

を挙げている。
今だったら、

  • 繰り返し趣向
  • 知恵の輪趣向
  • 煙詰

も付け加えたい。

一応完成した作品は他人の検討を要する

創作者は独善的先入観の盲点にとらわれ易い。
(中略)
それであるから、どうしても完成した図式は、客観的な第三者に検討して貰う必要がある。思わぬ簡単な早詰、余詰を発見されたりして、苦笑することは、しばしばあることである。

これは創作を経験したことのある人なら誰もが頷くところであろう。
自分で検討することも必要だが、少なくとも一晩は寝かせてから検討しないと、簡単な欠陥でも全然見えないことがよくある。「盲点」というよりもっと広い印象がある。自分の脳みそはそう簡単に自分を客観視できないことを痛感させられるのが詰将棋創作だ。

今は、検討を「柿木将棋」などのコンピュータ・ソフトウェアに支援してもらうことが可能だ。膨大な検討時間が嘘のように短縮できる。
毛嫌いして使わない人がいるが、人生は短いのだから使うことをお薦めする。
あくまで支援の範囲での話だが。

(つづく)

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