詰将棋入門(36) 大井美好の捌き

大井美好 詰パラ 1951.7

ここからは「古今短編名作選」や「三百人一局集」などをネタ本として進めていく。

本日取り上げる作家大井美好は人によって好き嫌いが分かれる作家だ。

上の作品、22歩がいかにも邪魔駒だ。
14香、22玉、13香成、同玉、31角、同金、23金まで7手詰
最初の発想はこの7手詰なのではないだろうか。

4手目同香なら11角、同玉、12金まで。
42歩の配置などこの変化の為の配置に見える。

ところが同桂の変化がうまくいかない。
21玉と逃げる余地が生まれるから短く纏まらないのだ。

普通の作家なら21桂の配置を見直すだろう。

ところが大井美好は違う。

13香成を同桂と取った後、捌きに捌き、なんと39手詰に仕上げるのだ。

14香、22玉、13香成、同桂、14桂、21玉、22金、同金、
43角、32金、同角成、同玉、43金、21玉、22桂成、同玉、
33金、21玉、43馬、12玉、23金、同玉、35桂、22玉、
14桂、12玉、34馬、21玉、22桂成、同玉、23馬、31玉、
41馬、21玉、22歩、同玉、23桂成、21玉、32馬まで39手詰

これだけ捌かれると文句も言えなくなってくる。

35とは収束の為の配置のように見えるが、序盤は初手から14歩、同玉、26桂の余詰筋を防いでいる。
よく練られているのだ。

妙手は13香成だけなのだが、自然な配置の21桂をなくして短くまとめるのは性に合わなかったのだろう。

それではもう1局。捌きに捌く作品を紹介する。

大井美好 詰パラ 1957.2


92銀、71玉、53角、62飛、同角成、同玉、63金、

飛車の移動合は当然の手だ。
63金、同金に61飛車から一間龍の形を狙う。


51玉、53飛、42玉、52金、31玉、42金、21玉、32金、

63に打った金が52、42、32と追っていく辺りが狙いだろうか。


同玉、23飛成、41玉、43飛成、51玉、21龍、62玉、32龍引、

ここで22龍でも12龍でもよい。


71玉、72龍、同玉、52龍、73玉、53龍、74玉、83銀不成、

銀を活用するのが味良い手順。
同銀なら64金でよさそうだ。


85玉、94銀不成、同玉、44龍、

逃げられて絶望に見えるが、ここで44金をパクる。


93玉、84金、92玉、99香、

変化は多岐にわたるが省略する。
93玉に金を打ってから99香。
この最遠打が狙いの一手だろうか。


81玉、92金、72玉、82金、61玉、41龍、51歩、

下図は筆者などにはもう詰みそうもない局面に見える。


52銀、62玉、51龍、53玉、41銀不成、63玉、52龍、64玉、65歩、同玉、66と、同玉、57龍、76玉、77銀、

41銀生で手が続くとは……。


65玉、66銀、64玉、55龍、63玉、74金、同玉、75銀、85玉、66銀、

65玉でなく、87玉と逃げたら、68銀、88玉、97龍、78玉、77龍、89玉、79龍まで。
99香が限定打だと確認できる。


76玉、75龍、67玉、77龍、56玉、57龍、45玉、55龍、36玉、37と、25玉、17桂、14玉、44龍、

ここでも99香でないと不詰とわかる。


23玉、24龍、12玉、

ここも54龍や64龍でもかまわない。非限定。
41銀生が効いている。


15龍、13歩、同龍、同玉、25桂、12玉、13歩、21玉、22歩、同玉、23歩、同玉、24金、

金をパクって足りてるとは驚きだ。


22玉、33桂成、11玉、12歩成、同玉、23金、11玉、22金まで109手詰

24金では34金でも同じこと。
龍と違って金だと味が悪いが、ここまできたらキズでよいだろう。

さて、並べてみて心細い局面での99香の一手。
これが狙いの作品と思われる。

ところが、解説では一切99香には触れられていない。
作者の感想も

創る過程においての本作の目標は百手を越す不動駒皆無の長篇と云うことであったが、それは途中で放棄した。

解答者の短評も

高橋守—44金と15金を取る辺りは切れ筋のようで指し難く駒捌きは勝れていますが、長篇独特の趣向、伏線或いは狙い筋といつらようなものが無いようで余り引き立たず。

やはり、この作品は序盤から延々と引き延ばして創ったのだろうか。
後に作者はこの作品は入院していた20日間に暗算で創作したと書き残している。
どうも、棋力が有り余っているようだ。

兎に角、手を読むことが好きで好きで仕方ないのだろう。

大井美好作品。筆者にはとても解けないが、将棋の力を上達させる為に詰将棋に取り組んでいる人にはぴったりかもしれない。
筆者は大井美好作品を並べるのは好きだ。

大井美好はかわいらしい作品も創作している。
最後に3局図面だけ紹介しよう。(持駒はかわいくないか)

「詰将棋入門(36) 大井美好の捌き」への4件のフィードバック

  1. 109手詰は初見でしたが、詰めるというより駒を動かすのは気持ちいいかも。解いた後、「だから何?」と思うかもしれませんけど。

    1. 「だから何」と言われると…困るかもしれないですね。
      担当者としては採用する理由がほしいから、躊躇してしまうかも。

  2. 最後の3局、たしかに持ち駒は可愛くありませんが、逃がさないことだけ考えれば、どれもほぼ一本道に暗算できます。
    2局目と3局目は、玉頭の角を決めて、形から順算式に作られたような気がします。

    1. 金頭桂をここまで逆算するとは驚いたので紹介しました。
      後ろの2局は右上の「3×3図式」募集へ応えたもののようです。

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