詰将棋のルール論争(10) フェアリー

1 詰将棋の範囲

1-6 フェアリー

フェアリーとは新しい駒や盤を導入したり、ルールを変えた詰将棋のこと。

攻方最善手:玉方最善手の詰将棋に対し、玉方は最悪手(つまり自玉が最短で詰むように応手を選ぶ)に変更した「ばか詰」が有名だ。(「ばか」という単語を嫌ったのか「協力詰」という名称もある。「ばか」は悪い言葉では無いと思う。このブログの住所もkazemidori.fool.jpである。)

そのフェアリーの中には詰将棋と極めて近いものもある。
詰将棋と分けて出題や鑑賞する必要がないのではと思われるものまで。

でも、その線引きは共通理解されていない。

1-6-1 不可能局面

【図38】

  • 29金寄まで1手詰

詰上がり角砂糖のあぶり出し。
即席で創ったにしては上出来だ……と悦に入っている場合ではない。

詰将棋が実戦のルールをベースにしている以上は、その局面は実戦に表われる可能性があるはずだ。
ところが【図38】は実際にはあり得ない。

先手番なので、この図に至る1手前は後手の指手だったはず。
後手は盤面に玉しか居ないから玉を移動する手だったに違いない。
でも、何処から移動してきた?

双玉図が普通詰将棋と一緒に出題されるようになってきたのが現状です。
するとレトロ解析なども将来導入されていくことが予想されます。
そうなったときに、不可能局面とはぶつかり合うなぁと思って、この項を立てたのです。
でも、説明不足もあって必要なかったかもしれませんね。

1-6-2 玉方持駒制限

詰将棋おもちゃ箱」の加藤徹さんが連作して一気に広まるかと思いましたが、そうでもないようです。
全駒使用作品の序盤の雰囲気を全編で楽しもうという面白い案だと思うのですが。
TETSU-No.32

【図39】

  • 15香、14香合、同香、同玉、……、19香、同玉、55馬、18玉、28馬まで25手詰。

これはまだまだ公民権(?)を得るまでに時間がかかりそうですね。
作品数と作者数が少ないのが理由でしょうか。
必至図では一緒に出題されていてもなんの違和感もないのですが、不思議です。
準備運動として、つねに玉方持駒を表示するようにしてみたらどうでしょうか。

1-6-3 双玉

炮とかバッタとか透明駒とか新しい駒を導入した作品は通常フェアリーに分類されます。
将棋世界1940.9の里見義周「詰将棋とは何か」という論文では詰将棋の要件として次の四つを上げています。

  1. 詰のあること
  2. 王将は一つであること
  3. 詰手段は唯一であること
  4. 詰上りに於いて持駒の余らざること

そして、1と2は本質的な規定(俳句ならば十七字という規定)であり、3と4はより多い美を与える試みから定式化したもの(俳句における季に相当)であると論じている。

(詰棋めいと第26号より孫引き)

【図40】

  • 22角、21玉、32角、12玉、23角成、21玉、32馬、12玉、11角成、同玉、22馬まで11手詰。

もし33玉が33金(攻方)であったなら、このような面白い詰手順は現れません。
22角、21玉、32角、12玉、23金までという面白くもなんともない並べ詰になってしまいます。

これは玉という利きはあるが王手はできないという特殊な駒を導入したことによって造られる手順なのです。また、詰みに至る手順を求めるという詰将棋の根本ルールに、自玉より先に相手玉を詰みに至る手順を求めるという改変を要請もしています。(逆王手による逃れはこの改変によるものです)

これだけ2番目の選択肢を入れたのは、私自身が看寿賞選考委員を務めていたときに悩んだからです。
ある狙いが双玉図で表現されたとき、果たして同じ狙いが単玉図で表現可能なのかどうか。玉の駒の特殊性が狙いの実現に本質的に関わっているか、それとも駒が足りないのを補っているだけか。
随分と悩みました。
私自身の現時点の考えは、「天月舞」はエレガントな解だが、それはフェアリーで最遠打を鮮やかに表現した作品に感動するのと同じ種類の感動、というものです。
すなわち「表彰や一号局の判定は別枠が望ましい」と思っています。

1-6-4 かしこ詰

項目を立ててはいたのですが、調べてみるとどうも記憶が怪しくなってきました。
私の記憶では、攻方最善手:玉方最善手すなわち攻方は最短で詰ますように着手を選び、玉方は最長になるように応手を選ぶものをかしこ詰でした。
つまり、チェス・プロブレムのように指定した手数より長手数の別詰の存在はお構いなしと理解していたのです。
無駄合概念もなしと思っていました)

ですが、実例を探して検索してみると「普通詰将棋をかしこ詰ともいう」といった記述も見つけてしまいアレレ?

実作が少ない(見つけられなかった。青木さんの作品はどこにあるの?)ので、定義が曖昧になってきたのでしょうか。

余詰作の救済処置みたいなルールの使われ方だけだと面白みはないかもしれません。
ですが、例えば7手詰を創っていて誰も読まないような長手数の余詰を防ぐための配置が本当に必要なのか疑問に思うことはあります。

【図41】略

フェアリーの知識が20年以上古い私の間違えで、「かしこ詰」は「最善詰」とするのが正しいようです。
混乱させて御免なさい。
この連載はnoteに纏める予定ですが、その際はこっそり「最善詰」に訂正しておきます。
2人も「問題なし」票が得られたことが驚きでした。
手余りとか長手数余詰とか気にしないで、「こんな面白いこと考えたよ」をもっと手軽に表現できるルールを用意することも悪くないと思うのです。(やってみようかな?)

1-6-5 ツイン

ツインを姉妹作と混同している方はいないでしょうか。
もしくは兄弟作と誤解していることはないでしょうか。

姉妹作や兄弟作は複数の作品ですが、ツインはあくまで1つの作品なのです。

【図42】

  • a)36銀、同と、24馬、同玉、14龍まで5手詰。
  • b)26銀、同と、14龍、同玉、24馬まで5手詰。

駒の配置などを一つ替えるだけで、手順に対称性が出現している面白さがわかりますでしょうか。
この作品では取られる駒ととどめの駒が2解で入れ替わるジラーヒ(Zilahi)というテーマらしいですが、そのような用語はどうでもいいのです。

この重層的な表現を詰将棋に取り入れるかどうか、意見が分かれているところです。

おおっ。
わずか11人の投票ですが、一緒でいいが多数派になっています。
担当者の皆様。
このささやかな結果ですが、ツインの投稿があったら自信を持って採用をお願いいたします。

1-6-6 複数解

2解を余詰と混同している方はいないでしょうか。

余詰は作者が意図していない詰手順。
2解は作者が意図して対称的にもしくは対照的に作成した作意です。

【図43】

  • 23金、34玉、43飛成、同馬、67角まで5手詰。
  • 14金、34玉、43角成、同馬、38飛まで5手詰。

これもジラーヒですね。

ツインと違ってこちらは別カテ派が優勢ですね。
私の感覚ではツインや2解はなじむとしても超短編で、きれいな結晶を探すようなどちらかというと創作者向けの遊びという印象があります。
交響曲や物語のように序破急を表現しやすい詰将棋の主流にはなっていかないように感じています。

これにて、第1章が終わりです。長かった~。


追記(2020.8.2)
https://twitter.com/sengyotei/status/1289868840537427968?s=20


「かしこ詰」(廃案)→「最善詰」ということですね。
https://twitter.com/sengyotei/status/1289880620038885381?s=20


※【図38】最初28金、38龍だったのですが、「持駒金にしたら曲詰になるんじゃね?」と直前に差し替えた結果余詰というパターンです。
※【図40】最初、51龍、15飛で創っていて「なんか、この手順、記憶にあるな」と思ったら「Limit 7」#139でした。やはり簡素図式を創るときは「Limit 7」は持っていないと!

「詰将棋のルール論争(10) フェアリー」への5件のフィードバック

  1. 不可能局面について、、

    単玉の詰将棋は、そもそも

    実戦に表われる可能性

    は、無い。

    一体何についての話なのか理解できない。

    1. 不可能局面の存在が問題になるのは双玉の場合かと思いますが、複雑になるので不可能局面だけとりだしてみました。
      無意味?

  2. WFP作品展登場ルールのまとめ
    (第30~119回)

    の19ページによると

    (2) 逆算可能性
    WFP 作品展では初形局面の合法性の判定に
    逆算可能性を要求しない。

    局面の 合法 性の判 定 に 逆算 可能 性を要 求す
    る場合はその旨を明示し、どこまでの逆算を要
    求するかも明確にするものとする。
    原則と して 出題図 の 初形に 要求 される 事項
    は以下の通りであり、これに当てはまらない場
    合や、追加の条件を要求する作品は、その旨を
    出題時に明記する。

    〔初形に対する省略時条件〕
    1) 攻方手番であること
    2) 標準の駒種、駒数であること
    3) 二歩・行き所のない駒がないこと
    4) 相手番の玉に王手が掛かっていないこと

    と、あります。

    当然、WFP 作品展以外では、逆算可能性を要求しているのもあります。

    で、このブログでは、後者の立場を説明しようとしているのだと思われます。

    「複雑になる」のを避けて、表現しているとのことですので、私の、前のコメントは筋違いでしたか、、

  3. 高坂さんの透明駒解答選手権はどちらなのでしょう。

    私は(そもそもルール論争など詳しくないのにそしてさほど興味もないのに書き始めてしまって、流れでフェアリーにまで言及することに激しく後悔しつつ)双玉が普通詰将棋と一緒に出題されるようになるとそのうちレトロ解析も登場してきて、その際は不可能局面とぶつかるだろうな。だったら、双玉だけ取り上げるのは不公平だから不可能局面もだしておこう……と考えたのでした。

  4. まぁ、何か色々あるみたいですが、フェアリーって、やってて面白くないんですよねー。何だか勝手にルール作ってるみたい(子供のころによくあったようなやつ)な気分を味わうんで。
    なので分けてほしいって気分にはなる。

    ・ルールは厳格に統一で、一つしかない。
    ・双方が将棋の勝利条件に基づき純粋に最適手を指す。
    ・パズルであって、かつ、解答というからには、どんな理由であれ「別解」は一切無い状態。1ルートしか回答が無い。

    余程でない限り、↑であることが、通常望ましい。上記条件すら弄ってしまう「閉じすぎた世界」は、普通は「回答当事者となる存在」においては嫌いだという人のほうが多いのでは?

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