北原義治『独楽のかげ』野口文庫 1979.12.10
『独楽のたに』は何度も何度も読んだが,こちらは正直言って一度読んだらそのまま本棚で眠らせてしまったかもしれない。(いや,若い頃は詰将棋に飢えていたから,それでも数回は読んだに違いないのだが)
とにかく駒を捌く北原義治の好みが,短編とは相性が悪いのだろう。
塚田賞短編賞を2つ受賞しているが,どちらも収録されていない。
解説を読んでも「絶連」とか「P誌」という単語が目に付く。
こんな感じだ。
考えものとしては「絶連」(絶対手連続の略で,P誌用語)であって,なんの感興もあるまい。
指党には,易しい作なんかこの世に存在する価値なしという。
次元の異なる人達(同じ詰党であっても)と,正面から論じ合う気はないが。
易しくて,そしていい作品はいつの時代でも大歓迎されると思うのだが…。
しかし前書きのここら辺の件は共感する。
いつの頃からか,他人さまがなんと言おうとあまり気にならなくなった僕だけれども,時折断崖に立つ心境で,可哀そうないい人–で生き永らえるより,憎ったらしい悪い奴–として死ぬのが本望……とかホザきつつ,この豚児群を送り出すことにする。
それがたとえ,四面楚歌の中で1銭5厘の兵隊ならぬタダ捨ての歩であったとしても,いいじゃないか。生きざまを見せることすなわち生き恥をさらすことになったとて,これが僕の選んだ生きかたなんだもの。
修飾過剰な文章は好きではないが,自作集『いっこの積木』を少しずつ公開し始めて後悔しつつあるオイラだから共感するのかな。「生きざまを見せることすなわち生き恥をさらすこと」って所がいいと思うのだ。
2作紹介する。
北原義治 『独楽のかげ』第23番
二上,関根に同一図ありとでる。あるいは〇〇名義の発表だったのかも。
北原義治 『独楽のかげ』第36番 詰棋界 1955.6
『たに』『かげ』の後,長編や曲詰が出るものと期待して待っていたが,野口氏と喧嘩でもしたのか一向に出なかった。
20年後,北原氏自身が独楽工房を立ち上げて自費で出版を始めたのに,出てきた『独楽の画』はかなり期待外れのものだった。
北原義治作品集を整理しておこう。
- 独楽のうた 近代将棋 1962.7
- 独楽のさと 近代将棋 1972.1
- 独楽のたに 野口文庫 1978.9.10
- 独楽のかげ 野口文庫 1979.12.10
- 独楽の画 独楽工房 1994.5.31
- 独楽の郷 独楽工房 1994.8.15
- 独楽の郷II 独楽工房 1995.4.1
- 独楽の郷III 独楽工房 1996.3.15
- 独楽の郷IV 独楽工房 2000.8.16
近く利波偉氏編集で北原義治作品集の決定版が出ると聞く。
当然,華麗な曲詰や長編も収録されているに違いない。
楽しみだ。