詰将棋入門(70) 朝霧

伊藤看寿 「朝霧」『将棋図巧』第6番 1755

有名な作品。
「朝霧」のタイトルは作者がつけたものではなく,後世の人がつけたとのこと。
この後世の人の功績は大きい。
「図巧6番」ではピンと来なくても「朝霧」といえば,「ああ,あの作品か」とわかる。

話題にのぼる作品にはタイトルをつけてくれるとありがたい。

本作品は81手と長編だが趣向に入ってしまえばスイスイ解けるので,本作を解いて「『図巧』の長編を解いた!」と言ってみてはいかが?

まずは盤面全体を眺めよう。
持駒をみると11玉と潜られたら王手もかからないことがわかる。
91龍が81金を質駒にしている。
24龍も36桂が獲れる。質駒だ。

そこで32銀,同玉,24桂といきなり龍をパクりたくなるが……

【失敗図】

23玉で途端に行き詰まる。

正解はこの局面になるまでに角を金に交換する順。
すなわち初手から

32銀、同玉、43角、

43から数の攻め。
23玉は24馬までだし,
31玉と下がっても41馬,同玉,81龍で金が入るから32金まで。

同金、同歩成、21玉、32と、同玉、24桂、23玉、

上の【失敗図】と比べて,持駒の角が金に替わっている。
これなら手が続く。

33飛、24玉、23飛成、同玉、24金、32玉、

飛車を使って桂馬を消去する手筋。
この部分を切り取って短編詰将棋を作ったことがある人は手を挙げてください。(はーい)

さて,局面はだいぶ整理されてきた。
しかし次の一手は決断しなくてはいけない。
21玉と逃げられても後続のある手でないといけない。

41馬、

同玉なら81龍,51合,42歩,同玉,43歩,32玉,33歩,21玉,51龍
あとは何を合駒しても切って32金までの詰みだ。
三段目に歩の拠点が築けたら龍を切れる。

21玉、

当然21玉と逃げる。
さて,ここで妙手が出る。

31馬、11玉、22馬、同玉、

41馬に同玉の変化を念頭に進めたら,32馬としたくなる。
それなら同玉の一手で以下手が続く。
ところがやってみるとわかるが,32馬では最後の最後にあちゃーとなる運命を呼び込む。

さて,ここからメインの趣向が始まる。
ここまで読んでしまった方も,この局面から盤に並べて考えてみるというのも好手です。

23歩、32玉、33歩、42玉、43歩、52玉、53歩、62玉、

三段目に歩を並べていく。
一段目には81龍があるから降りられない。

62玉で63歩だと71玉で困る。
一工夫が必要。

73歩成、同歩、63歩、71玉、72歩、同玉、84桂、71玉、

73歩成,同歩とさせて72の空間を開けておくのが単純な歩の連打に飽きてきた頃合いに効かしたスパイス。
72歩が打てるのが大きい。
82桂と跳ねることができて,92への効きを作ったので準備完了。

81龍、同玉、93桂不成、82玉、

龍を切ることができる。

ここから復路が始まる。

92金、71玉、81桂成、61玉、

2枚金のコンビネーションが完成した。(1枚は成桂)

72桂成、同玉、82金、61玉、71成桂、51玉、

あとは,この6手1組のリズムを楽しむだけ。

62歩成、同玉、72金、51玉、61成桂、41玉、

52歩成、同玉、62金、41玉、51成桂、31玉、


42歩成、同玉、52金、31玉、41成桂、21玉、


32歩成、同玉、42金、21玉、31成桂、11玉、

もし,序盤で32馬としてしまうと,23歩が玉方22歩のままだから

22歩成、同玉、32金、11玉、21成桂 まで81手詰

「朝霧」とはなんともうまい命名をしたものだ。

歩が一列に並び,それがすべて消え去っていくこの趣向。
実に美しい。

この趣向は並び歩趣向とか,朝霧趣向と呼ばれている。

歩が並んでそれが自力で消えるまでがセットの趣向だから,並び歩趣向では片道でもOKかと誤解されかねない。そう考えると朝霧趣向を支持するべきか。
(しかし,そうすると第96番はどうしよう)

「詰将棋入門(70) 朝霧」への7件のフィードバック

  1. 「図巧」第6番の玉方5五歩は、実は余詰消しの配置です(5五歩がないと、3手目から2四桂、2三玉、5六角以下の順で詰む)。
    しかし、アマ初段レベルの棋力では、この余詰順は見えないので、一見すると意味が分からない謎の配置になっています。
    残念ながら?門脇氏の「詰むや詰まざるや」でも、詰将棋博物館のWebサイトでも、5五歩の意味付けについては言及されていないようです。
    (私自身、どこで読んだのか記憶がありません……)

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