名局精解3 駒三十九

第3回 駒三十九 氏の間駒作品を解く!

 【図0】

右上隅にすっきりまとまった初形です。当たり駒もほとんどなく,持駒も「香1枚」。解いてみようという気にさせてくれます。

 【図1】

初手は香を打つ一手ですね。

 【図2】

対して23玉と逃げるのは…… 32飛成,24玉,34龍,15玉,25龍までと簡単です。
そうです。 2手目に14に捨合が出てくるわけです。

 【図3】

間駒はまだ不明ですが,とりあえず同香,23玉となった局面を考えてみます。
飛車・金は24に打てますし,桂馬なら15から打てます。
残りは香か銀。香が怪しいので,先に変化と思われる銀から考えて見ましょう。

 【図4】

13香成 が好手です。
同玉ですと14銀と打ちかえられて詰みますので同歩ですが……
32飛成,14玉に

 【図5】

15銀という軽手がでて詰みます。
同玉に35龍とひいて14玉,25龍まで。
13に逃げられなくなっていることに注目してください。

 【図6】

そこで2手目は香合が正解だとわかります。
同香,23玉で図となります。
さて,また香を打つ一手のようですがどこに打てば良いでしょう。

 【図7】

ここは27香と打ちたくなります。
28は馬が効いていますし,あとで15玉と逃げられる展開になったときに 27香だったら26を塞いでいるからです。
対して応手は間駒ですが,どこに何を間駒するのか。ものすごい組合せの数がありそうです。

 【図8】

コンピュータではないので,しらみつぶしは避けて(^^;; 簡単なものはないか考えることにしましょう。
少し考えると,25に間駒はないということがわかります。
なぜなら例えば25桂としてみると……

 【図9】

32飛成
以下,簡単ですね。 25には角の効きが隠れているので,ここへの間駒は考えなくても良いようです。

 【図10】

26への間駒がでてきそうな雰囲気ですが,順番として次に24への間駒を考えていきましょう。
歩は二歩でできないので次に安い「香」を間駒してみます。

 【図11】

32飛成,14玉,12龍
13に間駒しても,32角成,15玉,13龍
で詰みです。
安めの駒ならこの筋でみな詰むみたいですね。やはり26から逃げ出すために26間駒がでてくる可能性が高まってきました。

 【図12】

逆に高い駒で「金」だったらどうなるのでしょう?

 【図13】

32飛成,14玉,12龍,13歩合
ここで同じように32角成でも詰みそうですが……

 【図14】

15歩と打つのが簡明のようです。
同金なら今度こそ32角成なので,同玉ですが, 13龍と24の金を質駒として狙います。

 【図15】

14金打と抵抗しても

 【図16】

24龍,同金,25金
これで詰みですね。
やはり26への間駒で香をひきつけておくことが必要だとわかりました。

 【図17】

さて,27香に対しては26に間駒を打つということまではわかりましたが,それでは何を?
飛車・金・銀などの高い駒は簡単でしょうから,桂馬から考えて見ます。

 【図18】

同香,24合,15桂でこれも簡単でした。
24への間駒が何であろうと次に取れます。

 【図19】

これで,27香には26香と捨合するのが正解だとわかりました。

 【図20】

同香

さて,また間駒です。
25へはないことがわかっていますから, 24ですが,いままでの読みが生きてきます。
はじめに24銀とした場合を考えてみます。

 【図21】

32飛成,14玉に入手した香を15香と打ちます。

 【図22】

同玉に35龍
同銀に25角成までときれいに詰みます。
この筋でほとんどの駒は詰みそうですね。

 【図23】

例えば飛車だったと考えてみても……
25に3枚効いていますから勝ちですね(^^)v。
35龍を取れる駒は金か銀。これで24への間駒は「金」と決まりました。

 【再掲図0】

初手からここまでの手順をおさらいしておきましょう。
15香,14香,同香,23玉, 27香,26香,同香,24金
進んだのはわずか8手ですがずいぶん読みを重ねてきました。
金が入手できそうなので,この駒を使って収束でしょう。
ゴールは近そうです。

 【図24】

32飛成は詰まないように金合なのですから,同香と取るしかなさそうです。
14玉とかわして次図。

 【図25】

15香と攻めるとするすると上部へかわされてしまいます。
23香成,15玉に 25金,同玉,27香と上部を蓋します。

 【図26】

これが最後の間駒でしょう。
角で開き王手ができる形ですし,成香もできています。
あと一息という感じです。
一服してゆっくり考えましょう。

 【図27】

安い香から考えてみます。

 【図28】

角を見捨てて強力な龍を作るのがうまい手です。
33飛成,43銀,24成香,15玉,35龍……

 【図29】

詰みですね。
逆に間駒が高いほうの「金」だとしても……

 【図30】

これも詰みですね。
間駒しても同龍,同金,25成香

 【図31】

これで正解は「銀」だったとわかりました。
35龍に対して,同銀ととれるからです。
しかし,それもむなしい抵抗……

 【図32】

25成香までで詰みです。
手数は「金」の方が長いですが,これは「変化長手数」と呼ばれる瑕です。
【図30】における間駒を「同龍ととって結局その駒が余って詰む」から「無駄合」と考えるわけですね。


さて,これで終わりだとしたら,実は「名局精解」で取り上げることはありませんでした。

きれいな初形から香の限定打,香合,香・金の連続合,そして大駒がきれいに消える詰め上がり……と素晴らしい作品ではありますが,変長の瑕がありますしあとで触れますが迂回手順の小さな瑕もあります。

そして,風みどりならともかく,駒三十九氏はこれが作意だったならおそらく発表することはなかったと思われます。


 【再掲図21】

見直してみると,【再掲図21】が気になりました。
ここで打っている15香はどこから手に入れたのでしょう。
そうです。
26香を同香と喰って手に入れたものです。
だったら,香合をしないで,直接「24銀」と間駒したらどうなるのでしょう。

 【図33】

この変化図を調べていないことに気づきました。
26への逃げ道がない形ですから飛車を1筋にまわる順で詰むはずです。
32飛成,14玉,12龍,13歩合,15歩……

 【図34】

同玉,13龍,同銀,25角成で詰みですか。

 【図35】

いや,同銀ととらずに
14飛
があります。
これは……とても詰みそうにありません。


なんということでしょう。
いったい,どこで間違えたのでしょう?

もともと26合がでそうだという予想がありました。
だから27香に直接24に間駒するのは金と香を調べただけで解決と思い込んでしまったのでした。

そこに落とし穴がありました。

単に「銀」で詰まないとは……。


 【再掲図6】

またここから考え直してみます。
香・金の連続合が作意でないとは信じがたいのですが……。

ここで香打ち以外の手というと13香成ぐらいしかありません。
銀の時は成立しましたが,香ですと同玉と取られて初形にもどってしまいます。
千日手になる寸前まで 15香,14香合,同香,23玉,13香成,同玉…… を繰り返した後,ふとだめもとで32飛成を追いかけてみる気になりました。

32飛成,14玉,15香……

 【図36】

同玉,35龍,14玉……

 【図37】

13が埋まっていないので25龍では切れてしまいます。
しかたない,25角成と追ってみます。
25角成,23玉,24馬,22玉……

 【図38】

これ以上,続きません。玉方55馬がよく効いています。


さて,これでお手上げです。

……ところが,この【図38】が,作者の仕掛けた謎を解く大きな手がかりでもありました。
この3つの図の中にヒントは出尽くしているのです。

 【再掲図6】4手目の局面

 【再掲図35】24銀合と変化された…不詰

 【再掲図38】32飛成と攻めた……不詰

この3つの図が一本の線でつながることが見えたとき,すべては解決します。

この作品の快感は,まさにこの一瞬にあります。

よーし,自分で考えてみようという方のために少し,空白をあけておきます。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 【図39】

【再掲図6】で29香という手がありました。

 【図40】

55馬がいるので,29香は考えてもいませんでした。
28香とでも間駒されてだめなのではないでしょうか?

 【図41】

同香,同馬でこの図になります。
進めてみると【再掲図6】と馬の位置が違っているだけということに気がつきます。

それならば……
32飛成以下【再掲図38】を経た後, 55馬がいないので

 【図42】

簡単に詰んでしまうではないですか。

 【図43】

それでは直接24銀と間駒された場合はどうなるでしょうか?

 【図44】

32飛成以下【再掲図35】と似た局面になります。
違いは香の位置です。

 【図45】

16角成
29香の形なので,この手が成立します。

 【図46】

同玉,14龍,15歩,18香,17香,26飛

これで,すべて,解決しました。

5手目を29香とすれば,後は最初に考えた通りの順で良いわけです。

発作的な捨て駒を繋げただけの作品に対して,一貫した狙いを持った作品を評して「ストーリーがある」ということがあります。

ストーリーがある詰将棋でも作者の引いたレールにすんなり乗っていればのんびり楽しめる作品もあれば,本作のように安心していると落とし穴に嵌ってしまう作品もあります。

作者のレールに乗っていると信じていたら,単に銀合で不詰。
そして,その謎が期待以上の意外な一手によってすっぱり解決する。

本作は,上質の推理小説のような作品といえましょう。
鑑賞者を選ぶという点では,推理小説よりも芸術的であるといえます。

この内容が,この穢れのない美しい配置で表現されているのも奇跡的です。

最後に全体を通して鑑賞してください。



2003/ 2/ 1  文責:風みどり投稿者 kazemidori : 1004年08月22日 23:58

コメント

waoohすげ~
美しい~
beautiful~
こんな作品見たことない
すごい~

Posted by: waooh : 2005年09月09日 01:46

感想ありがとうございます。玄人筋には「変長」の瑕のマイナス評価が大きくて,あまり評判は芳しくなかった作品ですが,そうなんです,「美しい!」というこの感覚。共感してくださる方がいて良かった(^^)

Posted by: 風みどり : 2005年09月12日 18:50

「名局精解3 駒三十九」への1件のフィードバック

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