若島正『盤上のファンタジア』第73番 近代将棋1968.6
作品集は作者による自作解説が一番嬉しいが、ときにはかなりの読解力ないしは棋力が必要となる。
(前回の226もそういう意味を理解していただけただろうか?)
本作も『盤上のファンタジア』の解説を読んでも、故七條兼三氏とのエピソードが書いてあるだけで作品については変化が2つ記されているだけである。(あまりにも必要十分!)
自作解説は内心どんなに巧くできたものだと思っていても、正直に書くのはかなりの文章力が必要なのでなかなか難しい。
この作品を発表したとき、数日たって、故七條兼三氏から突然葉書が送られてきた。「名作でびっくりしました」と達筆で書いてあった。『盤上のファンタジア』より
というわけで今回も超有名作品だが、詰将棋入門者のためのテキストなのでこの作品を取り上げることにした。
さっぱりした初形と持駒。
いきなり間駒の読みが出てきそうで、間駒に慣れていない方には難しそうに感じるかもしれない。
自分にも言い聞かせる意味で、書いておこう。「慣れ」ればいいのだ。
初手はちょっと離して飛車を打ちたくなる。
42飛、22香、
【失敗図】
逃げたら32飛成と31角の離し打ちがあるので間駒だ。
強い駒なら21角打、13玉、22飛成、同玉、32角上成、13玉に取った駒を打って詰み。
22桂合なら21角成(!)、同玉、32角、12玉、13歩、同玉、43飛成で詰み。
ところが香合だけ詰まないのだ。
紛れにおいて限定合で不詰というのは、いうまでもなくプラスポイント。
そこで次に考えられるのは次の攻め。
13歩、同玉、33飛、
13歩は応手がいくつもあるので不安感のある手だが、丁寧に潰していくといずれもさほど難しくない変化だ。
つりあげて33飛と下ろすのは43角との連携を考えている。
例えば香合なら
23香、22角、
同玉に32角成、12玉、23飛成までをみている。
12玉と躱しても21角成から31飛成で簡単だ。
香桂金飛いずれも同じ筋でいける。
23銀、
残るは32に利きをもつ駒しかない。銀合に確定だ。
同飛成、同玉、41角、
離して打って馬を作るのが筋だ。
33玉なら32角引成、44玉、54角成、34玉、23銀まで。
12玉、21角成、
12玉には23銀では13玉で困るが、21角成と華麗に捨てて、同玉に32銀、12玉、23銀成、21玉、32角成で歩が余る。
13玉、22銀、
13玉には22銀と捨てれば同玉なら32角上成、12玉、23馬、21玉、32角成でやはり歩が余る。
22銀を取らずに12玉、13歩、22玉、32角上成、13玉、23馬までが駒が余らないから作意?
いやいやよくみたら12玉と躱したら21角成までの1手詰だ。
これは応手が間違っている。
32桂、
41角には32桂と捨合するのが正解だ。
駒を渡して馬を作らせて不利のようだが、2枚角の利きをダブらせる効果が大きい。
同角引成、13玉、22銀、12玉、
玉が狭い所で打歩詰を頼りに凌いでいるのがお解りだろう。
ということは先程の間駒も桂馬以外だったらここで詰みだということだ。
(歩は二歩禁で打てない)
11銀成、13玉、
【失敗図】
継続手としては11銀成しか見えない。
21馬では23玉、32馬、12玉で千日手だ。
しかし、13玉で後続手がなく失敗。
さて、持駒とこの【失敗図】をみて、詰上がりが想像できるようになったらもう中級者だ。
(22銀、12玉に)21馬、23玉、15桂、
桂を捨てて、歩を吊り上げる。
同歩、32馬、12玉、11銀成、13玉、
12成銀、同玉、34角成、
なんと綺麗に捌けることか。
同銀、13歩、同玉、14香まで27手詰
墨江酔人ならずとも「名作だ」と感じ入ったのではないだろうか。
なお46歩が唯一本作の逆柱のような駒だ。
作意と関わらず、余詰消しの意味しかない。
どんな余詰か難しくないので意欲的な読者は考えてみてほしい。