角建逸さん安らかに

もう昔のことなので曖昧な記憶ばっかりだ。
それでも思い出したことを少し書き連ねてみよう。(ここに書けば間違った記憶はどなたかが訂正してくれる)

 私は同い年の小林敏樹さんと高校で出会って詰将棋に目覚め、その高校の大先輩だった妻木貴雄さんに鍛えられた。
前後して原敏彦さんから誘われて田宮克哉さんの詰朗会や森田正司さんの詰将棋研究会に参加し、ますます詰将棋の沼にはまり込んでいった。
角さんは我々よりは少し年上だった(申棋会よりは若い)が、詰研に顔を出し始めたのは少し遅かったように記憶している。
出会いはその詰朗会か詰将棋研究会か。
添川さんとよく連んでいたような記憶がある。(そういえばもう何年も添川公司作品集を抱きかかえたままだったが)

 留学したりしていたと思ったら、いつのまにか「将棋連盟に就職しました。驚いたでしょ?」と驚かされた。
アルバイトをしていて、こいつ使えるとそのまま正規採用されたパターンのようだ。
北原義治さんのエピソードは角さんから聞いた話しか知らない。図面用紙の束をいつも持っていたといった話とかここでは書けないタイプの話とか。
 手合いの調整・連絡の仕事の話もいろいろ伺ったが、詰将棋絡みの仕事も好きだから一手に引受けていたのだろう。
間駒作品が得意になったのは環境の所為だと言っていた。棋士の先生に作品を見せると間駒が入っていないと一瞬で詰まされてしまう。
間駒1個入れると少し持つ。それで間駒を何個も入れるようになったとか。

 手合いをつける苦労話をしていたと思ったら、いつのまにか「将棋世界」誌の編集長になっていてまた驚かされた。
あれ? 編集部員の時期ってあったっけ? そもそも角さんと InDesign ってイメージあわないんだけど。

 カミサンが編集長に就任するその前に、将棋世界付録に詰将棋作品集がたくさんでた。
それなら角編集長になったら毎月詰将棋になるのかと期待する向きもあったが、意外というか逆に釘を刺されたか遠慮したか、抑制的だった。
結局、角編集長時代には数冊しか詰将棋作品集の付録は出なかったのではないだろうか?(小林敏樹と一族?)

 桔梗や兼井千澄の筆名で将棋ジャーナル、詰パラ、近代将棋などで解説を書いていたのは、この時期だったのだろうか。
いや大学生の頃からずっとかな。

 そのあと将棋世界編集部はまるごとマイコミだかマイナビに引越すことになったのかな。
前後関係はわからないが、定職に就くことをやめたと言ってまた驚かされた。
前将棋世界編集長は美人で強い女流棋士と結婚したので、角さんもそのうち?と思っていたのに、まさか一人で生きていく道を選択するなんて。
(いや、考えてみると収入が少ないことと結婚しないことは独立事象か?)

こう書いてみると、角さんには驚かせられることばっかりだったんだなぁ。最期もそうだけど。
(そういえば今、角編集長の後を継いだ田名後(前)編集長とキッズチャレンジの仕事をしている。『編集者T君の謎』大崎善生の方と一緒に仕事をできるなんて幸せだ。角さんがやっていたビートルズのコピーバンドのドラムも田名後さん)

 それからはマイコミ・マイナビなどで詰棋書の編集をする一方、角ブックスを立ち上げて優れた詰棋書を世に送り出した。
また夕刊フジで毎日の詰将棋連載。JT将棋日本シリーズの仕事。詰将棋解答選手権年鑑の編集(これは収入になったのか?)など仕事を選んで生きた。

 角ブックスの仕事は正しく「職人芸」というべきもので、収支はあきらかに度外視していた。
自分が読みたいものしか作らない
これが角さんの信念だった。作家がどのような考えでこの作品を作ったのか、それが読みたい。
「解説もお任せしたい」というタイプの作品集編纂の仕事はお断りしていたようだ。

 角ブックスの仕事を一覧にしておこう。

  • 小さな絵 近藤郷
  • ひより草 河内勲
  • 信濃路 赤羽守
  • からくり箱 酒井克彦
  • 幻の城 三輪勝昭
  • 般若一族全作品 近藤郷編
  • 一番星 波崎黒生・中野和夫
  • 星河 海老原辰夫
  • 現代詰将棋 短編名作選
  • 現代詰将棋 中編名作選
  • 現代詰将棋 中編名作選II
  • 酔鯨 芹田修

 3冊の名作選を完成させ、「森田正司さんから得たものは次世代に返せたのではないか」という達成感があったようだ。
こちらは「次は長編名作選でしょ」と盛り上がっても、あまり長編には乗り気ではないように見えた。

 続いて、角さん自身の著書・著作物をわかる範囲で列記すると次のようになる。

  • 角建逸作品集 自費出版(?)
  • 初めての詰将棋 成美堂出版
  • 詰将棋探検隊 角建逸 毎コミ
  • 迷図 コピー本
  • ミクロコスモスの世界 将棋世界付録
  • 将棋マガジン詰将棋選集 将棋年鑑だか高い本の付録
  • 羽生善治の1手・3手詰め将棋 主婦の友社
  • 羽生善治の1手・3手・5手ステップアップ詰め将棋 主婦の友社

 『角建逸作品集』は森田さんのリコピー版にもなったが、残念ながらどちらも私は持っていない。不思議なタイトルだが、まだ推敲する予定みたいな意味だったのだろうか。(コメント参照:『古今詰将棋書総目録』には『再行』と記載されている。2025.01.10 『角行』を『角建逸作品集』に訂正)
 『迷図』は作品集制作のための一里塚として、図面だけを50局選んだもの。解説はない。抱え込んでいる仕事を全部片付けたら自作集も作るつもりで100局の選局を始めたという話はあった。(夕刊フジだけで1000局以上だしているし、まもなく詰パラでも100局発表で同人作家入りするところだった)
 『将棋マガジン詰将棋選集』は消えてしまった「将棋マガジン」掲載作品から200局を選んで解説を加えた労作。
貴重品だ。私も1冊持っていたが、(私より)若い方に進呈したので今は手元にはない。
 一般出版社から出した3冊は二上達也監修と羽生善治監修の易しい初心者向けの問題集。一応3冊とも私は持っている。
 『詰将棋探検隊』が将棋ペンクラブで佳作を獲った「将棋」に30回にわたり連載された「詰将棋探検隊は行く」に加筆編集しで書籍化したもの。名著だ。
現在は絶版になっており、ヤフオクなどでは高額で取引されている。再刊もしくは新版が望まれたが、手をつけるとなるとかなりの大仕事になるのは明らかなので「考えている」とはいうのだが、放置されたままになっている。(『短編名作選』も同様)
ところで経歴を読むと平成4年(1992年)にも将棋ペンクラブ大賞佳作を得ている。これは著作ではないのかな。(あとで調べてみるか)

 『詰将棋解答選手権2014』~『詰将棋解答選手権2019』も角さんの編集だ。今年コロナから復活したので『詰将棋解答選手権2024』も制作していた。が、『やることは決まっているのに、いざ取組むとあっというまに挫折してしまう』という状態に陥って、なかなか完成しなかった。12月26日に呑んだとき、そういうときは仕事をしてもしてなくても心の重荷になっちゃうから一旦放り投げてしまったほうがいい、私がその仕事を引き継いで片付けるからという話になった。(それで私は角さんの InDesign のスニペットや技を頂戴して WINWIN の関係になる)
数日中に整理してデータをメールしてくるはずだったが、そのメールは終に届かなかった。

「角建逸さん安らかに」への9件のフィードバック

  1. 長文有難うございます。
    角さんが将棋ペンクラブ大賞を受賞されたのは第5回で、
    平成5年11月11表彰ですが、
    単行本前の「将棋」連載の「詰将棋探検隊は行く」に対してです。
    平成5年11月20日発行の「詰研会報」№213に森田さんが出席の様子を書かれています。
    (森田さん自身もこの時特別賞を受賞されています)
    https://shogipenclub.com/prize/prize-history/289/

    1. 情報ありがとうございます。
      なるほど、連載で1回、単行本で1回受賞したということですね。

  2. 調べたのですが単行本では受賞されていないみたいですね。
    自分も将棋ペンクラブに顔を出すようになって入会したのは柳田さんの看寿賞作品集の時なので、この頃のことはよくわからないのですが。

    1. 同じテキストで2回受賞はおかしいですね。
      わかりました。
      本文を少し訂正しておきます。
      ありがとうございました。

  3. 「再行」は、廉価な彫り駒の「角行」の簡略字体を誤読したもののようです。

  4. なるほど!
    想像するとこんな感じの本だったんでしょうか。

    角さんの「角」も本当は下に突き抜けるようですし。
    本文を修正しておきます。
    ありがとうございます。

  5. 谷川さんの推測どおり「角行」の誤読でした。大事な書名を誤るとは失礼しました。
    駒にも詳しい角さんでしたから、駒文字をデザインにしたことに気が付かなければいけませんでした。”スミは行く”というシャレを理解できなかったのは残念。
    失敗談は続きがあります。角・再の誤読は問題ではなかった?
    詰研会報には何回か賞券引換用に詰棋書リストが載りましたが、そこでは「角建逸作品集」とだけで副書名はありませんでした。
    今になって見れば、「角行」はデザインであって書名の一部ではないと考えた森田さんの解釈が正しかったと思えます。詰研会報のリストは副書名を省略していると思い込んでいました。原本、詰研版とも扉・序言・刊記などなく、表紙以外に書名はありません。
    文字をどう読むかの以前に、書名はどこまでかという点でミスをしました。
    今となっては角さんにも森田さんにも確認しようもありませんが、当方のミスと判断して総目録を訂正します。
    角さんの生前に気が付いて謝まることができなかったのが悔やまれます。

    大切な指摘をしていただいた谷川さんに感謝します。
    実物の書影はこちらです。

  6. ISODAさん

    角さんのセンスの良さが分かる素敵な表紙ですね。
    貴重な情報をありがとうございます。
    いつか現物を見てみたいものです。

  7. 角さんのご冥福をお祈りします。
    ここ2.3年、角ブックスの作品集をたくさん買ってよんでいました。本の作り、内容、執筆陣から想像できる人望の厚さ、とても楽しく読ませていただきました。
    詰将棋仲間はお会いしたことがなくても、作品、短評、解説を通し交流しています。
    昨年、角さんがいらっしゃるとのことで、飲み会のメールがあったのに、仕事で参加できず残念。
    端正な形から紡ぎだされる中編の手順には楽しませていただきました。ありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください