長編詰将棋の世界(15) 雄大な左右での連取り趣向

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

井上徹也「シンメトリー」詰パラ2010.7

棋譜ファイル

88飛、85飛、同飛、同玉、
88飛、
{86飛、同飛、同玉、88飛、
77玉、87馬、66玉、68飛、
67飛、同飛、同玉、68飛、
56玉、65馬、45玉、48飛、
46飛、同飛、同玉、48飛、
36玉、47馬、45玉、46馬、
34玉、45馬、24玉、28飛、
25飛、同飛、同玉、28飛、
26飛、同飛、同玉、28飛、
16玉、27馬、25玉}=
54馬、
{26飛、同飛、同玉、28飛、
37玉、27馬、46玉、48飛、
47飛、同飛、同玉、48飛、
56玉、45馬、65玉、68飛、
66飛、同飛、同玉、68飛、
76玉、67馬、65玉、66馬、
74玉、65馬、84玉、88飛、
85飛、同飛、同玉、88飛、
86飛、同飛、同玉、88飛、
95玉、96歩、同玉、87馬、
85玉}=
43馬、、C54馬、
32馬、86飛、同飛、同玉、
88飛、95玉、96歩、同玉、
87馬、85玉、98馬、
63馬、、98馬、
72馬、98馬、、81馬、
16玉、27馬、25玉、18馬、
26飛、同飛、同玉、28飛、
37玉、27馬、46玉、48飛、
47飛、同飛、同玉、48飛、
56玉、45馬、65玉、68飛、
66飛、同飛、同玉、68飛、
76玉、67馬、65玉、66馬、
74玉、65馬85玉、88飛、
95玉、96歩、同玉、87馬、
85玉、98馬、86飛、同飛、
同玉、88飛、77玉、69桂、
66玉、68飛、67飛、同飛、
同玉、68飛、56玉、65馬、
46玉、48飛、36玉、47馬、
45玉、46馬、34玉、45馬、
25玉、28飛、26飛、同飛、
同玉、28飛、16玉、27馬、
25玉、18馬、26飛、同飛、
同玉、28飛、37玉、27馬、
46玉、48飛、47飛、同飛、
同玉、48飛、56玉、45馬、
66玉、68飛、76玉、67馬、
65玉、66馬、74玉、65馬、
84玉、88飛、85飛、同飛、
同玉、88飛、86飛、同飛、
同玉、88飛、95玉、96歩、
同玉、87馬、85玉、98馬、
86飛、同飛、同玉、88飛、
95玉、96歩、同玉、97馬、
同玉、99香迄501手詰

A 33角成は、同銀、28飛、25角合以下逃れ。
B 63馬は、34玉、33角成、同玉以下逃れ。
C 63馬は、34玉、33角成、同玉、34歩、同玉、45銀、33玉以下逃れ。
34玉は、33角成、同玉、34歩、同玉、45銀、33玉、34歩、32玉、22金、同玉、33歩成、同玉、34銀打、22玉、23銀成、31玉、32歩以下
16玉は、27馬、25玉、81馬と一往復短縮
D 54馬は、16玉で手段なし
84玉は、88飛、85飛合(95玉は、96歩、同玉以下作意に戻る)、同飛、同玉、87飛、以下
86飛合は、同飛、同玉、87飛、95玉、96歩、同玉、88桂以下
45玉は、48飛、46飛合、57桂、36玉、46飛、同玉、48飛以下
24玉は、28飛、25飛合、33角成、同銀、25飛、同玉、28飛、26角合、16銀、同玉、27馬、25玉、26馬、34玉、43角、45玉、57桂、46玉、48飛、57玉、35馬、66玉、67歩、同玉、68金、56玉、46馬、66玉、67香迄473手駒余り。
65玉は、68飛、66飛合、57桂以下

☆馬飛追い6往復。500手を超す大作だ。正解者は僅かに5名。しかし、決して複雑怪奇な作品ではない。23名もの誤解者を生み出したが、手の選択に迷う場面は実はごく限られているのだ。では何故。まずは初手から手順を追っていこう。

☆88飛で飛合2回、86玉に対し88飛で逃げ方は77玉と95玉の二択だ。95玉は進行すれば判るが作意に短絡する。77玉が正解だ。87馬から飛合2回で36玉まで移動させる順に紛れはない。47馬に26玉は簡単。45玉には46馬から押し込んでいく。45馬に24玉か25玉かの選択がある。33角成は同銀で合駒に角が使えるようになるので詰まない。なので手数を延ばす意味で24玉が正解だ。これが左辺から右辺に玉を移動させるの順。

☆8筋と対称的な手順が展開される。飛合2回の後、28飛には16玉と逃げる。15玉だと今度こそ33角成で銀を入手して簡単。27馬に25玉の局面が最初の分岐点だ。

【途中図1:44手目25玉】

☆馬の開き場所がいくつも見える。いや、63と、72歩、81桂という果実が見える。慧眼の士はここで見抜くだろう。81桂が終局の鍵だということを。そのためには72歩、63とを剥がす必要がある。いわゆる「連取り」だ。

☆ところがこの局面で63馬と攻めると、34玉とかわす。33角成同玉で…詰まない。なぜだ。

☆ふと63と、72歩とシンメトリーな配置43と、32歩に気づく。8筋で同じ形になればこれらの駒も剥がせるはずだ。

☆この段階で早くも作品の構成をすべて予想できた方もいるはずだ。玉を左右に移動しながら5枚の駒を剥がす。剥がす順序は43と、32歩、63と、72歩、81桂の順。桂馬を入手して収束に入る。

☆実はこの読みは総て正しい。では本作は単純な作品なのだろうか。否である。この構想を現実の作品に結実させるのは容易ではない。強力な馬と飛車の制御。手順前後のロジック構築。作者の苦心は計り知れず、解答者もその軌跡の一端を辿ることになる。

☆手順に戻ろう。それでは途中図1で折り返すにはどうすればよいのか。34に落とさないためには45馬だが、それでは16玉で千日手。食いつきたい63との手前で止まる54馬が妙手だ。これなら飛合の一手で折り返せる。

☆86玉88飛95玉となり96歩同玉と左辺では1歩消費する。このことが無限回転を否定し、はたして歩の数が足りるのかという「時間制限」効果ともいうべき焦燥感が解答者を楽しませる。

【途中図2:86手目85玉】

☆ここまでが玉を右辺から左辺に移動する手順だ。この局面で43馬と駒を剥がせる。

☆飛合の後85玉だとすぐに32歩も剥がせるので88飛には77玉以下一往復してこなければならない。

【途中図3:126手目25玉】

☆途中図1と比べ、玉方43とが消えている。この局面で63馬と行ってはいけないのだろうか。

☆63馬にはやはり34玉と下がる。33角成同玉34歩同玉45銀33玉…打歩で詰まない。つまり32歩を消去してからでないと63馬とは進めないのである。32歩がないと途中図3から54馬に16玉と愚図られたときに43馬に34歩合が生じる。なので32歩は取ってはいけないと誤解した方がいらした。

☆再び途中下車の54馬から左辺に追い、図はいよいよ32歩を取る所。

【途中図4:168手目85玉】

☆これまでは8筋にいれば連取りが進むので玉は自ら77玉と動き出した。しかし、32歩を剥がされた以上は逆に左辺にとどまろうと88飛には95玉とごねる。どうやって右辺に運び出すか。ここで悩んだ方も多かったはずだ。

☆正解は98馬。97香に狙いをつけた妙手だ。これで右辺に追い出せる。

【途中図5:218手目25玉】

☆図はいよいよ63とを剥がす局面。63馬に34玉は変化を参照のこと。ここからは左辺を98馬で折り返す平穏な手順が続く。問題は最後の81桂を入手してからだ。

【途中図6:382手25玉】

☆ここからは桂馬を入手したことにより、玉の逃げ方が油断ならなくなる。誤解者の殆どはここから後の地雷を踏んだ方々だ。

☆まず左辺に戻ることを愚図る16玉。追い出すには18馬が必要だ。

☆持駒に桂があるので左辺に追って65馬に85(84)玉88飛95玉となる。(変化)

☆69桂と打つのが収束への最後の鍵。

☆57桂があるので、45玉、65玉の時に飛合ができない。作意は46玉、66玉。(変化)

☆2筋に追ったとき、24玉と手数を稼げない。(変化)しかし最後の8筋では84玉とできる。

☆これらは罠として企画されたものではない。この作品を成立させるために必然的に生まれた破調であることは理解いただけると思う。

☆正解者の声を聞こう。

池田俊哉 なんとも驚愕の作品。このシンプルな構成で500手超えは、半期賞どころか看寿賞候補の一番手と言えそう。

今川健一 追いかけて、斜めに並んだ駒を取る趣向は直ぐに解ったが、途中で寄り道、収束、1歩不足で悩んだ。 収束に同じ手順で追いかけると、2度ほど飛合多くなるが、それは誤答、危ない、危ない。

福村 努 非限定(1)414手目85玉(2)436手目46玉(3)468手目66玉 「A」

国兼秀旗 盤面の左右で瓜二つの手順が繰り返し出現することはタイトルから予想されるが、現実にそれが目の前に現れてみると驚嘆せざるをえない。69桂が入ると微妙に対称性が破れて牙城が崩壊するところも味わい深く、長編における紛うことなき傑作と断ずる。

須川卓二 いやあ面白かった。題名も作品にマッチしていて謎解き含め完成度の高さは半端ではない。途中ある落とし穴も嫌らしさは感じられず逆に巧みなワンポイントになっている。

☆数えてみたら飛合は58回。メタ新世界の93回という記録があるので新記録にはなりません。

☆正解者は全員A評価。担当者念願のオールAをはじめて成し遂げた。

☆\(9^2\)の盤面と39枚の駒を使い切った雄大な趣向。それぞれのパーツは決して難しくないのに、その組合せに謎解きの楽しみがたっぷり詰まっている。繰り返しの多い長大な手順だが、随所に考え所があり飽きさせない。桂馬を入手し解決したと安心した途端に広がる地雷原。よくぞ見事にまとめ上げたという声が集まった。

☆誤解者にも充分満足していただけたようだ。

小川★勇 誰かさんが、ザ ピーナツの「恋のフーガ」を 貼り付けたいと言っていた。これ又、鉄人レースで草臥れました。飛合は何回?手数は何手? さっぱり判りません。評価はA

武★静山 (543手解)作意はすぐに読めたが桂を取るまでの手順に試行錯誤。特に歩を使う時期が完全に読めていない。もう少し時間があればキッチリ読めそうだが猛暑でこの手数はキツイ。

永島勝★ (525手解)32歩を取る前と後で馬の動きが違うとか、63馬を実現するためには、43と32歩の両方が邪魔とか、精緻な構成に感心。また、深く考えずに進めると歩が足りなくなるので、どこで節約するのかも結構悩みました。

神★ 薫 (521手解)折り返しを含む趣向手順も収束もすぐに判りましたが、作意だろうという順を見つけるのは月末ギリギリまでかかりました。これでもまだ見落としがあるかもしれませんが、鑑賞するには十分なだけ検討したとは思います。判りやすい内容ですがきちんとまとめるのは大変な素材だと思います。力作でしょう。

詰★人   (521手解)左右対称になっているので大体の筋は読めますが500手越えには驚ました。明王手で馬の位置が変わっていくのは面白い構想です。

小林 ★ (521手解)看板に偽りなし。とえも楽しく、かつ知的好奇心を揺さぶられる内容でした。趣向は簡潔ながら、どの歩から取っていくのかは考えさせられ、ひっかかりそうになる。久しぶりに大学院を解答しますが、これからもよろしくお願いします。

竹中★一 (517手解)解けた気がするけど合っている気がしない…意外に長手数ですね。確かに面白いけど解くための苦労が多かった気が…。

 (513手解)細かいところの手数稼ぎなどありそうで全く自信ありませんが、おそらく主題となるところは見えているかと…。左右で同様の飛打飛合と飛馬による追い回し。両端で細かく折り返しの条件が変わってくるものの、ある局面で可能な手が次のターンでは不可能になる綾がかなり複雑。よくこのロジックをまとめたもの。ちなみにこれだけうまくまとまっている作品だけに、何らかの長手数や回数記録にはなりそう?(評価A)

★川慎耶 (513手解)32歩が絶妙の配置。収束が易しいのは、この構成ではプラスに働くと思う。是非ともオールAを取ってほしい。

高坂 ★ (509手解)若者らしく大胆でのびのびとした左右対称の飛馬追いにまず圧倒される。一サイクル70手を超える趣向といい、剥がしの順番を決めるロジックの巧妙さといい、どれをとっても一級品。傑作!

★ 圭伍 (509手解)これは非常に面白い趣向ですね。32歩を剥がすと3筋に歩合が効く事になって手順が変わるなど非常に面白かったです。後、桂を打った後、24に逃げれないなど見落としやすいですね。局面が微妙に変わるので一個一個きちんと潰してないと嵌りそうでした。でも、最後88飛に対して87飛で変長かな?

加賀★志 (505手解)振り子が揺れているよう行ったり来たりしながら桂を入手し収束へ。答えと手数を調べるのに本当に疲れました。

増★智彬 (497手解)32歩を取らないと63とが取れない仕組みになっているのが非常に巧い。81桂を取った後や79に桂を打った後は変別に陥らないように非常に気を使いましたが、正解の自信はないです。

★口賢治 (491手解)ターゲットは81桂だが、その前になすべき仕事があった。多重連取りの大作を解き終えて暫し感嘆あるのみ。

名越健★ (471手解)いやーこれは確かに面白い。

中沢★夫 (443手解)コンビネーションによる飛馬追いと直交する2軸の連取り。場面転換の手順はシンメトリックで美しい。飛打飛合が繰り返され、1サイクルあたりの長手数化に成功している。81桂の取得が目標だが32歩は取ってはいけない。また反転する機構は左右で異なり、これらのアシンメトリーが作品内容を深いものにしている。

斎★博久 (437手解)左右への転換の仕方が大変だった。

★田 登 (437手解)またまた感動作に出会えた。32歩がある状態では63馬と行けず54馬と途中下車する順はすごい構想。69桂を打った後も玉の逃げ方に注意が必要で本順で正しいかどうか

鈴★ 彊 (321手解)飛と馬での追い回しは実に面白く43馬32馬63馬72馬と歩を入手するところは素晴らしいです。テーマのシンメトリー玉の動きも含めて圧巻でした。玉方も81馬と桂を入手されると余詰となるのでそこまでは手を伸ばすことは出来ず終局をどこで迎えるのか不安もつきまといましたが、やっと11玉で終局となりホッとしました。手数は長いですがテーマが見えていますので長くは感じませんでした。

出﨑 ★ (313手解)全く自信はありません。

★本慎一 (157手解)飛交換の応酬。玉を下段に追い回し誘い込む。

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