第2回 竹下雅敏 氏の構想中編を解く!
<図1>
まずは盤面をよく見てみましょう。
桂香が全て盤上に出払っているのが目に付きます。
これは玉方の合駒を制限するためなので、心に留めておきましょう。
<図2>
初手は68角と打つ一手。
何の合駒でも取ってしまい、玉の背後をこじあけるより他にありません。
<図3>
普通に57歩合とすると・・・・・・。
同角左、同桂成、43飛、35玉、36歩、24玉で次図。
(途中、43飛に56玉と逃げるのは、45飛成、66玉、67歩、同桂成、65龍で簡単です)
<図4>
ここで手が切れたように見えますが、57角と活用して手が続きます。
57角、46歩合、同角、同桂、25歩
<図5>
ここまで来ればあとは簡単。
34玉の後、26桂、同と、35歩、同玉、45飛成まで19手で詰んでしまいました。
<図6>
どこが構想作なのかって?
まあまあ、もう少しお待ちください。
問題だったのは2手目の合駒です。他の合駒ではどうなるでしょうか。
桂香は品切れなので・・・・・。
<図7>
そう、皆さんもうおなじみの「57飛合」と不利合駒の登場です。
以下、同角左、同桂成は当然で次図になります。
<図8>
ここから、先ほどと同じように43飛、35玉、36飛(!)、
24玉、57角、46歩合、同角、同桂とすると・・・・・・。
<図9>
36歩でなく36飛になっているため25歩が打歩詰(!)になるという仕掛け。
2手目の飛合は「打歩詰誘致の玉方飛先飛歩」(これは業界用語)だったのです。
<図10>
さて、飛合を取った直後のこの局面。
飛車が2枚もあればすぐにでも詰みそうなものですが・・・・・・。
<図11>
43飛、35玉、45飛成、24玉では飛車を1枚手にしていても捕まりませんし、
<図12>
43飛、35玉、45飛打、36玉、46飛、35玉としても、
以下36飛、24玉・・・・・・ではさっきの打歩詰局面に戻ってしまいます。
<図13>
かといって、45飛と打ったのでは56玉と逃げられてどうしようもありません。
<図14>
なにか飛躍した一手が必要ですね。
そこでドーンと「41飛」の妙手を放ちます。
遠く21香に狙いをつけたもので、35玉と逃げると、36飛、24玉、57角で詰むのです。
<図15>
ここは変化があるので少し丁寧に調べてみましょう。
<図16>
1)46歩合、同角、同桂、21飛成、23合、25香・・・
<図17>
2)33玉、25桂打、22玉、13角成、11玉、21飛成、同玉、23香・・・
<図18>
3)23玉、21飛成、22合駒、35桂、13玉、25桂、24玉、22龍。
22合駒のところ33玉だと34飛、同玉、24龍まで。
<図19>
4)35歩、同角、23玉、21飛成、22合、24香、33玉、45桂・・・
と、どれも思ったより簡単に詰んでしまいました。
<図20>
しかし、敵もさる者、41飛と打たれた時に「42歩」と中合するのが旨い応手です。
<図21>
42歩を同飛成と取るのは敵の思うつぼ。
21飛成と回る筋が消えてしまい、35玉、36歩、24玉、25飛、13玉としても捕まりません。
<図22>
ここで、間髪を入れず、第2の妙手「43飛」が飛び出します。
敵歩の頭にまるでただ捨てのように見えますが・・・・・・。
<図23>
35玉なら45飛成、24玉、21飛成、23歩、25香・・・で詰みますが、これが「41飛、42歩」を事前に入れておいた効果なのです。
56玉と逃げられても、45飛成、66玉に61飛成があるので大丈夫。
<図24>
したがって、43飛には同歩の一手。
<図25>
以下、同飛不成! 35玉と進めた局面をご覧ください。
不思議にも持ち駒の飛が歩にすり替わって、2手目に歩合をされた時と同じ進行になっているではありませんか。
<図26>
あとは最初にたどった手順どおり。
36歩、24玉、57角、46歩合、同角、同桂
<図27>
25歩、34玉、26桂、同と、35歩、同玉、45飛成まで23手詰となります。
前回の大橋健司作を見たあとでは、やや呆気ない感じがするかもしれません。
しかし、玉方の打歩詰誘致の飛合に始まり、遠打~中合~歩頭の飛車捨て…と、
双方秘術を尽くした手順の応酬は圧巻です。
特に私が評価したいのは、テーマ部分の凝縮度が高いところで、
よくもこんな虫の良い手順を思い描いたものだと感心します。
駒配置や序盤に多少の難点はあるものの、野性味あふれる構想を実現した秀作と言えるでしょう。
最後に全体を通して鑑賞してください。
2002/11/5 文責:小林敏樹 投稿者 kazemidori : 2004年08月22日 23:32
コメント
完全に初見の(要するに覚えていない)作品でした。
「41飛、42歩合、43飛、同歩、同飛生」の5手をまず夢想してそれを実現した、という創作過程が透けて見えますが、もちろんそれは悪いことではなく、作者の技術と意思の力を感じますね。
これを紹介した小林氏の「眼力」もすごい。
「No.3」「No.4」を早く読みたいです。
Posted by: ito tadashi : 2004年08月22日 23:45
覚えていなかったですか?
「詰将棋の詩」の晩年、有吉弘敏さんが編集長だったときに「今月の優秀作」となった作品でした。
Posted by: 小林敏樹 : 2004年08月22日 23:46
【解説】伊藤氏はガリ版刷のミニコミ誌「詰将棋の詩」の創設者でした。
2代目編集長が昨年に亡くなった山本昭一氏でした。
ちなみにこの時の,ガリ切り・印刷・発送の担当が風みどりでした。
Posted by: 風みどり : 2004年08月22日 23:46
本当に完全に初見の作品でした。
やはり初めて見る作品を鑑賞するのは楽しいものです。
今後も無名な(っていうと聞こえが悪いけど)作品の紹介が続いてくれるとうれしいです。
Posted by: でこ : 2004年08月22日 23:47
第3回の予定作はわりと最近の作品だからご存知かもしれないなぁ。
そういえば,相馬さんのところの「隠れた名作紹介」はどうなったんだろう?
Posted by: 風みどり : 2004年08月22日 23:47
小林さんの解説すばらしかった。
阿部です。毎年楽しい年賀状をありがとうございます。
メールの方も、職場のだけしか使っていないので、ご返事もできなくてすみません。
この企画、凄いです。パラなどでは、紙面の都合で、ここまで詳しくはできません。わかりやすく、なおかつ高度。もっとこのコーナーを宣伝して、多くの人に味わってほしいと思います。
Posted by: 阿部健治 : 2004年08月22日 23:48
ありがとうございます。
昨年末には小林解説の第2弾,第3弾が仕上がる予定だったのですが,
ちと遅れています。
阿部さんに誉められては,彼も奮起するに違いありません。
Posted by: 風みどり : 2004年08月22日 23:49
第2回の図は覚えていました。一番まじめに詰将棋やってたころかも。
歩頭の43飛が強烈。お約束の不利交換もこの表現ならば、
合駒制限にも納得します。
あのころ活躍した若い才能に、またいつか帰ってきてほしいと願っています
(風さん含む)。
小林さんの解説は風さんと似たテイストだけど、ちょっと硬派かなあ。
でも、読みやすくて楽しいです。
第一回と類似テーマにしたのは予定通り?
次もあふれるほどに図を使った、贅沢解説をお願いします。
名作すぎない、ほどほどの名作が好きだったりします。
Posted by: ミーナ : 2004年08月22日 23:50
「ほどほどの名作」とは面白い表現ですね。
「カルタ」の札に「名作中の名作」というのを考えていますが
フォルダの中身はまだ,からっぽ。
Posted by: 風みどり : 2004年08月22日 23:50
残念ながら余詰が見つかりました
7手目43飛のところから,
▲同(42)飛成△35玉▲45龍△24玉▲15角△13玉▲43龍△33金▲25桂△同香▲33龍△同香▲24金△12玉▲13飛△21玉▲22歩△同玉▲33飛成△11玉▲13香△21玉▲12香成△同玉▲23金△21玉▲22金まで27手詰(計33手詰)
柿木将棋VII が発見しました。残念!
竹下氏,是非,復活して修正図をくださいませ。
Posted by: 風みどり : 2004年08月22日 23:51
安直ですが、全体を左にひとつ寄せて14歩を追加する修正ではどうでしょう?
もちろん作者ご本人が修正図を作って、どこかに正式発表されるのが、最も望ましいと思うので、これはあくまで参考ということで。
Posted by: 橋本孝治 : 2004年09月03日 17:09
「作者に無断で修正」なんて伝わると気分を害されるかもしれないので,「1歩の増加以内で修正される余詰である」という証明と受け止めさせていただきます。ありがとうございます。
<橋本氏による修正案>
Posted by: 風みどり : 2004年09月03日 19:47
これくらい詳しく変化を記載頂けると
自分で解かずとも充分に楽しめます。
自力解決しようとすると、時間が掛かってしまうのが最初から判っていますので結局は
解きません。つまり鑑賞出来ないのです。
あと何作か、このスタイルでの解説をお願い
できると私のように気力・棋力の無い者でも
楽しめます。
Posted by: KATSU : 2005年08月30日 22:21
感想ありがとうございます。次の作品も選定は終わっているのですが,次回は変化紛れの解説だけでなく歴史にも触れたくて,でも資料を集める時間が取れなく,ずっと止まっております。
でもこうやって感想を頂くとやる気が出てきます。がんばりますので,お楽しみに!
Posted by: 風みどり : 2005年08月30日 23:22
感想をいただけると嬉しいですね。
取り上げたい大作はずっと頭の中にあるのですが、どうもしんどくて長いことサボっております。
また何か書きますので、今しばらくお待ちください。
Posted by: toshiki : 2005年08月31日 01:53
パッパと投稿してしまいましたが他の投稿者をると凄い面々ばかりで恐縮します。
天女、馬*馬、ミクロ(収束にハマッテ一年越し解決)小林氏作全看寿作品等など
こんなに美しい作品を作って頂き、この場を借りて作者にお礼します。私は単なる、
一番多いと思われる自力解図をして楽しむタイプでしかも棋力・気力・持ち時間が少ない
裾野のヘボフアンです。ミーハーですから一応「看寿賞作品集」の本から抽出して
楽しんでいますが、かなり時間を費やしましたがまだ30%しか解けていません。しかも
賞に漏れた物でも、それ以上と思うものは目白押しに沢山有りますし、単に回答解説を
読んでもなかなか伝わりません。そこで、この精解のカテゴリーですが、これこそ救済策です。
しかも、自力解図出来ても、駒三十九作等は気が付かなかった事まで書いてありました。
歴史記載は後回しにメンテ頂くとして早くUPして欲しいものです。
Posted by: 時間切れの詰棋フアン : 2005年09月11日 10:34
もう3年近く放置してるんですね。このコーナー。締め切りの無い仕事だと3年なんてあっという間です。でも,小林さんからも「先日,コメントついて書く意欲が湧いてきた」との私信をいただいています。乞うご期待!
私も,がむばらねば。
追伸:投稿者の顔ぶれは凄いですが,管理人は凡人なのでご安心を~!
Posted by: 風みどり : 2005年09月12日 18:59
詰棋サイトは、作品・作家寄りの発信が多いが詰棋解答者の声も聞きたい。解き方の方法論に何か発見は有ったのかとか?、コツ、苦労話し等、頭の中での思考だから表現は難かしいとは思うが、出来れば実力解答者から以上のような事を知りたい。詰棋には色々な楽しみ方が有るが、解いて楽しむ人が一番多いのだから、詰めパラ辺りに常時、解答を寄せていた方々の声も聞きたい。例えば「実力解答者No.1は誰だったか?」とか、過去型にしたのはPCの影響だ。「作家No.1は誰か?」よりも興味が有る。何故なら。私は一番多いタイプのフアン&ヘボ解答者。こんな話題も今、済ませておかないと実力解答者が過去型になる。解図困難な作品ほど奥深く、美しいが、真に鑑賞出来る人は少ないからだ。
Posted by: KATSU : 2005年09月24日 21:33