詰将棋入門(140) 禁じられた遊び

山田修司「禁じられた遊び」『夢の華』第82番 近代将棋1972.3

この作品は詰将棋雑談(5)で紹介して簡単な解説も書いた。
しかし「雑談」は中級以上の方向け。初級向きの「入門」でも一度はきちんと取り上げておく必要を感じるので再度の登場。あしからずのほど。

55玉から46玉という逃走路が気になる。
まずは43角の入手を狙う。

76金、同角、74金、65玉、76銀、同玉、

74玉には85角からと金で押していけば良い。

88桂、同と、75金、同玉、53角、

53角と馬を作りに行くのが詰の構図。
76玉に対して先に88桂と捨てておくのが巧い。

   65玉、64角成、76玉、86馬引、65玉、

【途中図】

これで右辺に追い込んでいく形が出来た。
例によって、ここから先ずは紛れ順に進んでいこう。
55~46の逃走路があるので54銀と捨てるのは順当な攻め。

54銀、同玉、64馬、43玉、53馬、33玉、

玉は身動きできなくなったが、攻め駒が不足している。
桂馬しか持駒が無い。
45桂、同歩としても95とがいるので、34銀、同玉、94飛とはできない。

99飛を活用したいのだが……。

24銀、同と、25桂、同と、15馬、

99飛の活用は39飛と使うことだろう。
そのためには59馬が邪魔駒になっている。
59馬を15馬と捨てるには15銀が邪魔駒になっている。

   同と、39飛、37桂、

【失敗図】

銀・桂・馬をたてつづけに捨て、39飛と念願の飛車の活用が叶った。
これは好調かと思いきや37桂合で失敗なのだ。
同飛としても、持駒はやはり桂馬だけ。
これでは何をしているのかわからない。

【再掲途中図】

さて【途中図】に戻り、作意を進めよう。
【失敗図】に至り、作者の設定した謎は判明した。
すなわち「桂馬以外の駒をどうやって入手するか」だ。

この途中図から8手の伏線手順がこの謎を解く鍵となる。

77桂、

まずは龍をおびき寄せる。
この手の意味は逃げ道封鎖。あとで77玉とできなくしている。
さらに56銀を可能にしている。
一石二鳥の手。

   同龍、64馬、76玉、68桂、

この68桂が肝腎の一手。
同龍とどんどん桂馬の持駒を進呈しているだけに思えるが……。

   同龍、86馬、65玉、

68龍が質駒になっているので、86馬は只だが取れない。
これで【途中図】に似た局面に戻った。
違いは持駒の桂馬が2枚減ったこと。
玉方57龍が68龍に移動したこと。

54銀、同玉、64馬、43玉、53馬、33玉、

さてこの「57龍→68龍」の意味は何なのか。
先程辿った紛れ順と同様に作意も進行する。

24銀、同と、25桂、同と、15馬、同と、
39飛、38歩、

【失敗図】と比較されたい。
57龍だったので37桂合をされたが、68龍なので38桂合はできない。
行き所なき駒の禁だ。

同飛、同龍、34歩、同龍、22銀不成、

桂馬以外の駒が入手できたので、あとは収束。
しかし31金とは実に巧妙な配置。
22銀生の気持ちよさは格別だ。

   同玉、31馬、同龍、23金、21玉、
31と、同玉、33飛、41玉、32飛成 まで53手詰

『近代将棋図式精選』から森田氏の評言を引用する。

“八段目には桂が打てない”という禁手を逆用したこのような伏線手は、詰将棋の歴史始まって以来の新構想であり、例えば物理学の世界で新理論を発見するのに匹敵する業績といえます。常に新手筋の開拓を志す山田市の数多い傑作の中でも、ひときわ光り輝く歴史的な名局です。森田正司

余分な手がなく変に難しく作っていないし、攻方の大駒は全て捌ける収束まで完璧と筆者などは思うのだが、『夢の華』を読むと本作でもまだ不満を感じる方がいる。

塚田正夫 桂合を避けるための構想は流石で、優れた着想を実現させる手腕は見事である。きびしく評価するならば収束手順において氏の力量が十分発揮されていないようである。

巨椋鴻之介 傑作ではありますが、38歩合が香合でも差し支えないのは気になるとも言えるし、ある意味では気にならないとも言えます。

最後に35手目15馬に24桂合としたときの変化について触れておく。

この桂合はピンされているので3筋には利いていないし、25とも動けなくなっているので3筋への利きは消えているのだ。

具体的には39飛に作意同様38歩合となる。

35や36に桂合をしても同飛、同と、24馬で早いので結局龍の利きに38歩合をする以外にないのだ。
以下、15馬が残ったまま作意と同じ手順で詰む。
24桂合は半分無駄合みたいなものだ。
蛇足だが、柿木将棋に解かせたら38歩合の後24馬とする変別解(変化別詰)をだしてきたので、触れておいた。

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