長編詰将棋の世界(9) \(岡田秋葭\times2\)

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉 (2010.04)

 3月号で聴講生募集をしたら、少しずつ反応が増えてきて嬉しい。
当初は作者に全短評と同時に聴講生の声もつけて送るつもりだった。でも、それだけではもったいない気がしてきた。しかし院の結果稿に割り当てられた四頁では今でも狭くて四苦八苦している現状。そこで、かつて短大の石黒さんがやっていたようにウェブ上で公開することを検討している。まだ編集部の了解を得ていないのですが、自分の短評はウェブ公開してもらっては困るという方はその旨書き添えてください。
 前期の締めはベテラン二人の競演。摩利作は手の付け方が閃けば軽快に手が進みます。添川作。前号の同氏作より手数は長いが易しいです。

こう書いてから10年……あっという間にたってしまいました。編集部の了解は得ています。

摩利支天「秋のIndication」詰パラ2010.5


棋譜ファイル

今月の2作は「本歌取り」と看破された方がいた。
まさにその通り、
摩利支天作は岡田秋葭の裸玉、
龍泉洞は森敏宏または鈴木利和に龍鋸を繰り返すと金剥がしの作品がある。

83銀、同玉、63飛、73歩、93飛、同玉、73飛成、94玉、
74龍、95玉、75龍、96玉、76龍、86桂、87金、95玉、
86金、84玉、85金、83玉、74龍、92玉、84桂、91玉、
92歩、82玉、72桂成、92玉、93歩、91玉、81成桂、同玉、
83龍、71玉、72歩、61玉、81龍イ52玉A53銀成、41玉、
51龍、32玉、42龍、23玉、33龍、14玉、34龍、15玉、
35龍、16玉、36龍、26歩、27金、15玉、26金、24玉、
25金ロ23玉、33桂成、12玉、13歩、11玉、22成桂、同玉、
23歩、13玉、14歩、23玉、34龍、12玉、13歩成、同玉、
24金、22玉、23金、21玉、32龍、11玉、22金、
まで79手詰

62玉は53銀生、63玉、64歩、73玉、84金まで
53桂成は41玉、51龍、32玉、42龍、23玉、33龍、14玉、
 34龍、15玉、35龍、16玉、36龍、26歩、27金、15玉、
 26金、24玉、25金、13玉、16龍、22玉、23歩、21玉以下不詰
13玉は16龍、22玉、23歩、21玉、33桂生、32玉、12龍、
 33玉、42龍、23玉、24歩、13玉、33龍、12玉、23歩成、
 21玉、22とまで75手詰

手の付け方が難しい。
84飛で合駒を考え始めたら泥沼になる。
83銀で引きずりあげて2枚飛車で挟撃し、一間龍の形にすればよいことに気づけば一気に展望がひらける。
ぎりぎりまで合駒は我慢する。二歩なので歩合はきかず、桂合となる。
92玉で少し迷うが、平凡に84桂で手が続く。
右辺に追い込んでいき42龍から33龍と追いかけて、「おかわり」が用意されていたことに気づく。うれしいサプライズだ。
しかし、それだけで終わらないのがベテランの作者の狡猾な所。
今度は歩合で折り返してきて、25金に13玉で
詰まないのだ。
16龍、22玉、23歩、21玉で困る。ここで33桂生とするために遡ってAで53桂成ではなく53銀成としておかなければいけないのだ。
イで62玉に53銀生という好手を配してあるので、ここでの53銀成は実に渋い好手になっている。

長編趣向においても既視感を感じる経験をするようになって久しい。その趣向の面白さを分析し損ねて意味のない複雑化などを施すと、むしろ改悪といった印象を受けることになる。

本作品、「清潔感ある初形からなにもない所で単純な追い趣向が現れる驚き」をもつ原作の良さを巧みに2倍に増量した。巧みというのは53銀成という心理的妙手を繋ぎに配したことである。この一手で作品全体の印象を塗り変えている。

「秋の気配」というタイトルなので秋に選題予定だったが、予定作がつぶれたために急遽出番と相成った。作者の意図は南野陽子なので特に問題なかろう。

作者 個々の部分は至ってありきたりの追い手順ですが、全体の構成や演出次第で新しい表現が可能という見本です。

鈴木 彊 53銀成のところ桂成は58手目の23玉で13玉とされる。龍と金で追う展開が左辺と右辺の両方に設定されているとは驚きました。素晴らしい構想でした。
吉川慎耶 53桂成として行き詰まった。変化で21の地点に利かせる桂を残す53銀成が正解。
竹中健一 53に銀が成るのがちょっと意外でした!楽しめました。
神谷 薫 81歩配置がヒントで右辺への折り返しは見易いが、再度縦龍追いが始まったのはちょっとだけ意外性があった。45桂を残す順の限定もささやかな味付けで楽しめて、解後の印象としてはこちらが強い。
斎藤博久 83銀から63飛が2枚飛を活用する唯一の手段。
中沢照夫 一間龍での追い趣向。茶園だけでなく右辺でも実現させているのが素晴らしい。53銀成が大事な所で桂成として収束に苦労する。
加賀孝志 追い回してき手順。力で押す作だが龍追いはよくある手筋。詰上がりも回り道的手もあるし解後感も今一つ
武田静山 玉の軌跡が「秋のIndication」だと思うが、日没の早さ?
宮本慎一 玉の大移動。龍に追い回され一筋の雪隠詰。
中出慶一 左辺、右辺での龍による追いかけは既成でもあるのでしょうが、左右で異なる手順になるのには感心します。特に右辺での追い手順は出色です。また左辺から右辺への繋ぎの手順もうまいものです。とにかく少ない駒数でこの長手順にできたのに作者の創作力を感じます。
永島勝利 左辺の龍追いは予想していましたが、右辺でも龍追いが入るとは驚きました。53に成るのが桂でなく銀であるなど、収束に至る細かい点もよく考えられています。実は、担当の言葉(手の付け方が閃けば)がなければ、初手85飛でもっと悩んでいたと思いますが、ニュアンスがあまりにも違っているので発想の転換で83銀を見つけることができました。
野口賢治 左右で実現する一間龍が狙いだろうが収束までの流れは軽快感に欠ける展開。欲を言えば再び左に戻って残余駒の再活用が理想なのだが…。
和田 登 しぶとい玉。左右対称の攻めがおもしろい
塚越良美 初手上から飛を打つ手ばかり考えていた。銀で吊り上げて横から攻めるのをやっと見つけた。途中53銀成か53桂成か迷う所。
佐藤 司 担当者のコメントの通り、83銀~63飛~93飛が見えて、ホッと胸を撫で下ろしました。
詰鬼人 七筋と三筋に龍による追撃を組合わせたのは巧い構想です。
鈴川優希 盤の両側で同じ趣向をするのが面白いですね。趣向自体はありきたりなのですが、それをつなげる発想がすごいです。そして中盤の53桂成と銀成との違いで微妙に詰まなくなるのがまた隠し味ですね。
利波偉 摩利氏得意のオマージュ作品ですが、左右で繰り返すパターンが今まで無かったのは不思議ですね。もっともそんなに面白いネタか?と言われれば疑問ではありますけど…。
凡骨生 有名手筋を左と右で行うとは!左右を巧く繋いでいる。
内藤陸 よく見ると、裸玉の基本形と類似。これが目に見えないヒントだった。右側でも同じような手順が出てくるとは思わなかった
弘光弘 龍で追い上げて金で落とす。これを両側でやるのだから楽しい。39手目桂を成りたくなるが、銀を成るところがいい。
池田俊哉 岡田秋葭氏裸玉を主題にした変奏曲と言ったところか。そういう意味でいけば、趣向に面白みはないが折り返しから次の龍追いにつなげる過程が良くできていると言えそう。   A
須川卓二 何もない空間で左と右での龍追い。ややこしくはないので楽しめると言えば楽しめる。B
増田智彬 初手が飛打等があるため悩ましくて、かなり彷徨った。左右でのこの龍追いを行うのは珍しいですね。A
小川悦勇 馴染みの裸玉手順が右左で展開。評価はB。
今川健一 竜での追い回し、両端で似たような趣向が作者の主張?少ない駒数で79手は感心するが、妙味は少ない。今は初夏、秋の気配とはね。

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