詰将棋つくってみた(93) 課題19:講評

Judge:シナトラ(藤原俊雅)

 12人の作家による21作品が集まった今回の作品展は、テーマ・表現の両面で非常に多様であり、水準も高かった。「変化を利用した一桁手数」は未開拓の部分が多く残る分野のため、はっきりとした評価基準は存在しない。その影響で選評が長く、初心者向けではないものになってしまったことを謝罪する(本来批評とは簡潔かつ明瞭なものだというのが私の考えだ)。なお、文中に何度も「本手順」という表現が登場するが、これは「作意」とは異なる意味だ。本手順+変化順=作意順(作者の意図した手順全体)と考えて読んでいただきたい。また、変同利用の作品に対して鑑賞の手助けとなるように「プロブレム的表記法」を用いることがある。これは作者の意図した変化を全て並列的に書くというもので、第1番にこれを適用すれば、49金、同銀成/同銀生、38飛/57角まで、という具合になる。

優秀作(Prize)

第6問 ひまかじま

正解
44銀、同桂、65飛、同角、64銀まで5手詰
44銀、同桂、65飛、同飛、47桂まで駒余り
44銀、同銀、56飛、同角、46銀まで5手詰
44銀、同銀、56飛、同飛、67桂まで駒余り

 初手44銀をどちらで取るかによって、飛を捨てる位置、つまりどの地点から玉方の飛・角に働きかけるかが変化する。内部構造に注目すると、まず65飛捨ての時は同飛/同角、47桂/64銀という風にラインの干渉が起きる。それに対し56飛捨ての時は同飛/同角、67桂/46銀となっており、4つの手順のうちで56飛、同飛、67桂の順のみ線駒のラインを切った効果が表れていない。つまり65飛は純粋な2枚の線駒の干渉(専門用語でNovotnyと言う)を引き起こす捨駒であるのに対し、56飛は「干渉含みの捨駒」にとどまっているということが分かる。そのような欠点はあるものの、少なくとも視覚的なイメージとしてこの2つの変化は同質の手順に映るはずである。また本作は今回の作品展で唯一、2手目で2手順に分岐したものが4手目でさらに分岐するという構造を有しており、5手詰として極めて新しい表現であることは疑いようがない。
 実はこの作り方には、11-99の斜めの筋を軸として捉えた時に2手順がシンメトリックに見えてしまう嫌いがあるのだが、その点は59桂という斜めの筋を跨がない駒が機能することによって打ち消されている。
 オリジナリティ・完成度の両面で群を抜いており、優秀作。

佳作(1st Honorable Mention)

第20問 小林敏樹

正解
57馬、22玉、23角成、同玉、24歩、32玉、23金、31玉、75馬まで9手詰
57馬、同と引、69角、22玉、12金、32玉、87角、31玉、21金まで駒余り
57馬、同と寄、58角、22玉、12金、32玉、76角、31玉、21金まで駒余り
57馬、同歩成、47角、22玉、12金、32玉、65角、31玉、21金まで駒余り
57馬、同桂成、36角、22玉、12金、32玉、54角、31玉、21金まで駒余り
57馬、24合、25角、22玉、12金、32玉、43角成、31玉、21金まで駒余り

 (57馬の取り方4種+24合)の計5パターンに対して、14角を25、36、47、58、69に動き分けるという奇抜な変化利用。これら5つの変化のうち1つを本手順に昇華させるという作り方もあるのだが、作者は別のところに本手順を付ける道を選んだ。これによるメリットは主に2つ。まず1つは、似たような5つの手順を無理に差別化する必要がなくなるという点だ。そしてもう1つのメリットは、追加の手順でテーマを増強できるところである(こちらは見逃されやすいのではないか)。その利点を活かしてこの作品では、本手順で先程の5パターンとはさらに異なる14角の移動先、つまり23角成!という手が出てくることになる。
 玉方の中段駒は作意において機能しないが、これは作品の性質上致し方ない面であってさほど気にならない。14角を6か所に動き分けるという難しいタスクを実現した秀作である。
 最後に1つだけ。私にはどうしても2手目35桂が無駄合には見えないのだ。44歩・52と→52王とすれば解決する問題だと思うのだが、どうだろうか?

(追記)2022.8.18

改良図

佳作(2nd Honorable Mention)

第18問 齋藤光寿

正解
27金、同歩成、67角成、11銀、18歩、同と、49馬、77馬、16馬まで9手詰
27金、同歩不成、34角成、11銀、35馬、26香、同馬、同馬、18香まで駒余り

 12角をどこに開くかを保留し、先に27金と広義の打診をしておくことで玉方の歩の成生を決定させる。これで取歩駒の有無を確定させられるわけだが、この時玉方に歩を成るメリット(歩を成らないデメリット)が存在しなければ作品にならない。そのロジックを2歩禁に求めた点が非常に斬新であり、ブルータス手筋の歴史に新たな1ページを刻んだ作品である。
 最後に、先に67角成とした後に27金と捨てる順が同歩不成でのみ逃れることを確認しておこう。もしこれが同玉でも詰まないようなら、この筋は形式的紛れとして機能していないことになるからだ。

推薦(Commendation)

第8問 やよい

正解
47桂、25玉、41馬、95角、35金まで5手詰
47桂、34玉、52馬、同と、24金まで5手詰
47桂、36玉、63馬、同と、27金まで5手詰
47桂、45玉、74馬、95角、35金まで5手詰

 本作のメインテーマは玉のplus-flight(縦横4方向移動)。さらに3手目の馬の移動先が全て切り分けてあるという非常に意欲的な好作だ。同じ具合に最終手の金の打ち場所も4地点用意させられればさらに素晴らしかったが、惜しくも35金がダブってしまっている。
 なお参考作として、玉のstar-flight(斜め4方向移動)に対して龍の移動先を4種類用意した青木作(参考図)を引用しよう。

(参考作)
青木裕一作
詰将棋つくってみた 課題11

26銀、34玉/36玉/14玉/16玉、43龍/33龍/23龍/13龍まで3手。

 この2作は共にチェスプロブレム風の重厚な表現になっており、超短編詰将棋の1つの方向性を示していると言えるだろう。

推薦(Special Commendation)

第21問 馬屋原剛

正解
41銀不成、43玉、32角不成、44玉、24飛不成、34香、45歩、33玉、25桂まで9手詰
41銀不成、61玉、63香不成、同銀、82歩不成、94金、62歩、71玉、63桂不成まで駒余り

 6種不成というテーマ自体は新しくないが、変化を利用にすればたった9手で実現できてしまうのは非常に驚きである。銀不成に始まり左で小駒、右で大駒が不成というところも気が利いている。駒数が多いという弱点は、手数の経済性(いかに短手数でテーマを表現できるか)の向上が充分補っていると言えるのではないか。
 また、本作に対して、テーマの手数短縮という変化利用の新たな方向性を提示した作品という見方も出来るだろう。このような作法を用いれば、例えば一桁手数で7種合といった無茶なテーマも実現可能なように思えてくる。

講評

第1問 松田圭市

正解
49金、同銀不成、57角まで3手詰
49金、同銀成、38飛まで3手詰

 変同を使ったスタンダードな銀の成と生の対比。成った時に46角が働かないまま詰んでしまうのは寂しいが、仕方のないところか。

第2問 羽毛布団

正解
66桂、同馬、45馬まで3手詰
66桂、同飛、43飛成まで3手詰

 飛には飛、馬には馬という対応。これ自体はオーソドックスだが、さらに移動の詳細(距離とベクトル)まで統一されている点に作者の美意識を感じる。そのことを強調するために中心軸を5筋に持って行ったのは正解だろう。

第3問 駒井めい

正解
44香、同玉、54角成まで3手詰
44香、同飛、52飛成まで3手詰

 2手目の取り方によって、詰ませる駒とそれを支える駒が入れ替わる(役割変換)。変化利用の印象は薄いが、盤上の攻駒を2枚だけにした点を評価。

第4問 松田圭市

正解
13飛成、23香、22龍まで3手詰
13飛成、23銀、34金右まで3手詰

 駒余りを回避するための移動合が2パターン。2手目23金合とされると23銀移動合の場合と同じ最終手になってしまうので盤上に4枚とも配置してあるが、結果的に配置と手順が釣り合わなくなってしまった。

第5問 あなかく

正解
17金、19玉、18金、同玉、12龍まで5手詰

 4手目の変化に応じて龍が縦横に最遠移動する。2手目28玉は同手数駒余りになるのだが、ここで89龍という主眼の手のうちの一方だけが先に出てきてしまうのをどう捉えるか、というところ。私なら変化を作り変えるか、あるいは変化自体を消してしまうだろう。

第7問 やよい

正解
66桂、同銀成、55角成、同玉、64飛成まで5手詰
66桂、同銀不成、65飛成、同玉、64角成まで5手詰

 第1番を発展させたようなアイデアで、銀の成生に対応した飛と角のZilahi(取られる駒と詰ませる駒の入れ替わり)は文句無しに面白い。Zilahiは複数解やツインでも頻繁に用いられるテーマなのでそれ自体に新しさはないが、そこに+αを加えることで充分新作になっている。推薦に含めるか悩んだ作品。

第9問 松θ拓矢

正解
43角成、26銀、25飛、14玉、15香、同銀、23飛成まで7手詰
43角成、26金、25飛、同金、同飛、14玉、15香まで駒余り

 変化利用というよりも合駒限定のロジックという感じがするが、2種類の合駒移動が登場する。最終手は32馬と23飛成の2種類、さらに15飛の最終手余詰まであって味が悪い。23飛成、同X、25馬のように決められないだろうか。

第10問 松田圭市

正解
25香、同龍、13角成、同玉、25桂、23玉、24飛まで7手詰
25香、24歩、同銀、14玉、15歩、同龍、13銀成まで7手詰
25香、24桂、同香、13玉、25桂打、同龍、同桂まで駒余り

 2手目同龍と24歩合はよく見ると変同になっているが、その意義を私は見出せなかった。変同利用は2手順に優劣を付けずに鑑賞してほしいという作者の意思表示であるから、そこには手順を並列にするだけの何らかの意義が感じられるべきだと考える。

第11問 小林敏樹(after馬屋原剛)

正解
58桂、同馬、37金、35玉、26銀、34玉、47金まで7手詰
58桂、同龍、37銀、35玉、26金、34玉、48銀まで7手詰

 初手はNovotnyであり、玉方は龍と馬のうち一方のラインしか残すことができない。対して攻方は、残っているライン次第で金と銀のいずれを37に打つか選択するという構造になっている。
 細かい指摘を一つ。初手から37金 ?、35玉、26銀、34玉、47金、38合というテーマに沿う紛れが付いているのに対して、初手37銀 ?のほうは47玉でも詰まない。つまり58桂は、2手目同龍の場合にのみ58を塞ぐ意味も持っているというわけで、これは僅かな減点要素になりうる。
参考作として、表題にもある馬屋原作を引用する。

(参考作)
馬屋原剛作
第14回解答選手権一般戦

56金、同玉、47銀打、55玉、64歩、75馬、56銀、同玉、47金、55玉、56歩、44玉、57金、53玉、63歩成まで15手。

 初手64歩には75金で、57金と開き王手した時に49馬がある。57金に代えて58銀とするために金銀を打ち換えるが、すると今度は64歩に65馬があり、58銀に48歩と合駒される。そのため今度は銀金を打ち換えることになる。
 2作を比較すると、小林作は58桂(馬屋原作における64歩に相当)として玉方に選択させた後に攻方が金銀を選択するのに対し、馬屋原作は攻方が金銀のどちらを47に置く駒を選択したあとに玉方に75飛をどちらで取るか選択する構造になっていることが分かる。

第12問 武田裕貴

正解
47桂、同と、45金、同玉、66桂、55玉、45馬、同玉、54龍まで9手詰
47桂、同と、45金、56玉、86桂、57玉、67龍まで7手詰

 この作者らしい仕上がりで、詰将棋的に良い作品と思う。本手順と変化で桂を跳ね分ける部分を主眼と見做して本作を鑑賞するならば、対比表現が弱いということも言えるが、これは全く意味の無い批評だろう。なぜなら、作者の意図は全体の手の流れのほうにあるはずだからだ。

第13問 negitarou

正解
44桂、同歩、33香、41玉、31飛、52玉、61飛成、53玉、63龍まで9手詰

 変同を利用しない限り中心となるのはあくまで1つの手順であるため、そこに狙いを持たせることが必要である。また、2手目の変化はどれも追い手順のため楽しみが少ない。どこかに捨て駒が入っているだけでも、印象はだいぶん変わってくるはずだ。

第14問 negitarou

正解
46桂、同香、45銀、65玉、66銀、74玉、72飛成、73合、83飛成まで9手詰

 2手目・4手目と連続してStar-flightが可能な形となる。テーマに対する意識が感じられる構図だ。

第15問 negitarou

正解
69桂、47玉、36角成、56玉、57香、65玉、54馬、75玉、76金まで9手詰

 玉の移動先が3か所用意されている形ではあるが、やはりこちらも肝心の本手順に主張が感じられない。「変化が存在している」から「変化を活用している」に至るにはどのような表現上の工夫が必要か、そこを考える必要がある。

第16問 negitarou

正解
46桂、44玉、34飛、43玉、32飛成、44玉、34龍、55玉、54龍まで9手詰

 2手目の移動先は5通りもあり、それに応じて3手目の飛の打ち場所も全て分岐する。本手順自体が退屈なのは残念だが、変化を含めた総体(作意)として鑑賞すると楽しめる。

第17問 小林敏樹

正解
45桂、79飛成、24金、同玉、25金、13玉、23角成、同玉、33桂成まで9手詰
45桂、68歩、同角、同龍、23金、同歩、58角、24玉、25金まで駒余り
45桂、57歩、同角、同龍、23金、同歩、47角、24玉、25金まで駒余り
45桂、46歩、同角、同龍、23金、同歩、36角、24玉、25金まで駒余り

 第20番が4枚の駒で4つの移動先を与えているのに対し、こちらは龍1枚だけで3つの移動先を与えているため効率が良い。さらに23角成が捨駒になっている点、本手順と変化で金の捨てる位置が変化する点などの加点要素がある。
 これだけ書くと第20番よりも優れた作品のようだが、本作には大きな欠陥がある。それが57合と46合の変化。以下同角、同龍と進むのだが、実はこの時に23金を打たずとも角をどこかに引けば詰んでしまうのだ。これでは肝心のテーマが活きてこないのではないか。

(追記)2022.8.18

改良図

第19問 negitarou

正解
76飛打、65玉、52香成、43銀、64銀成、同玉、53飛成、65玉、46歩まで9手詰
76飛打、85玉、55飛、75香、同飛寄、94玉、91角成、83合、95香まで駒余り

 本手順には52香成という限定移動、そして2手目85玉の変化では75捨合という受けが登場する。それぞれは確かに好手なのだが、舞台が分裂しており、変化利用という観点ではあまり上手くいっていないようだ。バッテリーの果たす役割が乏しいため、配置の面でももう少し洗練できるように思う。

「詰将棋つくってみた(93) 課題19:講評」への1件のフィードバック

  1. いまさらのコメントで失礼します。
    佳作に選んでいただいた第20問は、ジャッジのシナトラさんご指摘の通り2手目
    35桂合が有効で、作意が成立していませんでした。
    「52と・44歩→52王」とする修正案を頂戴させていただきます。
    (もとは「51銀・52銀」で作っていたのを投稿直前に「52と・44歩」に変更した
    のがいけませんでした)

    また、第17問の欠陥の指摘も全くおっしゃるとおりで、次のように修正します。
    玉方:13玉、21桂、22歩、48龍、72龍
    攻方:14角、18香、34香、41銀、97角
    作意最終手が32銀不成に変わります。

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