若島正『盤上のファンタジア』第55番 近代将棋1967.11
若島正15歳の作品。
説明の必要がないほど易しい手順であり、まったくどうということのない作品なのだが、なぜ本作品集に収録する気になったのかというと、これはわたしが初めて賞というものをもらった作品だからだ。
『盤上のファンタジア』より
序盤の手は限られている。
22飛、13玉、24角、14玉、
打歩詰だ。
初手に打った飛車を捨てる以外に手はなさそうだ。
12飛成、13歩、
12飛成に同香と取ると、これは作意に短絡しきれいに持駒も余らずに詰む。
しかしこれは罠で、13歩合で詰まない。
同飛成、同桂、15歩、23玉、42角成、12玉、
【失敗図】
12玉と逃げたが、25歩合でも全然届かないことは明白だ。
正解はここで12飛不成と捨てる。
12飛不成、
これなら23に利きがないので13歩合でも
13歩、15歩、23玉、32飛成、同玉、
42角成、
【変化図】
というわけで12飛不成なら
同香、
これで歩を打って角を開くことができる。
15歩、23玉、42角成、
次の順は罠というには易しすぎるかもしれない。
13玉、31馬まで11手詰
これは24に捨合をする手があった。
24歩、
この間駒選択は易しく、歩以外ならば同香で次の図になる。
取った駒を打てば詰みだ。
そこで24歩合は同馬と取る。
同馬、22玉、23歩、11玉、33馬、同桂、
22歩成まで17手詰
角も消えて綺麗に詰んだ。
しかしこの順も誤解なのである。
では何処で間違えたか、少し考えていただきましょうか。
…
……
………
…………
もう、いいかな?
正解は6手目の同香でした。
12飛不成には23玉とギリギリに躱す手があったのです。
23玉、
角を開いたのでは12玉で届きません。
32飛成、14玉、
また打歩詰の局面に逆戻りです。
しかし実はもうこの問題は解けているのです。
12龍、
さっき12飛成では13歩でダメだといっていたのに、12龍ならいいのかよ!と思った方いますよね?
3手目12飛成と9手目12龍では局面をよくみると違いがあるのです。
仮に13歩合だと……
13歩、同角成、同桂、23龍
以下、簡単に詰みますね。
27香の配置が26香ではダメな意味が理解できました。
そこで12龍には
同香、
となり、以下予習したとおりに収束するわけです。
15歩、23玉、42角成、24歩、同馬、22玉、
23歩、11玉、33馬、
自然に角も消えて巧いですね。
同桂、22歩成まで21手詰
さてなぜ5手目に成ると不詰で32飛成から12龍だと詰みかわかりましたね。
鍵は23歩の有無でした。
初手を打つ支え駒であった23歩はいつのまにか変化の23龍を阻む邪魔駒になっていたわけです。
この23歩を消去するのが12飛不成の真の目的であったと読取ることが可能です。
この邪魔駒消去を目的とする不成は本作が発表される数年前に山田修司氏により発表され塚田賞を獲得しました。
山田修司『夢の華』第48番 近代将棋1964.8
いわば当時の最新研究テーマであった不成による邪魔駒消去を、桂香図式でスマートに、余分な駒も何一つ見当たらない完成度で、さらっと仕上げて見せた少年の登場に詰棋界は驚いたということでしょう。
(私もまだ詰将棋を知らなかった頃の話なので想像です)