詰将棋入門(156) 間駒で出した歩に龍を取らせる

OT松田 近代将棋1975.6


17手詰。
OT松田は解答者に衝撃を与える斬新な作品が多い。

いつもと逆に、今回は作意から先に辿ることにする。

61飛成、62歩、

広漠とした初形のように見えて難しそうに思える。
しかしよく見ると、左辺は87香が強力だし、右辺は金の質駒を獲る寸前の馬がいるので案外に狭い。
飛成に逃げる変化は1手か3手。
歩合以外の間駒は概ね同龍、同玉、52馬で詰む。
詰まないのは歩と桂だけだ。どちらもさらっとしてた駒なので、作意の歩として進めよう。

45馬、64玉、72龍、65玉、
66歩、同玉、56金、67玉、

一気に進めてしまったが、特に難しい変化はない。
62龍に間駒は同龍、同玉、64金まで。

で10手目にして打歩詰の局面に陥った。

63龍、

何が起きたのか暫く理解できなかった。
龍が邪魔駒になっているということは分かった。
でも、何故62龍と歩を取らないんだ???
2手目、桂合ならこの局面で62龍と獲り、79桂と打てることがわかる。
だから2手目は歩合で正解だ。

   同歩、68歩、76玉、
54馬、75玉、65馬まで17手詰。

それでは初手から考え直してみる。

初手45馬と金の質駒を喰ったらどうなるのだろうか。

45馬、

これで殆ど詰んでいるように見える。
62玉は63金までだし、53玉は63金まで。
54合も同馬、同玉、64金までだ。

   64玉、71飛成、

そこで64玉だが71飛成でこれまた間駒ができそうにない。
63に何を間駒しても同龍、同玉、64金以下詰む。

   65玉、66歩、同玉、
56金、57玉、

なんだか作意手順と同じような形になった。
違いは62歩の存在と龍の位置。

62龍、65歩、

【失敗図】

玉方には65歩の中合という秘蔵の受け手が用意されていたのだ。
これを同龍では打歩詰が解消できないし、68歩、76玉、65龍では87玉で絶望だ。

これで作意の63龍の意味が見えてきた。

【再掲図】

そして作意順ではなぜ62歩が存在するのかというと、これは攻方の意思だ。
初手61飛成として間駒を強要した結果である。

つまりこの初手は二歩禁によって65歩中合を事前に回避した伏線だったというわけだ。
その結果、この歩を消さないように5手目も72龍限定(71龍では失敗)でさらに言えば初手も成限定だったということだ。

その結果、龍を取らせるためにわざわざ歩合をさせたとみえる作意手順を実現した。
出現させた歩の周りをぐるっとまわる龍の動きが幻想的だ。


本作、変長がある。

63龍に76玉とかわし、54馬に65角合だ。

同馬だと、67玉、85角、76合、66馬まで19手駒余り。
同龍だと、87玉、85龍、97玉、87馬まで19手駒余り。

うっかりしたのかもしれないし、そもそも変長は不完全でも何でもないので気にしなかった可能性もある。
例えば77歩を桂にするだけで良さそうだ。

古い作品を並べると変長はいくらでもあったし、解く方も変長があるからといってさほど困った記憶はない。
いつから変長が悪になったのかどなたか研究してくれないかな。


この作品、こちらでも取り上げられています。柳原さん、続きを書いてくださいな。
(8)OT松田 近代将棋1975-6 (via. 思い出の詰将棋セレクション)

OT松田作品集は是非とも欲しい作品集の一つだが、叔父さんの反対で実現しなかったとの話。痛恨。

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