長編詰将棋の世界(1) 谷川名人の実戦型

新連載第1弾は2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。
作意・変化は棋譜ファイルをダウンロードしていただくことにして省略します。
短評は詰パラ掲載時より増量します。(名前は伏せません(^^))
解説文は元に戻したり、削ったり、増やしたりする予定。

選題の言葉 (2010.01)

 あけましておめでとうございます。
 今年も詰将棋という素晴らしいおもちゃで遊びましょう。
 大学院の作品はテーマもその表現方法もバラエティに富んでいます。したがって私の選題基準は「面白い」かどうか。極端な言い方をすれば、難解性も記録性も新奇性も必要ありません。面白いと思った順に採用します。現時点で二月号の片方までしか決まっていません。わくわくするような作品の投稿を鶴首してお待ちしています。
 今月の作品も楽しんでもらえるはず。幕開けは「自分にも谷川作が解けた」という喜びを味わってもらい、続いて馬屋原さんのユーモラスな記録作。これは解いて解答を送らねば。

谷川浩司『月下推敲』第23番 詰パラ2010.1


棋譜ファイル

☆幕開けにはこれしかない!と自信を持って選んだが、チキンなもので「易しすぎる」なんて短評が集まらないかだんだん不安になってきた。まずは解答者の声を聞こう。

佐藤 司 看板に偽りなし。谷川先生の大層なお年玉を頂戴しました。
永島勝利 少ない駒で実戦的な手が続く、谷川先生らしい作品ですね。こういうの好みです。
詰鬼人 序の変化も面白く、不動駒一枚の駒捌きも良い好局。
中沢照夫 2枚馬による巧妙な攻めと合駒を駆使した玉方の延命術が白熱している。精算してからは難しい所はないが、機能性の良い収束。
増田智彬 2枚馬の挟撃と持駒で攻める攻方と合駒で粘る玉方との戦いが見られる第1部。馬に代わって龍が主役になり、徐々に玉を追い詰めていき、最後は還元玉で終わりの第2部。以上の2部構成を楽しめました。A
鈴木 彊 31角成、32馬となれば合駒をさせて簡単に詰みそうで実際にそうなったので手数が合わずに疑心暗鬼。何日か経過してやっと合駒せずに24玉とする手に気付きました。改めて眺めると今度は詰むのかどうか心配になります。その後は玉方の粘り強いぎりぎりの凌ぎの応手には拍手です。正解ならバンザイです。
凡骨生 駒を有効に使っての駒捌きが美事で詰上がりが還元玉で爽やかです。
小林 巧 すぐに詰みそうな狭い場所でよくもこうも手が続くものだと妙に感心!33龍~43龍…千日手打開の23桂!?十分楽しませて戴きました。ありがとうございました。です。

☆評判は上々。一安心。大学院初解答ですという嬉しい声もいくつも届いた。ありがたやありがたや。

須川卓二 「自分にも谷川作が解けました!流れるような手順で気持ち良さは抜群。B」
小林 徹 2番でお客さんが減りそう。この作品でお客さんを稼がねば。
三宅周治 A 自分にも谷川作が解けた(と思います)
武田静山 谷川作は駒の捌き、と思っているので安心して捌ける手を進めることができる。
斎藤博久 水の流れるような自然な手順。

☆まずは31角成を目指すことは自明。ところが直ぐに13銀では同玉、31角成と目的は達成できるものの14玉とされて以下詰まない。23歩が邪魔駒だ。23歩消去の4手を冒頭に挿入すれば、14玉に対し32馬とさらに銀を入手しつつ迫ることができる。

☆合駒せずに24玉の逃げが最善というのが意外だ。ここが正念場と銀2枚を投入して詰形を作る。この5手が本局の白眉である。35馬が決まればもう詰んだも同然だ。ところが豈図らんや、質駒を拒否する24飛という手があった。22銀、12玉、34馬で終わりという目論見が脆くも潰えた。それでも14銀と上から押さえて34馬を決行する。ここからは難しい所はなく、ゆったりとたゆたうような収束が続く。

☆本作の中心手は15手目の35馬だ。誰でも知っている手筋。普通なら短中編に仕上げる素材だろう。序盤の変化に何度も35馬が登場するのも常識とは逆の演出だ。狙いの手を隠蔽するのではなく、何度も何度も予感を高めさせておいて一番綺麗な形で魅せる。

會場健大 24飛の移動合を見つけたときは興奮したが、収束が長くて作意探しが面倒だった。
竹中健一 手数は長いけど途中からは冗長な感じがしました。

☆収束も常識的には冗長。だが、何故だろう。いつもは舞台作りにしか使われていない駒達を全部活躍させてあげたかったのだろうか。などと考えつつ手を進める時間が楽しい。作者と同じ思考空間を共有する幸せ。そしてその作者が谷川名人だったら、好きな人と同じ空気を吸っているだけで幸せな中学生ではないけれど、これは格別な一時だ。

☆不採用作を返送する際に「長編にはその手数を支えるだけのテーマが必要です」と書くことがある。自分で書いていて、そりゃそうだが、嘘があるなぁと思う。
☆本作のテーマは全体の手の流れにあります。こう書くと尤もらしいが、実は何も言っていないに等しい。詰将棋の良さというものの本質は何なのだろう。

野口賢治 好手だ妙手だと力まなくても詰将棋は出来ますと谷川自然流に説かれている気分だが、実はこの心地好い正体が一番難しいんだよなぁ。

☆各作家がそれぞれ自分の考える詰将棋の良さを顕現させるために日々努力している。解答者・鑑賞者がその良さに共感できればお互いに幸せなのである。

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