長編詰将棋の世界(35) 馬金のブルドーザ趣向

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉(2011.5)

 かつて山本昭一は新しい内容を問うA型作品と、完成度などで見せるB型作品という概念を提唱した。
 手順に多少既成品の香りがしようと、それを面白いと感じた作者の感性を大事にしてほしい。既発表作との衝突を恐れずにどんどん投稿してくださいということだろう。
 一方で、新しいものだったら配置が汚かろうが収束が貧弱だろうがかまわない。既成の価値観に囚われずばんばん投稿してください。こうも考えていたのではなかろうか。
 上田作。今回入手した3作の中で最も軽く優しい作品。上田作品を解くチャンスです。摩利作。序盤に応手非限定あり。発想してから30年。力のこもった作品です。

上田吉一 詰パラ2011.5


57銀、同玉、58金、46玉、47金打、35玉、
36金打、24玉、14銀成、同金、23飛成、15玉、
14龍、同玉、13桂成、同玉、23と、14玉、
25金打、23玉、33歩成、同玉、23角成、43玉、
34金、54玉、44金、同玉、34馬、54玉、
45金、65玉、55金、同玉、45馬、65玉、
56金、76玉、66金、同玉、56馬、76玉、
67金、87玉、77金、同玉、67馬、87玉、
78銀、同飛成、同馬、76玉、67馬、65玉、
56馬、54玉、45馬、43玉、44飛、33玉、
34馬、32玉、23馬、21玉、11歩成、31玉、
42飛成、同玉、33銀、51玉、62と、同玉、
63歩成、51玉、52と、同玉、41馬、同玉、
44香、51玉、42銀成、61玉、34角、72玉、
73と左、71玉、61角成、同玉、52成銀、同玉、
63と上、51玉、62とまで93手詰

31玉は42飛成で2手短い。
46香以遠でも可
43歩は同香生、52玉、42香成、61玉、34角、72玉、83と直、81玉、92香成、71玉、82成香、62玉、52角成、まで93手歩余り

☆2枚角の並んだ構図、仄かに見える右上から左下に至る通路、楽しい追い趣向の期待が高まる。

☆序は金を斜めに連打していく。メイン趣向の仕込みだ。単調な連打だけでは終わらせませんよと、銀と飛車と桂馬を捌き、馬を作る。これで舞台は整った。

野口賢治 上田芸術の粋なのか。ピンと張った斜めの4金の瞬間美に目を奪われた。

☆金を上がりさらに金を寄り、同玉に馬を引く。金が4枚あるので6拍子4小節の趣向というわけだ。

斎藤博久 斜めに並べた4金を捨てて行くという面白い趣向。
凡骨生 斜めに打った金をすり寄り捨てるリズム感が何とも云えぬ味あり。

☆これがメインディッシュ?と疑問に思った方もいらしたかもしれぬ。大看板上田吉一の作品にしては新しさが感じられない。金上、金寄の4手を歩打の2手に替えれば、見たことがあるような気もする。

作者 昔、黒川一郎氏に「酷似だが、同一ではないので発表してもよい」と言われたが、不完全の為お蔵入り。近年やっと修正出来た。40年以上経過していると思う。

☆なんと40年前にすでに類似趣向を指摘されていた作品とは。しかし、作者は大切に完成品まで育てあげた。

☆作家によっては新鮮なネタでなければ創作意欲が湧かないという人もいる。それも一つの往き方だが、いつの時代でも良い物は良いというのもまた一つの真実だ。

☆本作、40年前の出題であったら、「易しすぎる」ともっと厳しい評価を受けたのではないかと思われる。それだけ現代の解答陣は成熟しており、様々なタイプの作品を受け入れるだけの包容力を持っている。それがこの40年の詰将棋の進歩なのかもしれない。

☆飛車を入手したら帰り道は駆け足で戻る。飛車と銀を指し違えたら収束だ。

☆銀で押さえ込み香を入手したところで41馬が鮮やか。角の捌きを考えて44香。空けた43の透き間から34角と覗き、その角を期待通り61に成捨てたときは誰もが快哉を叫んだはずだ。そして、やはり上田吉一作品だと納得する。捌けきった終局図を眺め、しばし詰将棋はいいものだと満足感を味わう。

はやし 頑張って暗算で解きました。
池田俊哉 金連打から金捨て馬追い趣向は既視感があるがはて誰の作だったか。黒川氏?、相馬氏?馬二枚押しから始まる収束を飛1枚の持駒でまとめるのが作者の腕
須川卓二 作意、変化、収束とどれをとっても1級品。難しいだけが好作ではない良い見本のような作品。

☆本作のみの解答がたくさん寄せられた。ありがたし。しかし、意外な所で誤解者を生んだ。一つ目はイで31に逃げてしまった方。もう一つはロで43に中合してしまった方。変化ロを確認されたし。

小林徹 80手目は43歩として誤答するところでした。危ない危ない。

☆皆さん、もっと上田吉一作品を信用しましょう。主役の大駒が残ったら変だと。

加賀孝志 馬ノコから大駒の捌き、味の良い作。収束も小駒のみで決まりました。
中沢照夫 金の詰み崩し的な趣向が鮮やか。玉を下段に落としてからの収束も大駒が消え機能性に富んだ手順だ。
武田静山 金の連打から消去。変化が易しいのでかえって趣向作品を楽しめた。
神谷薫 この作者ですから同一趣向はないんでしょうね。(既視感はありますが具体的な指摘は難しい…護堂さんにでも訊くしかない?)
竹中健一 これで最も優しいなんて…サスガ上田氏、見事な楽しい作品でした!
永島勝利 収束が見事。さらに44香に対して43歩としてしまいそうになるが、変長ではなく、この方が2手短いというのは何とも不思議。
水谷一 趣向部分は楽しめました。数カ所、解答に自信のない所(限定、非限定の確認など)がありますが、時間切れで上記解答します。
今川健一 巧みに創られているとは思うが、解いてサホドの感激はない。この種の趣向局を、今までに幾つも解図したからかな。大駒が消えて小駒だけの詰上がり、さすが流石の出来映えです。
和田登 斬新の趣向でおもしろかった

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