伊藤看寿 『将棋図巧』第20番 1755
はじめて見たときは派手な応酬に驚愕した。
今見直すと意外に易しい。
自力で解いておけば良かったと後悔しきり。
89馬を使うには55桂(もしくは75桂)しかなさそうだ。
素直に攻めると直ぐにその機会がやってくる。
23歩成、43玉、44銀、34玉、55桂、
85桂では桂合されて手も足も出ないので、素直に1歩補充する55桂と攻める。
これで35の穴を埋めれば簡単に詰みそうだ。
実際に78歩合ならば……
35歩、同馬、33銀成、同龍、同と、同玉、23成香、34玉、33飛まで。
【変化図】
そこで68馬という取歩駒をなくしてしまえと馬を差し出すのが物凄い発想だ。
78馬、
そしてそれを取らずに、取らないのなら35馬で詰ますぞとあくまで13-79ラインに馬を誘導する。
24と、同玉、79馬、
もう、この2手の応酬でお腹一杯という感じだ。
そして、250年経った今でもこのナラティブは他に見た記憶がないような気がする。
馬と馬でしか不可能だとしたら、この作品がオンリーワンだとしても不思議ではないかも(みな同じになってしまうから)。
同馬、23成香、34玉、35歩、
この35歩が打ててしまえば、後は収束である。
同馬、33銀成、同龍、同成香、同玉、43桂成、同桂、23飛、42玉、43香成、31玉、
その収束にも、そこだけ切り出したら短篇詰将棋になるような手筋を入れてくるのが看寿の凄いところ。
33飛成、21玉、31龍、同玉、
打ったばかりの23飛が邪魔駒となり、4手かけて原型消去。
23桂、21玉、11桂成、同玉、12飛、21玉、22飛成 まで35手詰
78馬~79馬という発想とその実現が見事な傑作だ。
現代ルールだと収束で43香成に51玉と逃げる方が手数は長くなる。
しかし平凡な追い詰なので(そして看寿が作意としているので)31玉が正しい。
これを修正するのには全体を一路左に動かせば良い。
しかし、この修正は出来ない。
なぜかというとこの作品単体ならば問題ないのだが、看寿は『図巧』全体で初形玉の配置で趣向を凝らしている。玉位置を変えるわけにはいかないのだ。
それよりも作品の狙いである78馬という応手自身の方に疑問があるが、それは入門の範囲を超えるので別エントリーで。
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4三香成以降5一玉と逃げるのが作意と思われます。
大橋さんの主張の根拠を教えてください。
磯田さんのホームページを読むと、図巧には作者の遺した作意があると書いてあります。
作意手順はこちら
http://www.library-noda.jp/homepage/digilib/shogi/img/0018/063.jpg
お示しの手順は1821年の『將棊圖巧』ですね。
内閣文庫の『象棋圖式解』では次のようになっています。
https://i2.wp.com/kazemidori.fool.jp/wp-content/uploads/Receipt-2020-10-16-10-29-p1.png