詰将棋入門(120) 二段合の離れ技

北川邦男『溪流』第25番 近代将棋 1961.2

どことなく詰将棋入門(117)の森田正司作を思わせる初形。

38飛の働きは十分。13馬と44飛のどちらから活用してみるか。
持駒の「香」が気になるが、まずは紛れ順を追ってみる。

初手24飛と攻めるとどうなるのか。
18角も食えそうだが……。

24飛、16玉、18飛、同と、15と、17玉、
53角、26歩、

【失敗図】

26歩の捨合で入玉確定。失敗だろう。
馬から活用すると……

35馬、16玉、

【失敗図】

これもどう攻めても27玉から38飛を取られそうで香の手持ちでは心許ない。
この初形ではまずは香を打って、応手を問うのが直感的にも正しそうだ。

28香、

16玉は15と、同玉、14飛まで。
15とに17玉でも35馬まで。
26合駒は35馬、16玉、26馬まで。
いい感じだ。
27に合駒する一手。

順に考えていこう。

   27歩、

これは簡単。

35馬、16玉、36飛まで

27を塞ぐ目的の28香が大成功の図だ。
27香、27桂も同じ。
お次は?

   27銀、

27同香は16玉で失敗する。
同じ様に攻め込む。

35馬、16玉、36飛、

香筋が通るので、これで詰む。

   同銀成、15と、同玉、25馬まで

残っているのは?

   27金、

これも同様に詰んでいる。

35馬、16玉、36飛、

26地点は数で勝っている。
では、これで応手は尽きているのか?
いや、とっておきの手段が残っている。

   27角成、

移動中合という離れ技だ。
同香と取れないのがミソで成立する。
同じ様に攻めると……

35馬、16玉、36飛、同馬、

15と、同玉、25馬を同馬と取ることができる。
ん、ここで44飛の出番か?

15と、同玉、14飛、同馬、

【失敗図】

14同玉なら24馬で詰むが、同馬がある。
あと1歩あれば、16歩と打って詰むのだが、これで手詰まりだ。

35馬ではなく、24飛で攻めるのが正解か。

24飛、16玉、

13馬の活用を目指し15とと攻めたい。

15と、17玉、27飛、18玉、

【失敗図】

角を取られるのも何のその。一直線に入玉を目指されて困る。
28香が38飛の利きを遮っているのが痛い。

さて、ここで定理を覚えてもらおう。

あと1歩は中合で稼げ

これはかつて毎年詰将棋解答選手権に出場して苦しんだ結果に得ることができた貴重な定理である。
是非、活用して欲しい。

初手28香を、さらにもう一歩踏み込んで遠くから打つ。

29香、

この妙手。
みるからに正解の輝きを備えている。
変化を確認しよう。

   同と、24飛、16玉、18飛

これは簡単だ。
それでは同角成は……

   同角成、35馬、16玉、36飛、27玉、
24飛、18玉、16飛まで

無防備状態になるので簡単だ。

それでは移動中合ではどうなるのか。

   27角成、24飛、16玉、15と、

先程と異なり、18玉に潜り込めないことがわかる。
以下は同玉に14飛から馬を動かして簡単。

さて、これで2手目が中合となる。

   28歩、

これで単に28香と打つよりも1歩得ををすることが分かる。
さらに歩を入手したことにより28香に対する応手も変わる。

同香、27角成、35馬、16玉、17歩、

27角成とすると17歩と打てるのですぐに詰むのだ。
ちなみに28桂と中合することは禁手なのでできない。

ということは

同香、27角不成、

4手目は単なる移動中合ではなく、不成移動中合という1ランク上の妙防手が登場することが分かった。

さて、これでほぼ解析は終了した。
最後に初手から凝縮された妙手順を味わっていこう。

29香、

2枚利いているところに最遠打。

   28歩

取れる香を取らずに歩を進呈。

同香、27角不成、

さらに角を進呈。しかも不成限定だ。

35馬、16玉、36飛、

その角を取らずに、飛車を差し出す。

   同角成、15と、同玉、14飛、

もう1枚の飛車も差し出す。

   同馬、16歩、

遠打で稼いだ歩が最後にモノを言う。

   同玉、26馬まで 15手詰。

僅か15手の中に詰め込まれた攻防の妙手!

この作品は果たして森田作を意識して創作されたものなのか。
『溪流』は遺作集なので作者の自作解説はなく、不明だ。

短編創作を志す者は『溪流』を是非研究していただきたい。

「詰将棋入門(120) 二段合の離れ技」への2件のフィードバック

  1. 神田の某古書店で立ち読みして、これを見た瞬間買いました。これ以来、1万円以下なら割と平気で買うようになりました。史上最強15手詰選手権の少なくともラスト5作には残りそう。

    1. そのうち、廃案になった「みんなでつくろう探検隊」を復活してみましょうかね?

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