詰将棋入門(146) 歩香重ね打ち

OT松田 近代将棋1972.7

OT松田は本当に面白いことを考える。
この歩香重ね打ちも後に何人もの作家が別の展開で作品化したが、最初に発想したOT松田の偉大さは忘れられない。

使用駒僅か10枚。
初手はどう見ても……

25銀、

銀が出るしかないように見える。

   15玉、16歩、

ここも他に手はないようだ。

   同飛、同銀、同玉、

ここまで手を変える余地はないように思えるが、随分サッパリした形になってしまった。
持駒がタテ系ばかりなのに17桂が邪魔で役に立たない。
結局、32龍を使うしかない。

36龍、26歩、

【失敗図】

普通に歩合をされて、行き止まりだ。
25龍は17玉で以下手は続くが詰む見込みはない。
26同龍、同玉、25飛は16玉で持駒香歩2ではやはり絶望だ。

初手に戻って、25銀に変わる手を考えてみよう。

15香、

とすれば15香しかないが……

   24玉、

24玉で打歩詰だ。続けるとしたら

25銀、15玉、16歩、

これでは初手25銀と変わらない。
いや香を1枚無駄にしているからもっと悪い。

それでは正解は……最後に残っている1手なのだ。

15歩、

15歩……打つのなら香に見える。
24玉は25香、13玉、23龍なので13玉とするしかないが

   13玉、14香、

14香と打つしかない。
なんと鈍重な手順だ。

   24玉、25銀、16歩、

しかも結局25銀としなくてはならない。
今度は持駒を香と歩の2枚も無駄にしているのではないか。

   同飛、同銀、同玉、36龍、26歩、

【変化図】

ところが、ここまで進んでみると違いが出てくる。
36龍に26歩合なら、15飛、同玉、25龍までの3手詰ではないか。
これは間駒の選択が間違っている。
25に利きがある駒を間駒する必要がある。

   26金、

わざわざ非効率に歩から打ち、さらに香を重ねて打つという攻めをしたお陰で、14香が盤上に残り、11香の利きを遮っているという理由だ。これで15飛が打てる。
作意上は15飛はでてこないで、25金という高い駒を間駒せざるを得ないという結果を生んでいるわけだ。

同龍、同玉、25飛、

金が入手できるのなら、喜んで龍を切れる。
後は収束だ。

   17玉、27金、18玉、28金、19玉、
29金まで21手詰

この手筋。私は歩先香歩(OT松田氏の用語)と呼んでいたが、今は歩香重ね打ちという用語が定着しているようだ。これは阿部健治氏の命名。1994年から1997年にかけて阿部氏がこの手筋を詰パラで詳しく紹介し、「歩香重ね打ち作品」が流行した。

OT松田も重要な作家だ。しかしやはり作品集は遺していない。
『この詰!』に全作載っていなかったとみてみたが、『この詰!2010』に「伊藤正が選んだOT松田ベスト4局」という記事だけだった。

「詰将棋入門(146) 歩香重ね打ち」への2件のフィードバック

  1. これくらい優しく解説していただくと面白さがわかりますね。
    どうも教条主義に陥りやすい私は捨駒や間駒以外は、なかなか理解できませんでした。
    ちなみに間駒は一発変換ででてきたので世間にはこちらのほうが通りが良いのかもしれません。

    1. 「足りない」系の詰将棋は駒の効率をあげることを学ぶという意味でユビ将棋にも役立ちそうですが、この非効率の攻めは実戦派は驚きですよね。
      でもこれも同じ駒とルールで成り立っている世界ですから世の中こういうこともあるんだと勉強になるかな。

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