風みどりの詰将棋と関係ない話(17) 幽霊をみた話

真面目な市民なので遊びに外に行くこともせず、墓参りもせず、家に閉じこもっています。
一日に外出するのは、郵便ポストに発送に行くときのみで、ついでに食料の買い物も済ませます。
その僅かな時間だけでも、ぐっしょりと汗をかいてしまうこの暑さ。

今日は私が一度だけ幽霊をみた話をしましょう。

私が公立中学校に勤め始めた1校目の出来事ですから、いまから30年くらい前の話です。
夏休みに希望者を募って、田貫湖にキャンプに行くという行事を若手教員が主催して実施しました。

さきほどGoogleMapで確認したところ、田貫湖キャンプ場というのが今でもありますから、そこだったかもしれません。田貫湖ふれあい自然塾というのも気になりますが、こんなに大きなコテージはなかったように思います。

2泊3日だったでしょうか、とにかく朝・昼・晩、自炊するというコンセプトで、ほぼ食事の準備と後片付けだけで一日が終わるという面白い試みでした。
最終日だけは近くのまかいの牧場で遊んで帰るという日程です。

今は田貫湖を周回する道路があるようですが、当時は舗装道路のどんづまりにそのキャンプ場はありました。
そのキャンプ場に至る道は1本しかなく、キャンプ場は貸し切りですから外部の人が入ってくることはなく、たとえ来たとしてもすぐわかるという安心感がありました。

いくつものバンガローに中学生だけ数人ずつ別れて寝かせますので、夜中に外部からの侵入者があったら心配です。
そのキャンプ場はまさに関係者以外は入れない理想的な立地でした。
もちろん歩いてくることは不可能ではないですが、ちょっと考えにくく、車やバイクで近づけば静かなところですからすぐわかります。

湖の近く平たく整えられた場所があり、そこでキャンプファイヤーを行ないました。
まだ線路のもと枕木が1本いくらで買えた時代でしたっけ。
醤油の空き缶におが屑をつめてそこにホワイトガソリンを注いだものとか、花火もたっぷり用意してバスに詰め込んでいったのですから、思えば今では考えられないくらい自由な時代でした。

キャンプファイアーの後、私はもう一人の教員と二人で夜を徹して起きている担当でした。
目的はバンガローで寝ている子どもたちを見回ることと、もう一つはキャンプファイヤーの枕木を綺麗に燃やし尽くすことです。
全部灰にしてしまえば後の処理が簡単ですが、大きな燃え残しがあると、それを処分する費用が追加でかかってしまいます。そんな予算はありませんから夜を徹して燃やし尽くす必要があるのです。

夜中の2時頃でしたでしょうか。
何度目かのバンガローの見回りを終えて、自分のバンガローに戻る前に、キャンプファイヤーの焚き火がちゃんと燃えているか点検しようと私は考えました。

焚き火に近づいていくと、そこに人がいました。
焚き火にあたっているようです。
起きている教員はもう一人の担当者だけですから、その人に違いありません。
子どもたちの数も間違いありませんでしたから。ちゃんと寝ていました。
私はゆっくりと近づいていきました。

キャンプファイヤー場には小さな階段を2,3段降ります。
その階段を降り追えたその刹那、「違う」と閃きました。

同じ白い服を着ていましたが、焚き火にあたっていたのは女性でした。
もう一人の担当者はごつい体育担当の男性教員です。

「違う」と私が思った瞬間、その人は溶けるように消えてしまいました。

焚き火は燃えていましたから、その周辺は明るいのですが、私は持っていた懐中電灯で周りを照らして探しました。
焚き火はキャンプファイヤー場の中央にあります。
そこは平らですから身を隠すようなところは全くありません。
本当に音も立てずに消えてしまったのです。

背筋から首筋にかけての体毛が逆立ちました。

そこには確かに人がいました。
背中向きではなく、焚き火の向こう側に立っていたので、うつむき加減でやや斜めからですが、顔も見えました。

私はいそいでバンガローに戻りました。
そこにはもう一人の担当者が、昼間釣った魚を捌いていました。
聞けばずっとここにいたとのことです。
私は今見たことを話しました。
そして二人でもう一度バンガローを全部点検し直しました。

やはり部外者はいません。

先にも書いたように孤立したキャンプ場で、夜中に歩いてくるようなことは不可能。バイクなどを使えば必ず気づける立地でした。そしてそもそも広い平らなキャンプファイヤー場の中央から一瞬で消え去ることは常識的に考えられません。

とすれば、あの女性は幽霊だったのかなと思うのですが、なぜ幽霊が焚き火にあたっていたのか……わかりません。
幽霊も冷える田貫湖の夜は寒かったのでしょうか。

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