詰将棋入門(172) 龍追いミニ回転

三代伊藤宗看『将棋無双』第31番 1734.8

シンプルな構図で龍が玉を回転追いする楽しいミニ趣向なのに、序盤が難しくてそこに辿りつけない。
ロープウェイで山登りする派の方は次の10手目の局面から考えてみるのも良いかもしれない。



まぁ、今でも指将棋系の方は「一目で詰む。C」という調子で易しい詰将棋は内容を見る以前に俎上に上がらないということがある。
だから宗桂としてもメインの回転趣向だけでは発表できず、難しい序盤を入れざるをえなかったのかもしれない。「こんな易しい図では名人の沽券に関わります」という人もいただろうしなぁ。

いかにも不安定な初形。
83飛成で簡単に詰みそうだが…。

83飛成、95玉、96香、同玉、
85銀、87玉、96銀、98玉、

【失敗図】

ここに潜られては66角の守りが強力だ。
初手はこの角を喰うしかあるまい。

66角、

同歩は83銀成、95玉、94飛、同玉、96香で早い。
73玉の変化が大変だ。
83飛や74歩で詰むようだが、ここでは省略する。

   95玉、96香、同玉、
87角、

またも宗看得意の大鉈を振るうような捨駒。
96香とした以上、当然の手ではあるが、ズシリと響く捨駒だ。
順序が逆になるが96香に同成香の変化は84角と軽快な捨駒も良い感じ。

   同玉、76龍、

指されてみればいかにも詰将棋らしい手なのだが、長篇と安心しているところに超短編の切れ味の捌き捨て。重量感のある捨駒だ。

   同玉、85銀、

駒取りではあるが、手筋の捨駒という印象を受ける。香・角・龍・銀(最初の角も?)と怒濤の連続捨駒。

   同玉、

これが冒頭に掲げた局面。
やっとここから楽しい趣向が始まる。

83飛、76玉、86飛成、67玉、
97龍、56玉、57龍、45玉、

ぐるっと右側に追ってメインの舞台に到着。
途中で1歩入手するのをうっかり忘れると失敗する。

46歩、34玉、54龍、25玉、
24銀成、同桂、27香、26歩、

ここでも27香で1歩補充するのが肝要。

同香、同玉、24龍、37玉、
27龍、46玉、57龍、45玉、

これで小さく1周した。
33銀と12桂を相殺している。

46歩、34玉、54龍、44歩、

ここで唐突に歩の捨合が登場する。

しかし、これはさほど難しくなく、間駒せずに25玉では…

17桂、26玉、27金、15玉、33角成まで

【変化図】

33角成ができたら簡単に詰む。
そこで44歩合というわけだ。

同龍、25玉、17桂、15玉、16歩、同玉、
27金、15玉、26金、

金を捨てるのは勿体ないが手を進めるためには仕方がない。

   同玉、24龍、37玉、
27龍、46玉、57龍、45玉、

2周目が終わった。
比べてみると18金の代わりに17桂が配置された。
これで25玉と入れなくなる。
まさかこれで回転は終わり!?

46歩、34玉、54龍、23玉、
43龍、14玉、26桂、15玉、

25が17桂によって塞がれたので、54龍には23玉と逃げるしかない。
さらに追う43龍に12玉は13歩、21玉、23龍で簡単なので14玉。

13龍、26玉、24龍、37玉、
27龍、46玉、57龍、45玉、

ちょっと大周りのルートになったが3周目が終わった。
2周ではさすがにミニ趣向とも言いがたい。
しかし1周するのに桂馬と歩を消費することになった。
盤面を見渡すと63桂が落ちている。
どうやらもう1周、期待して良いようだ。

46歩、34玉、54龍、23玉、
63龍、14玉、26桂、15玉、

23玉の形になるので63龍と取ることができる。
ん、いやちょっと待てよ。
それだったら桂馬を取られたくない玉方は44歩と先程のように捨合するといいのではないか?

54龍に44歩、

【変化図】

しかし、今回は44歩は成立しない。
それはもうすぐ収束で明らかになるのでペンディングして作意に戻る。

(63桂をとり15玉の形から)
13龍、26玉、24龍、37玉、
27龍、46玉、57龍、45玉、

これで4回転が終了。ここから収束に入る。
えっと思った方がいらっしゃるだろうか。
持駒に何か特別な駒が入ったわけではない。
むしろもう桂馬がないので回転できない。

いや、43桂と63桂を消去したのは回転するための燃料を得るのが目的ではなく、まさに消去することによって収束に進むためだったのだ。

これで55龍といける。
55龍、34玉、44龍、23玉、33龍、

55龍と王手ができたので44~33龍と進めることができる。
つまり、先程44歩と捨合することができなかったのは、結局この収束に直結してしまうということだった。
では2周目はなぜ44歩の捨合が利いたのか。
あのときは43桂が健在だったからである。

   14玉、15歩、同玉、
35龍、14玉、15歩、

43桂がいないので35龍が可能になっていた。
そして15歩が最後の妙手だ。
ついつい25龍として悩んだ方はいないだろうか。

   23玉、33角成、12玉、11馬、

龍はあくまで31金を質に見続けていなければいけなかった。

  同玉、31龍、12玉、22金、13玉、
33龍 まで107手詰

最後は12玉に32龍でも詰むとか、15歩に13玉でも同手数だとか少し乱れている。

それにしてもメイン趣向で飛角しか使っていないとはいえ、序盤に重量級の捨駒を散りばめてトータルでは実に解きごたえのある傑作にまで昇華している。

ただし本図には序盤に余詰がある。

3手目84角打以下余詰。

やはりこの序盤は無理があったのか。
81画配置の制限からこのような不安定な初形・駒取りからのスタートにしたのだろうか。
いや、宗看であるからそんなことはなかろう。
趣向の要となる66角を配置するところまでは逆算したかったというのが正解か。

【修正図案】駒場和男

玉の持駒に香を残して余詰を防ぐという巧い案。
ただし27香による間駒稼ぎはなくなり26香の短打に作意が変わるので2手短くなる。

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