三代伊藤宗看『将棋無双』第99番 1734.8
邪魔駒消去好きには堪えられない1局。邪魔駒が5枚も登場する。
大駒4枚がすべて攻方。
紛れが多くて難しそうだが、持駒が無いのでそれほどでもない。
まずは素直に攻めてみよう。
92龍、63玉、64角成、同と、73歩成、同玉、
【失敗図】
最後、同玉と取ったが54玉と逃げて64と、44玉、55銀、33玉とひたすら逃走されても絶望だ。
92龍は平凡すぎた。
それならば
83龍、
宗看だからやはり豪快に捨てていこう。
これなら63玉でも…
63玉、64角成、62玉、63龍、51玉、61龍、同玉、94角、
【変化図】
これで詰んでいる。
51玉は42銀から73歩成。72間駒は同角成と切って73歩成だ。
したがって2手目は…
同玉、
49飛の活用を考えていることにお気づきだろうか。
そうそのためには85角が邪魔駒だ。
94角、92玉、83角成、同玉、
自爆式の原型消去が登場した。
いわばこれが本局におけるモチーフの宣言になっている。
89飛、72玉、82飛成、63玉、
さて、後でこの局面を振り返っていただきたい。
この図の中に攻方の邪魔駒が4枚も仕掛けられているのだ。
1枚目はもうお解りだろう。
73角がすでに龍の活用を阻害する邪魔駒になっている。
64角成、同と、73龍、54玉、
64角成と捨てることで73龍以下龍追いを始めることができる。
64龍、45玉、55龍、36玉、46龍、27玉、
【失敗図】
特に変化も無さそうな手順なのに詰まない。
37龍は同香成。28歩は打歩の禁手だ。
この局面をよく見ると26銀が邪魔駒と解る。
もしなければ16龍、同玉、26金の3手詰だ。
そこで2手戻って、銀を捨てることを考える。
(55龍、36玉、)37銀、
ところが…
同玉、
【失敗図】
素直に同玉と取られて困っている。46龍でも48玉と潜られて全然詰まない。
そこでもう一つの邪魔駒に気づく。
47歩だ。
これがなければ46龍、27玉、16龍、同玉、26金の5手詰だ。
そこでさらに2手戻って…
(64龍、45玉、)46歩、
龍追いの最中に歩突きという手は悠長に見える。
しかしこれが有望と分かる。なぜなら36玉と逃げられても…
36玉、34龍、47玉、49香、
【変化図】
先程37龍を妨げていた34香が、この変化ではありがたい質駒になっている。
以下間駒しても37龍から48龍。58玉でも38龍から48龍で詰みだ。
しかし、こちらに逃げられると…!
56玉、
【失敗図】
龍から遠く逃げると詰むのに、龍の懐に跳び込むような56玉がなんと詰まない。67銀と金を入手しても左下が広すぎる。
ここで最後の邪魔駒である66銀に気づけただろうか。
66銀が居なければ67龍、55玉、45金の3手詰なのだ。
そこでさらに2手戻して…
(73龍、54玉、)55銀、
73角の次に66銀を捨てる。
これも躱される変化が心配だが…
45玉、43龍、36玉、34龍、47玉、
37龍、58玉、67龍、59玉、58金、49玉、
69龍まで27手詰
【変化図】
右下は29金がいるので大丈夫。
したがって55銀には…
(55)同と、64龍、45玉、46歩、
つづいて47歩を消去する。
この変化は既に確認済みだ。
(46)同と、55龍、36玉、37銀、
最後に26銀を消去する。
(37)同と、46龍、25玉、
27玉は16龍に同玉の一手となるので早い。
25玉とぎりぎり躱してUターンを狙う。
16龍、35玉、45金、同玉、46龍、54玉、
55龍、63玉、64龍、72玉、
スパッと短く刈り上げた収束にいたる。
73歩成、71玉、61龍、同玉、62銀まで41手詰
作意を並べただけだと単純な斜め龍追い1往復なのだが、その中に不思議な玉方と金移動が入っている。
これは打歩詰打開のための守備駒移動かと思いきや、打歩詰の気配はない。実際に解いてみれば分かるようにこれは攻方の邪魔駒消去で、それを1枚のと金に全部取らせてしまおうという演出だったのだ。
26銀を消すために46歩の消去が必要で、そのためには66銀の消去が必要という3重の連鎖構造は注目に値する。自然な変化も素晴らしい。
決して難解ではないが宗看が99番に置くのも納得できる傑作だ。