長編詰将棋の世界(12) 楕円コースを走る玉

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

菅野哲郎「竜馬が行くIV」詰パラ2010.6


棋譜ファイル

86龍、同玉、88龍、87飛、同龍、同玉、
85飛、86飛、同飛、同玉、83飛、85飛、
同飛成、同玉、83飛、74玉、84飛成、65玉、
66歩、同玉、64龍、65歩、67歩、同玉、
65龍、66歩、45馬68玉、66龍、79玉、
46馬、
{89玉、86龍、88飛、同龍、同玉、86飛、
87飛、同飛、同玉、85飛、86飛、同飛、
同玉、83飛、85飛、同飛成、同玉、83飛、
74玉、84飛成、65玉、66歩、同玉、64龍、
65歩、67歩、同玉、65龍、66歩
}=
45馬、68玉、66龍、79玉、35馬、
34馬、68玉、66龍、79玉、24馬、
23馬、68玉、66龍、79玉、13馬、
23馬、68玉、66龍、79玉、24馬、
34馬、68玉、66龍、79玉、35馬、
45馬、68玉、66龍、79玉、46馬、89玉、
86龍、88飛、同龍、同玉、86飛、87飛、
同飛、同玉、85飛、86飛、同飛、同玉、
83飛、85飛、同飛成、同玉、83飛、74玉、
84銀成65玉、66歩、同玉、67歩、同玉、
63飛成、同金、79桂、66玉、67歩、65玉、
47馬同銀生、66銀、64玉、53銀生、同玉、
52と引、44玉、45歩、33玉、24と上、22玉、
23と直、11玉、12香、まで281手詰

56飛合は同馬、同銀成、同龍、68玉、66龍、67角、同龍、同玉、56銀、68玉、57角、69玉、79飛まで
64玉は53銀生、同金、65歩、同玉、66歩、同玉、67歩、同玉、68香まで
同銀成は66銀、64玉、56桂

☆盤に並べてみると玉方の持駒がない。この極限状況でどのような非日常の世界が覗けるのか。期待に胸が膨らむ。

☆初手は84銀と86龍しかない。84銀は同玉で次の展望が見えない。とすれば86龍と捨てていくのは必然だ。同玉に次の王手は88龍しかない。87飛合。これにも同龍の一手。先手後手、互いの持駒はいずれも飛車1枚。

☆飛車打ちに対しては飛車合の一手。ここでこの作品のエンジンが見えてきた。飛打飛合で玉を移動させる仕組みだ。

☆23飛から持駒を減らさずに玉を引き落とし、84飛成で舞台は6筋に移る。66歩同玉64龍には65歩合。67歩の一手に同玉65龍66歩合。ここで手拍子に68歩だと同玉66龍79玉46馬89玉86龍88歩で困る。歩を渡さずに攻めなければいけない。

☆とすれば67玉に対して45馬と馬を活用するしかない。合駒があるが飛車しかないので簡単だ(変化イ)。したがって45馬には68玉しか無く、66龍で先に捨てた1歩を取り戻すことができる。

☆46馬89玉に86龍とまた8筋に龍を転用できるのが巧い構図だ。88飛合以下また8筋を舞台とした折衝が始まる。これで無限ループが完成した。玉はオーバルコースを永久運動することが可能だ。もちろんそれだけでは詰将棋の要件を満たさない。エンジンを回転させるガソリンが必要だ。無限ループから抜け出すキーというべきか。

☆しかしその鍵も初形から明らかに見えている。13歩。馬鋸でこの歩を入手し、そしておそらくは46まで戻ってくるというストーリーであろう。46まで戻る意味付けは…47銀という質駒の入手がまず考えられる。

☆ループから脱出するには84飛成の所84銀成とする。飛車で63桂を奪おうという狙いだ。持駒は歩4枚に増えているので66、67に叩ける。桂馬を入手して79桂~67歩。やはり駒が不足してきたので47馬と銀の補充だ。同銀生の応手で味を添える。以下は変化もほとんど1手なので解説は不要だろう。最終7手前、45歩と打つ1歩の入手のために長い長い玉の回転がなされたということだ。

☆1回転34手のロングコースをおよそ八回転。繰り返し手順のリズムを楽しむには充分な長さだ。

☆趣向手順は一本道ながら楽しいが、キーが見え見えで考える所はない。舞台作りに角を使ってしまってるのがもったいない。もっと凝った鍵を構築できそうな気がするが、作者の興味はそこにはないようだ。また収束で飛車を切るタイミングがいつでもよいという瑕がある。昨今の解答者は非限定に厳しいのでやさしい大学院に登場の運びとなった。

永島勝利 確かに「龍」と「馬」が行き来しますね。
須川卓二 持駒なしを本当にうまく利用しますね。66龍→86龍の活用はばか詰みたいな効率の良さ。
武田静山 直ぐに馬鋸と判明、変化も難しくなく選者の280手台が利いている。

☆ヒントになったという声も多かったが、そんなに長いのかと解答者を遠ざけてしまった可能性も。

鈴木 彊 飛打飛合の繰り返しと馬鋸の組み合わせ実に面白い趣向でした。楽しめました。
宮本慎一 8筋で飛車交換、6筋で歩の交換、龍が玉を追い回し、馬鋸も歩取りしながら、終盤は歩4枚にして飛を捨て玉を1筋の方に逃がし、と金に託す。トドメは12香までのセッチン詰。
加賀孝志 グルグル廻りながら行ったり来たり全駒使用。楽しめる竜の回転でした。

竹中健一 確かに合駒が…歩1枚でもあればねぇ。。。(笑)楽しく解けました!
坂東仁市 感性共通しているので拙作ストック作との類似心配。尚、久しぶりに誕生した大型リピート趣向作家に拍手。

中出慶一 通常の龍追い軌跡と異なり、狭い領域での独特の龍飛追い(飛合奪取)機構がすばらしい。このため馬鋸との組み合わせが可能になり、超手数化が実現されている。
中沢照夫 飛送りと馬鋸の組み合わせ。命名通り。84銀成からの収束も充実。雪隠詰のおまけ付き。
今川健一 飛打飛合で王を追い回して、その都度に馬鋸。収束の1歩不足を馬鋸で解消。281手の長丁場、難しくはないが、巧みな出来映え、感心。易しい趣向作を連発、往年の黒川さんを思い出す。

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