詰将棋入門(231) 桂馬を消去する遙かなる道程

原島利郎「傀儡師」 詰パラ1969.5改

チョー入門で金頭桂の話題を出したので、2023年の詰将棋入門のスタートは「傀儡師」から始めよう。

いきなりネタバレに入るので、初見の方はここから先は読まずに、自力で解図に挑戦することをお勧めする。
なにしろ詰将棋との出会いは一期一会。このあと解説を読んでしまったら、味わえるかもしれない感動に二度とで会えなくなってしまうのだから。
しかしどんな芸術でも多かれ少なかれ、理解するにはそれなりの力が必要。詰将棋は特にそうだ。そこで詰将棋においては解説が必要だと考えている。

まずは素直に攻めてみよう。

22歩、31玉、43桂、同金、

【失敗図】

打歩詰ではやくも失敗だ。
41桂成があるではないかって?
そのとおり、82飛を活用するには41桂成、同玉、52銀成、同歩、81飛成、51合とするしかない。
しかしそこで手が止まる。
31X、同玉、51龍と手を続けるには32歩と打つ必要がある。
しかし32歩は打歩詰の禁手だ。
つまり53桂が邪魔駒というわけなのだ。

初手から作意を進めよう。

22歩、31玉、41桂成、同玉、53桂不成、31玉、
21歩成、同玉、76角、

まずは65桂を消去する。
これで下方の2枚角が使えるようになる。
角で王手、この局面が本局で一番変化のあるところ。

といっても42歩はいわば82飛にピンされているような状態で動けない。
だから玉の守り駒は33金の1枚と考えて良い。
間駒できるのは32と43だけだ。

まずは32香合から片付けよう。

   32香、

22歩、31玉、32角成、同金、43桂、同金、32香まで

【変化図】

頭に利く駒は同じだから次は桂合。

   32桂、

22歩、31玉、41桂成、同玉、32金、同金、
33桂、同金、53桂、31玉、21角成まで

【変化図】

あとは43への間駒だ。これも桂しかないのはすぐわかる。

   43桂、

同角成、同金、22歩、31玉、41桂成、同玉、
52銀成、同歩、

53桂、同金、81飛成、51合、33桂、31玉、
51龍まで

【変化図】

これで正しい応手は間駒をせずに躱す手と分かる。

   31玉、

ここから2枚角を活用して53桂を消去する見事な手順が展開する。

21角成、同玉、22歩、31玉、

まずは1枚の角を22歩に置き換える。

41桂成、同玉、85角、31玉、

次に53桂を85角に置き換える。

21歩成、同玉、76角、31玉、21角成、同玉、

22歩と置いた効果を使って85角を76→21と捨てる。

これで初形図と比べてみて、見事に53桂が消去されたことがお解りだろう。

22歩、31玉、32歩、同金、43桂、同金、

43桂を同歩と取られないように32歩、同金を利かせておくのが細かい手順。
53桂を消去した効果でやっと32歩が打てる。

32歩、41玉、52銀成、同歩、81飛成、51桂、

飛車が動き出した。
桂合なのは31歩成、同玉、51龍と取れることを考えれば明らかだ。

31歩成、同玉、51龍、41桂、

再び桂合。
ここで慌てて21歩成だと……

21歩成、同玉、41龍、31香、

【失敗図】

間駒が2枚とも桂だったのはこの局面ではっきりする。
しかしこれは行き止まり。
慌てずに質駒を近付けて置く準備が肝要だ。

21歩成、同玉、33桂、同金、22歩、31玉、
32歩、同金、

41龍の手の届く32に金を移動して、準備完了。

21歩成、同玉、41龍、31金打、

今度は金合。
32金、12玉、22金打があるので31の間駒は斜め上への利きが必要。
角金銀が候補だが、角なら1手詰。銀なら3手詰、そして金なら……

32龍、同金、33桂、同金、22金打まで57手詰

24手をかけて邪魔駒となる53金を消去するというナラティブ。
桂と歩の持駒で手は限られているのに目的が見極められないとぐるぐるさまよってしまう傑作だ。

53桂が邪魔駒ならば、その53桂を打つことろまで逆算したいと考えるのが詰将棋作家だろう。
発表原図は下図の通り。

53桂打、31玉、33香不成、同金、22桂成、同玉、
23歩成、21玉、

の8手が冒頭に追加された65手詰だ。
本図は詰棋めいと1994.12に発表された改作図。
湯村光造氏の論文のなかでの発表なので、なぜこの8手を削ってしまったか作者の意図はわからない。

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