長編詰将棋の世界(36) 三度目の堀半七+馬鋸

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉(2011.5)(抄)

 摩利作。序盤に応手非限定あり。発想してから30年。力のこもった作品です。

摩利支天「ファンタジー(幻想曲)」 詰パラ2011.5


59金、79玉、89金、同玉、88飛打、99玉、
98飛、89玉、88飛右、79玉、69金、同玉、
68金、59玉、58金、49玉、48金、X同と、
同飛、59玉、58飛左、69玉、68飛、59玉、
58飛右、49玉、38銀、39玉、59飛、28玉、
64馬、46と、29飛、18玉、54馬、45と、
19歩、17玉、67飛、27歩、同飛寄、16玉、
26飛、15玉、25飛、14玉、24飛、15玉、
25飛上、16玉、27銀、17玉、18銀、16玉、
17銀、同玉、18歩、同玉、28飛、19玉、
29飛、18玉、
{28飛引、17玉、18歩、16玉、26飛、15玉、
25飛、14玉、24飛、15玉、25飛上、16玉、
17歩、同玉}=
{27飛、18玉、19歩、同玉}=、64馬、
{46と、29飛、18玉}=
63馬、45と、、73馬、
72馬、45と、、82馬、
72馬、45と、、73馬、
63馬、45と、、64馬、
54馬、45と、、25飛引、14玉、
24銀成、同成香、同飛、13玉、14香、22玉、
32馬、同玉、34飛、43玉、33飛成、52玉、
56飛、同と、63銀、61玉、62歩、71玉、
72銀成、同玉、73龍、81玉、82歩、91玉、
71龍、92玉、93歩、同金、同桂成、同玉、
73龍、94玉、Y84金、95玉、75龍、96玉、
85龍、97玉、88銀、98玉、87龍、89玉、
77銀、79玉、88龍、69玉、68龍まで245手詰

同とと取る時期は非限定。
57歩成は同飛…14香、22玉、32馬、同玉、34飛、43玉、33飛成、52玉、59飛、55金、同飛以下
93金、95金も可

☆作家なら誰しも経験があるはずだ。狙っていた筋を先に発表されてしまい、作りかけもしくは既に完成していた作品を泣く泣く没にしたことが。今更投稿しても、採用されまい。よしんば採用されても、解答者には二番煎じと酷評されよう。剽窃の疑いさえかけられかねない。その作品にかけた想いと時間がどれほど膨大でも、諦める以外はない。

☆しかし、どうしても諦めきれなかった場合どうするか。

☆序盤は2枚飛車で玉を底辺で追う。舞台はあっさり右辺に移動するかにみえて、ここに作者の仕掛けた罠がある。収束に歩が余り91玉で簡単に詰むと首を捻った方は、この罠に嵌った方だ。

☆普通に39銀から29飛、19歩と追うと67飛に57歩成が正しい応手(失敗図)これで5筋に歩が利くようになるので不詰。

☆57飛の前に、馬を54に移動しておく必要があるのだ。馬のラインに入った28玉と18玉の瞬間に仕事をする。54馬の形で57歩成なら59飛に対する合駒が悪いので詰む(変化イ)。これから遠ざかりたい馬をわざわざ近づけておくという変化伏線。

名越健将 この一局の全てのキーを握っているのは56歩と言っても過言でないと思う。
明日晴れ 飛車のエレベータ+馬ノコ趣向。馬が近づいてからでないと82歩を取りに行けない所は見事です。還元玉に拘らなければ非限定部分は修正できそうですけどこれは作者の感性ですよね。とにかく楽しかったです。

☆ここが一番の難所。ここを越せば楽しいメインテーマが出現する。飛車のエレベータと馬鋸の組合せだ。

永島勝利 何と言っても1筋での2枚飛車の上下運動が面白い。歩と飛だけで、微妙な意味合いの変化を紡いでいく。本作に序盤の変同なんて関係なし。
池田俊哉 柳田師匠の変奏曲がモチーフ。歩消費型馬鋸で、82歩を取って往復する目的は?という謎解きもあり、楽しい作品となっている。序と収束にこだわって、還元玉にまでまとめてしまうところが作者の持ち味か

☆そう肝腎のメインテーマに先行作がある。一番有名なのが詰パラ78.3柳田明「変奏曲」である。

柳田明「変奏曲」 詰パラ1978.3

☆この重厚な傑作との差別化を図る為に作者はいかに苦闘したか。まず馬を往復させる事を考えた。1サイクルで2歩を消費するこの趣向と馬鋸を組合わせるならば「変奏曲」のように近接型を選択するのが定跡だ。さもなければ歩の配置も必要となり益々駒が足りなくなる。本作が91まで馬を送り込めないのはこの理由だ。さらに意味付けは?飛車を2枚とも使ってしまっているので、玉自体を左上まで運ばなくてはならない。どう考えても冗長な収束になる。そして作者が辿り着いた解答が「還元玉」だった。

竹中健一 最初は収束が見えるまで82歩を消す意味が分からなかった…30年前からこんな手順を考えていたなんて素晴らしい!
今川健一 2枚の飛車で追いかける趣向局と思っていたら、馬鋸の趣向が入っていました。邪魔駒消去のための馬鋸とは、半七さんも吃驚!この馬鋸の意味づけは、私には初めてで、解けて感激しました。還元王での詰上がり、これも良いな、です。
斎藤博久 趣向が終わった後に還元玉で仕上げる所は、流石ですね。
作者 メインの馬鋸の部分が柳田さんの「変奏曲」と全く同じ事が判って流石にそれ以上弄る気を無くしていたのですが、それでも何とか発表したい気持ちの方が強い私は、この素材を再びアレンジする事にしました。それからは試行錯誤の連続でした。どうやら還元玉での詰上がりを得る事に成功しました。これでやっと完結できたなぁと言う実感が湧いてきました。

☆往復型の馬鋸で一旦馬が近づくというのは発表価値ありと判断した。

須川卓二 57歩成の防手対策で馬は54にいないといけないなど見所は多いのに、序の応手非限定や231手目95金も成立はちょっと残念。
神谷薫 堀半七+馬鋸で24手一サイクル24手を実現。「いったん54に近づく」および「82歩消去の往復型」が作者の主張ですね。還元玉の味付け等随所によく読み込まれた跡を感じる力作だと思います。しかし…(以下は個人的な感想)柳田明作(パラ’77.03)「変奏曲」(接近型)、駒場和雄作(めいと’85.02)「堀半七の世界」(遠ざかり型?)の先行作の存在を知っていて敢えて作図しなくても…と思ってしまいます。なんだか七條兼三条件作的な作図ですよね。作者の主張は判りますし、その主張でもって確かに後年に作図例として残るでしょう。でも、本作に要した時間はもっともっとオリジナルな作図にそそいで欲しいと思います。パラ???だとか本作だとかの作図に時間を費やすのはもったいない…作者のためにもそう思うのです。

☆作者にはオリジナル性豊かな作品の開発が期待されているということでしょう。

野口賢治 24銀成を決行するまでリピート趣向のスペシャリストが描いてみせた待ちの芸。
鈴川優希 5七歩成を避けるために、馬を近づけておく伏線は、鑑賞するだけでも相当の難手と分かります。還元玉の収束は素晴らしいですね。30年の歳月が実を結びました。
宮本慎一 銀と龍のコンビで寄せきる。
鈴木彊 序の2枚飛車で下段の玉を一筋に追い、中盤は一筋で飛と歩での上下移動を繰り返し、そこに馬鋸と玉方のと金の応手を織り交ぜる趣向は見事なものがある。終盤も盤の端を一周させての詰上がりとは感嘆あるのみです。誠に素晴らしい作品でした。摩利支天さんの会心の作です。30年の努力の賜と敬意を表したいと思います。
小林徹 手強いイントロをなんとか突破すればメインテーマ2枚飛車のエレベーターと馬鋸が始まる。馬が行って帰ってくれば少々長いが収束となる。期末に相応しい力作と思う。
加賀孝志 飛を横から縦に馬ノコ、歩の捌き、盛り沢山。回り道的手順もあり手数があっているか不安が残る。
和田登 馬と飛車の位置取りがポイントのおもしろい趣向

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