長編詰将棋の世界(44) 龍追いを馬鋸二往復で回す

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉(2011.8)

今年は詰将棋作品集が豊作だ。すでに「新約・神詰大全」、「四百人一局集」、「月下推敲」等が発行されている(はずだ)。特に「四百人一局集」は厚みに比例した読み応えのある内容で、今後30年は最も数多に紐解く詰棋書になることは間違いない。
これを機会に全詰連書籍部が活発に活動を始める事を期待してしている。書籍に纏めるというのは意義ある仕事だ。儲からない仕事だから全詰連の出番だろう。スタッフの手弁当に頼る現状は改善されなくてはならないが。
今月は新進気鋭の超長篇。手数は合わせて738手。しかし、読者諸賢はやさ院で「超長篇必ずしも難解ならず」とご理解頂いているはずだ。手順は上手く略記してください。


山崎健「龍馬伝」 詰パラ2011.8

 

96歩、85玉、95金、86玉、87金、同玉、
99桂、86玉、88龍、75玉、84龍、76玉、
85龍、77玉、
{87龍、68玉、78龍、59玉、69龍、48玉、
49龍、37玉、47龍、28玉、17龍、38玉、
27龍、48玉、47龍、59玉、49龍、68玉、
69龍、77玉、78龍、86玉、87龍、75玉}=
84龍、76玉、85龍、77玉、44馬、66と、

84龍、76玉、43馬、65と、
85龍、77玉、33馬、66と、

84龍、76玉、32馬、65と、
85龍、77玉、22馬、66と、

84龍、76玉、32馬、65と、
85龍、77玉、33馬、66と、

84龍、76玉、43馬、65と、
85龍、77玉、44馬、66と、

A25飛成、同と、84龍、76玉、
43馬、65と、85龍、77玉、33馬、66と、

84龍、76玉、32馬、65と、
85龍、77玉、22馬、66と、

84龍、76玉、21馬、65と、
85龍、77玉、11馬、66と、

84龍、76玉、21馬、65と、
85龍、77玉、22馬、66と、

84龍、76玉、32馬、65と、
85龍、77玉、33馬、66と、

84龍、76玉、43馬、65と、
85龍、77玉、44馬、66と、

85龍、64玉、55と、63玉、45馬、53玉、
44と、64玉、55馬、63玉、73馬、同玉、
84金、72玉、75龍、81玉、71龍、同玉、
72歩、同玉、73歩、81玉、82歩、同と、
同桂成、同玉、83歩、91玉、82金迄419手詰

66銀合は87龍以下右下で折り返して66馬、同と、78龍、86玉、87銀迄
65銀香合は右下で折り返してから65馬以下詰み、
A 85龍は64玉、84龍、74金、55と、63玉、54馬、同桂、同と、同玉、74龍、64角以下不詰

☆金と桂馬を配置すれば舞台作りは完成、龍追いが始まる。左辺から右下に渡る盤面半周のルートだ。

☆1周目は69との入手。

☆2周目からは無限ループになってしまう。当然考えるのは45馬の活用。85龍、77玉に対し、44馬と王手する。69とが消えているので、68玉の逃げには88龍、59玉、87馬、48玉、47銀で詰む。

☆3周目は43馬、33馬と動かす。もう馬を動かす目的は見えてきているはずだ。そう、22歩、11歩の入手である。持ち駒を3歩まで増やし、(おそらく馬を44まで引き戻して)収束となるのであろう。

☆しかしよく見ると馬鋸のルートに21飛が居る。この飛車をどかさねば11歩が入手できない。そこで33馬と戻して25飛成としたいが、それでは詰まないのが作者の工夫。なんと44馬まで戻してからでないと25飛成を同とと取ってくれない。

☆あとは予定通りの進行であるが、それでも収束で悩まれた方は多かったようだ。

某氏 馬鋸と龍追いで持駒歩3枚にして収束だと思うのですが、収束がわからずギブアップです。

☆収束は84龍でなく85龍と上辺に押し出すところから始まる。と金と馬を繰り変えて73馬と鮮やかに只捨てするのが妙手だ。

☆さらに龍も切り捨て、主役の龍・馬が盤面から退場。消え去ることによって、より強く印象を残す伝統的な演出だ。見事である。

作者 すべて既存の手筋であり新しい点はありませんが、きっちり44地点まで2往復させること、収束で龍・馬ともきれいに消すことにとても苦労しました。

☆作者は謙遜するが、馬鋸を2往復にした事は高く評価された。先行作である糟谷祐介「天人五衰」との差別化を図る点であり、400手超をなしえた鍵である。

永島勝利 馬鋸を1往復した後、邪魔駒になっていた飛を捨てて、再び馬鋸を始めるという構想が非常に面白い。書いてしまうと簡単なようだが、飛車を捨てる際の馬の位置が玉のそばでなければいけないという点を実現するのは決して易しくないものと創造。作者のアイデアと手腕に脱帽です。
竹中健一 馬と竜が大忙しですね、味方の邪魔な飛のために。。。(笑)

☆また収束に苦労した甲斐もあったようだ。

野口賢治 下段へ落とす85龍のチャンスを伺うまでの単純明快なプロット。大駒を消す収束をみると短編と大差ないのではとさえ思ってしまう。
鈴木 彊 龍の追い回しに馬鋸を絡めて飛の成り捨てなどの見せ場があり、最後に馬と龍を捨てての収束も決まっていて素晴らしい。新人とは思えない内容ある作品です。

☆この作者であるから望蜀ではなかろう。さらに1手馬鋸への進化を期待する声も多かった。

増田智彬 収束も決まっていて素晴らしいと思います。ただ私的には「桃花源」を彷彿させ、1手馬ノコとか出来ないかな、と考えてしまいます。
名越健将 手順中、43馬からすぐに33馬のラインに行くのが惜しまれる。ここでサイクルを入れられれば、800手超えも可能なのだが。
須川卓二 メインでは馬が1回で2つ動く機構ながらこの手数とは驚きです。題名もピッタリ。

☆期待される作者も辛いものだ。しかし、その期待に是非応えて欲しい。


※解説中で言及された「天人五衰」は下図。

糟谷祐介「天人五衰」 詰パラ2002.11

 

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