※この連載は風みどりが1題ずつ高木秀次作品集『千早城』(1993)を読んでいくものです。
第34番 風ぐるま 1955.07
今月もなんとか解くことが出来た。序盤で30分近く迷走したが、これは強い方ならサラリと通り過ぎるところだろう。主眼部分はとても易しく気持ちの良い作品だ。是非挑戦されることをお勧めする。
下辺がすべて攻方の駒で守備駒は上辺にしかいない。ちょっと変わった感じがする。玉を引き出せば簡単だがそこまでが難しそう。
しかし持駒が歩しかないので手は限られているのが心強い。でも5枚もどこで使うのだろう?
まずは直観で進めてみて感触を確かめよう。
12歩、同玉、13歩、11玉、21香成、
まずは歩を叩いて、13歩を配置し、21香成としてみたい。
1筋だけで攻めても玉が戻れば歩だけでは攻めようがない。23歩が邪魔駒なのは明らかだ。そして23歩を消すためには22香が邪魔になる。
21香成と捨てるのは必然。
同玉、
自信満々に進めてきたのに、同玉とされてみると途端にさっきまでの自信が胡散霧消してしまう。これは弱い人共通の心情だと思うのだが如何だろうか。
32玉と逃げられたら守りが強すぎでもう絶望の局面のように見える。12歩成、32玉、22歩成、41玉と追っても左辺に逃げるのを阻止する手段がない。
33の地点には馬金角と3枚も利いているが、玉方も銀銀香と3枚利いているから数では互角。
試しに少し進めてみようか。
22歩成、同玉、33金、同香、
せめて銀が手に入ればと思ったが、これでは角を切っても香しか手に入らない。
これは詰まない。手を戻そう。
2手目の局面まで戻して考えてみると、16桂を活用する順が見えてきた。これで33とを剥がせそうだ。
13金、同玉、14歩、12玉、24桂、
桂馬で攻めれば、11玉と戻られても21香成、同玉、22歩成、同玉、12馬までで詰む。これは作意の手応えありだ。
同と、13歩成、同玉
さて24とをどの駒で取るかが問題だ。
24銀は14玉でどうしようもないからまず却下。
角か馬だが、普通は馬を残して角で取るだろう。
24角、12玉、13歩、11玉、21香成、同玉、
やはりここから詰みそうに思えない。
24角ではなく24銀の形だったら22歩成、同玉、23銀成で詰むのだが、24銀としたら14玉となり23歩が消えていないと23馬とできずに立ち往生する。
銀を進める前に23歩を消さなければいけないのだ。
16桂は活用できたので、今度は46桂を使うのか?ちょっと戻してみる。
(24角、12玉のあと)13角成、同玉、24馬、12玉
いや、これだったら15角を無駄に捨てているだけだ。10手目の局面から24馬とした方が良いに決まっている。
(10手目から)24馬、12玉、
なんか益々駒が渋滞しているような気もするが……。
13歩、11玉、21香成、同玉、22歩成、同玉、34桂、
34桂なら42にも届くのでなんとかならないかと思ったのだが……
なんともならないようだ。同香でなにも起こらないし、11玉と戻られても困る。
また局面を戻して考え直そう。
と金を剥がす順が作意っぽいのでこの局面までは正しいと思って進めてきたが、銀角馬どれで取っても失敗した。
もっと戻す決心をするときのようだ。
とすると、最初に諦めたこの局面か。
あれ?
本線の12歩成は試してみたんだっけ?
12歩成、32玉、
33の地点は数で有利でないからなんて試さなかった局面だこれ。生兵法は怪我の元とは正にこのこと。
32玉なら香が隠れるから、これ銀が手に入るよね。
33金、同銀、同角成、同銀、43銀、
これ、詰む形。
42歩とは二歩なので打てないけど16桂がいる。
41玉、52銀成、32玉、24桂、同銀、22歩成まで。
……詰んでる。ということは、
(12歩成、)同玉、
8手目は同玉。おぉ、最初の直観であってたんじゃないか。
次は23歩を消す—22歩成のタイミングだ。
13金、同玉、14歩、12玉、24桂、
まだまだ。あせってはいけない。
同と、13歩成、同玉、24角、12玉、
ここだ! ここしかない!
22歩成、同玉、13角成、
32玉とされても23馬右、21玉、22歩、11玉、12馬までで捕まえることができる。
このピッタリ感は今度こそ作意の感触。(だといいけど……)
同玉、24銀、14玉、23馬、25玉、
いよいよ24銀と立ち玉を引き出すことに成功。23歩が消えているので23馬と追えるという仕組み。
さて打歩詰の局面だが、ここからは一瞬で詰んだ。これは……慣れてるからとしか説明のしようがない。
(一瞬の訳ないだろという方へ。将棋では1分以内に指せば記録は0秒です。一瞬でしょ)
37桂、同香成、36金、同成香、26歩、同成香、
16銀、同成香、34馬、
怒濤の捨駒4連発。
14玉、15歩、同成香、23銀不成、13玉、
14歩、同成香、12銀成まで43手詰。
「17手詰を一瞬で解けるなんて凄い」と思ってくれるのはほんの一時期だけ、すぐに「うん、これなら俺でも一瞬だな」という感想になっちゃうんだよね。(本当です)
序盤でもうちょっとちゃんと考えていればあっさり解説したんだろうとも思う。でも作者が「易しい」という作品でも(そして易しいのは嘘でなくても)解答者は今回のようにちょっとした見逃しで本線から外れると延々と迷走するというのもよくあること。
本作は狙いは31香が6回も動いた末に玉の命運を断つ順だが、序の23歩の邪魔駒消去が19手目にやっと実現するという粘り強さも見どころの作品だった。