詰将棋入門(5) 歩頭の馬鋸

三代伊藤宗看  無双 第70番 1734

天才・伊藤看寿の作品4局を並べたが、その兄の三代伊藤宗看も「将棋無双」という作品集を残している。

その中から1局だけ紹介するとしたらこの第70番だ。

初手は17銀しかなさそうだ。
38玉は16馬、27合、同馬、同玉、16角成で大丈夫。
なので、同玉。

次も26銀しかなさそうだ。28玉は37銀、同玉、39龍以下なんとかなりそう。
同玉に16馬以下2枚角の威力で玉を大きく動かす。

17銀、同玉、26銀、同玉、16馬、35玉、25馬、44玉、
34馬、53玉、43馬、62玉、52角成、71玉、61馬、81玉、
54馬、92玉、65馬、

92玉に84桂では93玉で後続がないので65馬と英断し歩を入手する。
同歩に84桂、93玉、94歩、84玉、85銀左まで…あっさり詰んだと思いきや

93玉、

93玉と躱されてみると、これが打歩詰の形。
92馬と捨てても同飛で状況は変わらない。
75馬としてもやはり取って貰えず92玉、74馬、同香で今度は後で73から逃げられる。

94馬、同玉、85銀左、93玉、
84銀、94玉、95銀上、85玉、86歩、96玉で失敗図

そこで94馬とこちらの馬を捨てて銀をにじりよると、するすると潜り込まれて96玉。
もう後続手段がない。
いや、88金や99金の配置から考えて、こちらに誘導するのは正しいはずだ。
あと1歩あれば良いのである。

これで作者からの謎が明らかになる。
「この局面になるまでに1歩を入手せよ」

さて、いかなる方法で1歩を得るのであろうか。

17銀、同玉、26銀、同玉、29龍、

正解は5手目に29龍と捨てる。
もちろん同とと取られる。
この2手が何を意味するのかは後でわかることになる。

同と、16馬、35玉、
25馬、44玉、34馬、53玉、43馬、62玉、52角成、71玉、
61馬、81玉、54馬、92玉、65馬、93玉、

この辺りは先の失敗した手順と同じ進行だ。

66馬、92玉、56馬、

駒を玉に近づけて攻方の勢力を強めるのが「詰」に至る常識なのに、馬を玉から遠ざける。
56馬と歩頭に進めてもとれない理屈は先程と同じだ。

93玉、57馬、92玉、47馬、

なんとも不思議な光景だ。

93玉、48馬、92玉、38馬、93玉、39馬、

平然とと金の効きに馬を進めていく。
92玉、29馬、


これで、29龍と捨てた意味が明らかになった。
歩が入手できたわけだ。
93玉、39馬、92玉、
38馬、93玉、48馬、92玉、47馬、93玉、57馬、92玉、
56馬、93玉、66馬、92玉、65馬、93玉、94馬、

同じ道を戻って、65馬まで一往復。

この馬をジグザグに王手をかけながら遠ざかったり近づいたりする手順を馬鋸(ウマノコ)という。
馬鋸は本作が初めてではないが、「取られるのではないか」というスリリングな演出で仕上げたのは本作が始めて。

そして既に予習済みの94馬だ。

同玉、85銀左、93玉、84銀、94玉、95銀上、85玉、86歩、96玉、
97歩、

失敗図の局面で歩が打てるようになった。
後は易しい手順である。

同玉、88金、同玉、55馬、97玉、87金、同玉、
78金、96玉、97歩、同玉、88馬、96玉、87金 まで79手詰

まとめると

  • いかに1歩を入手するかという謎を
  • 29龍という強力な捨駒の伏線と
  • 歩頭を馬鋸するという離れ技の複合で解決する傑作だ。

三代宗看の「無双」についてもっと知りたいという方は次の情報がお薦めだ。

馬鋸についてもっと知りたいという方は次の資料を見つけると良いだろう。

  • 護堂浩之「新馬子唄集」(詰棋めいと連載)
  • 大塚播州「漫陀楽」第3巻第3部ノコ引趣向の抜粋紹介第1章馬ノコ引趣向

ついでにこんなのもあります。
風みどり「1歩入手方法の研究」(「この詰将棋がすごい!2019」)

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