詰将棋のルール論争(8) 無駄合のつづき

1 詰将棋の範囲

1-4 無駄合

このエントリーはルール論争(7)無駄合 のつづきです。

【図21】と似た図を思いつきました。これは無駄合でしょうか?
玉方の持駒に注意してください。

【図25】

「まったく問題なし」が50%を切りました。
といっても【図20】も54%だからたいして変わらないか……。

さて,この無駄合ですがどうも詰将棋特有の概念のようです。
チェスプロブレムには無駄合という考え方はありませんし,フェアリールールのばか詰でも昔は透かし詰が認められていましたが1992年7月以降は禁止されました。

それでは詰将棋でも無駄合を禁止することは可能なのでしょうか?

無駄合の禁止によって透かし詰が認められなくなるだけならば,超短編詰将棋や曲詰に影響がある程度かもしれません。
しかし,話はそれだけにとどまりません。

【図26】は易しい7手詰です。

【図26】

    19金、39玉、49金、同玉、59飛、48玉、58金まで7手詰

一見無駄合とは関係のない作品のように見えます。
しかし,そうではありません。
もし,無駄合を認めないとすると,この作品は
19金,同玉,13飛,14歩,同飛成,15歩,同飛成,16歩,同飛成,17歩,同飛成,29玉,18龍,39玉,38龍まで15手詰歩5枚余り
という不完全作になってしまいます。

少なくとも超短編は常に如何に変化を切るかに苦心惨憺しています。
さらに飛車角の使用頻度も高いので無駄合概念がなくなると超短編の世界はかなりのダメージを受けるものと思われます。少なくとも景色は一変するでしょう。

1-4-1 復元型無駄合

原形復帰型無駄合とか復元型無駄合とかまだ名称はゆらいでいますが、加藤さんの「詰将棋メモ」にあわせて復元型無駄合とします。

これは馬鋸が発生起源の概念のように思います。
(見たこともないのに想像で教える歴史教員の如く書いてみますと)
【図27】は「象戯大矢数」1697.6番外の図です。
【図27】

72馬、91玉で【図28】

【図28】

ここから73馬~63馬~64馬~54馬~55馬~45馬~46馬~36馬と馬鋸をすすめます。
91玉では37馬から27馬と桂馬を取られてしまうので、ここで72歩と間駒をすると

【図29】

同馬と取るしかありません。【図30】となります。

【図30】

【図28】と【図30】を比較すると攻方の持駒だけが無条件に歩1枚増えています。

これを17回繰り返して300手を超える長篇と喧伝されたこともあるようです。

通常の無駄合は線駒の位置を移動させますが攻方の持駒が増えます。
この場合はまったく局面は変化しないのに攻方の持駒だけが増えます。
つまり72歩という手は、玉方の受け手なのに玉方に利することが皆無の着手だということです。
(通常の合駒よりも!)

そこで72歩は無駄合としようとなったのだと思います。
手数は2手所でなく18手も伸びるのですが。

状況を単純にしたのが【図31】です。

【図31】

  • 47角、38歩合、同馬、18玉、36角、27桂合、同馬、29玉
    これで同じ局面が復元され、攻方の持駒が増えています。
  • そこで38歩合は無駄合とすると
    47角、39玉、38馬まで3手詰

「STARSHIP TROOPER」を採用した私としては、思ったより盤面復元型無駄合を許容する意見が多くて安心しました。「古時計」の応援演説をされた安江さんのコメントもありますが、「こんな面白いことを考えた」という発表の場を狭めるのは困るなと思います。
ただ1つの作品の中で、ある場面では無駄合を主張し、別の場面では有効合を主張するような作品もあって、それは都合良すぎるだろと思います。(具体例は不採用で返送してしまったので忘れました)

この無駄合の考え方は馬鋸のみならず龍鋸や龍追いなど様々な長篇に応用可能です。
しかし、幾度も議論になってきました。

最近では「詰将棋おもちゃ箱」の加藤徹さんの復元型の無駄合が問題提起と提案をしています。
筆者も摩利支天「STARSHIP TROOPER」の解説をしているので無関係ではないのですが、このテキストはこのような論点があることを示すのが目的ですので、これ以上は踏み込まないことにします。

ひとつだけ、用語についてなのですが、復元型無駄合ではなにを復元するのかちょっと分かりにくいので、盤面復元型無駄合と呼ぶことを提案します。
上の文章では局面と使っているのですが、使ってみて反省したのです。
局面という言葉は攻方・玉方の持駒も含めた概念だと思うので、持駒以外という意味を強調して盤面といれました。

最後に大矢数の手順を気になる方もいらっしゃると思うので紹介しておきます。

象戯大矢数 番外 1697

 


追記(2020.7.14)(2020.7.19)

妙手説ですね。さすが!
はっきりいって賛成です。

柿木将棋の解釈も色々あって面白いので試してください。
(38馬,47角/18玉で始めると違う解釈になる。また19飛を19銀にするとこれまた変わってきます。)

もっとあったと思うけど、見つからない。ふぅ。
みなさん、どうぞコメントしてください。つぶやくだけじゃなく。お願いします。

作家は解答者を意識してこそ作家なのですね。

持駒が増えてきたら別の詰み筋も発生する場合があるということでしょうか。
なので定義がめんどくさくなるぞと。
堀口さんの「解答者に無駄合かどうかの判定にめんどくささを感じさせるのはあかん!」
という意見に近い?

「詰将棋のルール論争(8) 無駄合のつづき」への10件のフィードバック

  1. 無駄合とは決め事です。決め事とは「定義」で、Aと決めればA、Bと決めればBになります。

    では、どう決めればいいのか?

    例えば「馬ノコ」だけは盤面復元型無駄合(私は原型復帰型と呼びますが)と認め、その他の復元型は有効合とする。こんな考え方にはまったく論理性がなく論外です。

    定義を決めるにも、定義の論理的な説明ができない定義は無意味。上の決め事には「馬ノコ」だけを例外とする論理的根拠がありません。

    盤面復元型無駄合を認めないなら、すべてを有効合としなければならず、これまで作られてきた多くの作品に「不完全作」の烙印を押さねばなりません。それも一時的なことだから構わないというなら、これから発表される作品では、有効合として排除しようと決めればそれでよいと思います。

    ですが、もっとも大切な「詰将棋の楽しさ」や「可能性」を消し去る覚悟をしてからやるべし。

    無駄合をルールで厳しくすればするほど、詰将棋の楽しさ、面白さ、広がる可能性を消してしまいます。私がもっとも恐れるのがここです。自ら詰将棋の可能性を消してはいけない。

    従って、無駄合かどうか迷う「ほぼすべてのケースを無駄合とすべし」が個人の意見ですね。ルールは緩く、各個人の考え方に沿って、評価は自由にです。

    1. 慣習を定義しようと試みても、慣習は論理的ではないので不可能と考えています。
      特に無駄合は例外則なので、無駄と感じさせるのは作者の演出次第なのではないでしょうか。

  2. チェスは取り捨て制で、合駒は移動合のみなので、チェスプロブレム に無駄合概念がないのは当たり前でしょう。無駄合順で作意が死ぬこと自体が殆ど有り得ないのですから。

    1. おっしゃっている意味がよく分かりません。図21も持駒が実質ない場合です。

      1. 図25でしょうか?

        取り捨て制ならば、移動合を取っても駒が余るわけではないので、無駄合概念がないのは当然でしょう。手余り不完全という規則があるから無駄合概念が必要なのだと思います。

        移動合で作意が死ぬなら移動合ができない構図にすればいいだけです。しかし任意持駒の無駄合は簡単には消せません。

  3. 「取り捨て制ならば無駄合に相当する局面は存在しない」という強い主張ではありません。「取り捨て制ならば無駄合という概念がなくても創作する上で大きな不都合はない」というだけの主張です。

  4. 無駄合か否かの判定は、正解手順を限定しかつ持駒が余らないようにしたいという欲求のためにあります。いたって日本的な、品質を過剰に求める悪習だと思います。結果発表において合駒をしない手順を示したうえで、合駒をする解答も正解扱いにすればなんら問題ありません。

  5. 初心者の意見なので見当違いかもしれませんが、「その合駒をすることで手数が2手しか伸びないなら無駄合い」とすることはできないでしょうか?
    具体的には、「一度無駄合いOKのルールで詰将棋の手数を仮に決めて、合駒した箇所を最初からそれぞれチェック。『その地点への合駒を禁止して以後合駒OK』のルールで再度詰将棋を解く。その手数の差が2手ならチェックした合駒は無駄合い。以後すべての合駒について繰り返し」ということです。

    1. 風みどりはその案で十分ではないかと思います。(「駒が余って」が抜けていますよね)
      ルールは単純にして発表機会は広くとり、あとは評価で差をつければ良いかと。

      しかし【図18】の22合は無駄合と感じる人は数少ないのが現状なのです。

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