写本の序
風ぐるま誌は地方の高知県将棋連盟んぼ島村俊雄氏が刊行されたユニークな将棋雑誌である。
創刊は昭和26年11月号で、終刊は昭和31年4月号である。途中31年の2月と3月は合併号である以外は毎月正確に発行されている。
創刊から27年4月迄の6号分はB5版の大判でわら半紙の紙質の悪いもので8頁だてで、いわば雑誌と云うより新聞の形態であったが、7号より表しもつきB6版の小形に変わり、雑誌らしいものになった。
詰将棋にもかなり力をいれており、日本全国の詰将棋作家が集って、力を競っている。
(中略)
上巻は大塚播州、中・下巻は石沢孝治の分担で写本したものである。
上巻には587局、中巻には646局、下巻には710局もの詰将棋が載っている。
詰将棋の世界に顔をつっこんだが、初心者の私は圧倒的に詰将棋の知識が足りなかった。
本屋で売っているプロ棋士の啓蒙用の作品しか載っていない本では意味がなかった。
古本屋で近代将棋のバックナンバーを買ったり、妻木先輩から詰パラのバックナンバーを借りたり……。
(ここらへん「わかるわかる」と頷いている人多数いるはず)
そういう初心者の飢えを満たしてくれたのが、石沢孝治氏の発行するリコピー作品集だった。
この図面だけが無骨に並んでいる作品集を順に解いていった。
いや殆ど解けなかったので、正解を見て作意を並べた。
すると図面の海の中に、宝物が埋まっているのである。
94番は小川悦勇の「風ぐるま」だ。(最近、28歩と94桂が気に入らなくて改作している。)
この作品には本当に驚き、感動した。
その下は駒場和男「おのろけ姫」の原図だろう。
高木秀次を知ったのもこの本だ。
その下はメモがないが黒川一郎「王昭君」だ。
こういう宝探しは楽しかった。
つみき書店でやりたいことに書いた石沢さんの青焼き本とはこれらの本のことだ。
今だったら、「詰将棋の詩」や「春棋会報」の作品集を作れば初心者に喜ばれると思うのだが「恥ずかしいからやめて!」という人がいるので着手できないでいる。
それはともかく、次の作品もこの青焼き本で出会った作品だ。
40数年前に気に入って、昨年「Limit 7」にも収録させていただいた。